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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【原動編】 第2章 逃亡
119/126

11 人類の楯

 ◇ ◇ ◇

 オペレーション・エクソダス。

 ヘビの道の先にある人類居住が可能な恒星系、シャングリラへの逃避作戦。


 点在する小惑星帯や宇宙嵐により一度に限られた数の艦船しか通れない狭い航路。

 超長距離ワープが使えないことによる、長期間に及ぶ航海。

 さらに参加艦艇は大小合わせて80万隻を超える。

 このような超大規模船団による移動は、人類史上初であった。


 不安要素は多数存在する。

 しかし、人類はこの作戦に賭けるしかない。

 やらなければ、生き残ることができないのだから。


 ◇ ◇ ◇


 ヴァルハラの司令室にミソラが訪れたのは、作戦が発表されてから1時間後のことであった。


「どうしたんだい、こんな夜更けに」


 興奮した様子のミソラに対し、アリーヨは顔色一つ変えず、いつもの調子で答えた。


「司令! これはどういうことなんです!」


 そう叫ぶミソラの目の前には、ホログラムが浮かんでいる。

 そこにはオペレーション・エクソダスにおける殲闘騎パイロットたちの扱いについて書かれていた。


「ああ、それか…納得できないかい?」


「当たり前です!」


 彼女たちが渡された指令書には、このようなことが書かれていた。


 ヘビの道入り口の防衛は、司令自らが創設した特殊防衛部隊が担当する。

 この任務にはエインヘリアル・システムを搭載した自律行動型の殲闘騎を使用する。

 各殲闘騎パイロットは、各避難艦艇へと乗り込みその風紀の安定維持に勤めよ。

 なお、現在各艦艇に配備されているエインヘリアルシステム搭載殲闘騎――シグルドシリーズは、全騎艦から降ろし、ヘビの道防衛のための戦力とする。


「私たちはずっと宇宙怪獣と戦ってきました! なのに、この大事な戦いに参加できない上に殲闘騎まで降ろすなんて!」


 ミソラの反応は当然のものであった。

 司令室に押しかけるほどではないが、その他のパイロットたちも、作戦命令を読み困惑していた。

 彼らは今まで宇宙怪獣と戦い続け、人々の生活を守ってきたという自負があった。

 だが今回、軍はそんな彼らに戦わずに逃げろという命令を下したのだ。


「だが、これが一番被害を少なくする方法だ。それにヘビの道に入れば宇宙怪獣との戦闘は起きない。機体を降ろせば、その分そのスペースに生活物資をおける。これは作戦の成功確率を1パーセントでもあげるため、必要なことじゃないのか?」


 そんな彼女の不満に答えたのは、アリーヨではなく、別の人物だった。


「アンタ…!」


 司令室に置かれた筐体を通じて、クロウ・シノサカが答えたのだ。


「私は今、司令と話してるの! アンタは入ってこないで!」


 我ながら、冷静さを欠いた。ミソラは後悔した。

 彼女とクロウは文字通り一心同体で、共に戦い続けてきた戦友であったが、ここ最近すれ違いをおこしていたのだ。


「だが、俺の言いたいことはわかるだろ。生き残る人類は1人でも多くしなければいけない」


 クロウの言葉に神経が逆なでされる。

 それは、ミソラがクロウの言葉の意図を理解しているからで…


「どうしてよ…」


 口の中に、鉄の味が広がる。

 食いしばった歯が、彼女の口の中を切ったのだ。


「意図としては、彼が言った通りだ。そして僕と彼とで十分に話し合った末に下した結論でもある」


 震えるミソラを見かねたのか、アリーヨが告げる。


「クロウを…クロウだけが戦うことで、人類の被害を一番少なくできる…ってことですよね」


「そうだ」


 ミソラは分かっていた。

 なぜアリーヨがこんな作戦を考えたのかも、クロウがどうしてその作戦を受け入れたのかも。


 殲闘騎はパイロットが乗り込むことで戦闘が可能になる。

 ただし、エインヘリアルシステムを搭載した殲闘騎なら、話は別だ。

 殲闘騎は、エインヘリアルシステムの一部になったクロウが操縦すればいい。

 もちろん犠牲は出るが、パイロットとしての死者は発生しない。


 クロウは以前、ミソラに対して自分はもう人間ではないと話していた。

 だからこそ、彼はこう考えたのだ。

 殲闘騎パイロットを含め、人的被害を少しでも減らすためにも自らが楯になろうと。


 理屈では分かっていた。

 だが、ミソラの感情がそれを許してはくれない。

 それは、今にもあふれ出してしまいそうで…


「…すいません。出過ぎた真似をしてしまいました」


 ミソラはアリーヨたちへ背を向けた。

 今の自分の顔を、誰にも見られたくなかったのだ。


「失礼…いたします」


 本来なら、司令室におしかけるなどという無礼は、許される行為ではない。

 だが、アリーヨは、彼女を呼び止めなかった。


 扉が開き、ミソラは無言で部屋を後にした。


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