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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【原動編】 第2章 逃亡
122/126

14 言の葉

 はじめに感じたのは、柔らかな感触。そして湿り気を帯びた温かさ。

 クロウははじめ、自分が何をされたのか、理解できなかった。

 数瞬の後、自分に押し当てられたものが、ミソラの唇であることを理解した。


「んん…」


 ミソラは目を閉じ、頬を赤く染めながら、シートへと唇を押し当てている。

 一方のクロウは、そんなミソラから与えられた感触を、受けいれていた。


 これは…キス?


 クロウにとってそれは、生まれて初めての経験であった。

 今までの人生の中で、クロウはキスをした経験がなかった。

 まさか機械の身になってから経験するとは…


 謎の多幸感が、クロウを包み込む。


 ミソラ…


 初めての感触に対して、それを与えてくれた相手に対して、クロウは何かを返したいと考えた。


 結果、接触部に意識を集中する。

 そんなことをしても、意味はないのかもしれない。

 だが、クロウは彼女に対して――自分に思いを告げてくれた相手に対して、自分の気持ちを伝えたいと考えた。

 しかもそれを、言葉ではない、他の形で…


「っ…んんっ」


 くぐもった声が、コクピット内に響いた。それはクロウがミソラの唇に対して、意識を集中したのと同時であった。

 柔らかな感触が、さらに増す。


 俺の思いが、伝わった…のか?


 そんなことを考えながら、クロウは唇へと意識を集中する。


「ん…っ、んん、ふぅ」


 シトラスの――ミソラのシャンプーの香りが、いつもより強く感じられた。

 それは彼女の頭が接近しているからなのか、ミソラとの距離をいつも以上に近く感じたからなのか。

 理由はわからない。

 2人はしばらくの間、口づけを楽しんだ。


 ◇ ◇ ◇


 唇が離れた後も、ミソラの顔は赤いままだった。


「…どうだった?」


 ミソラはシートから体を離した後、うつむきながら、小さな声でそう聞いてきた。


「えっと、キスってこういう感触なんだな…」


 直後、振動がクロウを襲った。

 ミソラの拳がシートにたたき付けられたのだ。


「いってぇ!」


「もう、き、キスとかそんなこと言わないでよ!」


 ミソラは耳たぶまで真っ赤にして叫ぶ。


「い、いや…だって、今のって…そういうことだろ?」


「もうバカ! アンタには情緒ってものがないわけ!」

 」

 そんなこと言われても、と思うクロウである。

 クロウにとっても、こんな体験は初めてで、余裕を持った回答ができなかったのである。


「ご、ごめん…」


 なので、いつも通り謝ることしかできない。

 そんなクロウを見て、ミソラは…


「ぷっ…あはは」


 いつものように、明るく笑うのだった。


「アンタって、本当に変わらないのねー」


 それは、リラックスした時の…クロウが大好きなミソラの笑顔だった。

 そんな彼女の笑顔を見て、クロウは胸の奥が熱くなるのを感じる。


「…まぁな」


 なんとも締まらない回答をしてしまっているのを自覚しながら、クロウはそう答えた。


「いいわよ。アタシはそういうアンタのことが気に入ってるわけだし」


 そう言うと、ミソラは再びシートへ顔を埋めてきた。

 キスをする…という体勢ではない、どちらかというと、胸に顔を埋めるような体勢だ。

 彼女の両手がシートの裏側へと伸びる。

 まるで恋人にするかのように、ミソラはシートへと抱きついていた。


「…それに…初めて同士っていうのも、嬉しかった」


「ああ…俺も…嬉しかったよ」


 くぐもった声に、クロウは自分の気持ちを返した。


「…クロウ」


 ミソラはシートに顔を埋めたまま、クロウの名前を呼ぶ。

 クロウは胸元に、彼女の温かな息があたるのを感じた。


「どうした?」


「アタシ、そんなに軽い女じゃないから。だから、こういうのは大切にしたいと思ってる」


 ミソラは一言一言、ゆっくりと…そう告げる。


「だから…アタシを泣かせるようなこと、しないでよ」


「それって…」


 その言葉の意味を、クロウは聞き返そうとするが…


「それだけ」


 それよりも早く、ミソラはシートから身を起こすと、ハッチの開閉ボタンを押した。

 そのまま彼女は、コクピットの外に出て行く。


「おい、ミソラ!」


 クロウは、そんな彼女へと声をかけようとするが…

 それよりも早くハッチが閉まる。

 クロウの意思など、無視するかのように。


「なんだよ…」


 1人になったコクピットで、クロウは呟いた。

 ミソラの言葉の意味…それは…


「…やるだけ、やってみるさ」


 コクピットに浮かんだ、数滴の涙を眺めながら…

 クロウは、そう決意するのだった。


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