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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【原動編】 第2章 逃亡
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9 オーディンにて

「星に人在れば、その星光り輝く」


 数年前、宇宙開拓者を募集する広告で使われた文言だ。

 この言葉は公募によって選ばれ、勇ましく宇宙を進む開拓船の映像と共に、全人類の生存圏へと届けられた。

 人が住む星には、光が灯る。その灯火は、開拓の証でもあった。

 この光は、開拓者をはじめとする宇宙の民たちから、星光と呼ばれていた。


 この光を、1つでも多く灯そう。

 そう願い、開拓者たちは宇宙を旅していた。


 しかし、現在その灯火は宇宙怪獣という生命体によって、吹き消されようとしていた。


【アスガルズ恒星系第一惑星オーディン】

 ユグドラシル星団――人類が手にした4つの中心星団のうちの1つ。その中心的惑星であるオーディンの様子は、この2週間で様変わりしていた。


 開拓船、戦闘艦、あらゆる種類の宇宙艦船がオーディンの周囲を囲んでいた。

 80万隻を超える船たちは、何層にも重なりながら、そのどれもがオーディンに背を向け、船首は宇宙の彼方へと向いていた。

 その光景は、剣山のようであった。遠くから見れば、オーディンの星光すらも見えない。 それは宇宙怪獣の襲撃を受け、オーディンへと逃げてきた人々が乗る船であった。


 銀河連合の指示に従い、命からがらこの地までやってきた彼らだったが、オーディンの大地は、彼ら全てを受け入れるほどの土地を持っていなかった。

 もちろん、他の惑星にも、そんな余裕はない。

 事態は刻一刻と悪化しており、現在、人々が住める星は、数えるほどしかないのだ。


 結果、難民たちは連合の指示に従い、オーディンの軌道上での生活を余儀なくされていた。

 開拓船内や各艦艇の内部に自給自足用の設備があったのが幸いであった。

 それがなければ、船に乗った人々は、宇宙の暗闇の中で飢え、そして死を待つしか無かったのだから。


 だが、それは本当に幸せだったのだろうか。

 人々は考える。

 これは、ただ苦しみの時間を延ばしているだけなのではないかと。


 現在、オーディンに対して、宇宙怪獣は襲撃を行っていない。

 だが、遠くない未来。やつらは現れる。

 いくら軍事力を結集したとしても、損害は0にはならない。

 そして宇宙怪獣は圧倒的な数を持ってして、人類のリソースを削っていくことになるだろう。

 人類はじっくりと時間をかけてすりつぶされていくのかもしれない。

 その地獄を、見ることになるのは…


 避難してきた船の中で暴動が起きたものは、銀河連合が予想していた数よりも、遙かに少なかった。しかし、その一方、予想を遙かに超える数の自殺者が、難民の中から出ていた。


 オーディンの周りでは、目に見えない不安、絶望、それらで構成された分厚い雲が漂っていた。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間11月30日 17時00分

 現状を打開するための方策は、何も考えられていないわけではなかった。

 オーディンのランドマーク、銀河連合技術研究開発本部。

 その内部に設けられた大会議上では、宇宙怪獣への対策が議論されていた。

 会議に参加する面々は、銀河連合内に存在する、あるいはしていた主要な省庁の高官たちである。

 宇宙怪獣の襲撃を受け命を落とした高官も数多くいたが、生き残った役人たちの3日3晩に渡る人事作業によって、新任の高官たちはすぐに決定した。


 その構成員の中には、銀河連合軍の若き司令官アリーヨも含まれていた。

 首都星ゼウスの陥落。その他重要惑星の襲撃。それらによって、銀河連合軍のトップ達は軒並み戦死してしまったのであった。

 結果、何の因果か現在、アリーヨが軍のトップとなってしまっていた。


 こういうのは自分の柄じゃない。

 そう思うアリーヨではあったが、その台詞は心の内にしまっておいた。

 なぜなら、そんなことを言う余裕すら、現在の人類にはないのである。


 そうして彼は、今彼が求められていること、それだけに集中した。

 それは、軍の代表として宇宙怪獣を壊滅させる案を出すことでは、もちろんない。

 人類という種が、これからも生き残るための案を考えること。

 そのための方法を、脳から絞りだすために全力を尽くした。


 そうして彼は、宇宙開拓省や、航宙省の人間たち――あらゆる省庁のトップと議論を重ね、協力し、1つの案を議会に提出した。


「では、決をとる」


 議長席に座るフランドロの声は、疲れ切っていた。

 無理もない。

 7日間、会議はほぼ不眠不休の状態で続いていた。

 この議場にいる誰もが、睡眠の時間を削って、宇宙怪獣への対策を考えてきた。


「宇宙開拓省、航宙省、そして銀河連合軍による合同案――開拓不可能宙域への移住案に賛成の者は、挙手を」


 それは、この会議が始まってから初めての、過半数を超える賛成が得られた案であった。

「では、この案は採択とする。各省庁は計画書に従い、1日でも早く計画が実行できるよう動きはじめるように!」


 議場に拍手が起きる。

 拍手が鳴り止むか鳴り止まないかのタイミングで、アリーヨは議場を後にした。

 不眠不休で働くアリーヨであったが、その顔に疲れの色はない。


 これからが、正念場だ。

 成功率を上げるために…損耗率を下げるために、少しでも作戦の粒度をあげなければ…


 …辛い、作戦になる。


 大きな決意と、小さな迷いを胸に、アリーヨはある人物の元へと歩きはじめた。

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