5 苛立ち
統一時間11月15日 19時45分
「次ぃっ!」
ミソラの叫びに呼応して、シグルドⅡがグラムを振るう。
同時に、数匹の宇宙怪獣がその生命を終える。
ヴァルハラ所属の殲闘騎部隊――正確には、ミソラとシグルドⅡの到着によって、宇宙怪獣にも損害が出始めていた。
シグルドⅡは宇宙怪獣の群れに突っ込み、1分もしないうちにそのことごとくを斬り伏せていたのである。
グラムの刀身が、エメラルドグリーンに輝く。
宇宙怪獣たちもバカではない。その光を見ると同時に、回避行動を取ろうとする。
しかし、伸縮する刀身が、その動きを逃さない。
宇宙怪獣が2匹同時に、剣に貫かれた。
一方で、その隙をつこうと機体に近づく宇宙怪獣もいたが…
「無駄ぁっ!」
シグルドⅡの掌が、宇宙怪獣の体に触れる。
その瞬間、宇宙怪獣の体がびくりと震えた。
シグルドⅡが掌を離すと、そこには赤い亀裂が走っていた。
そして数秒もしないうちに、宇宙怪獣の体は――グラムで斬られたものと同じように、体の内側から爆発するのであった。
その秘密は、シグルドⅡの機体各所に施された装備にあった。
シグルドⅡの爪、各関節部、つま先には、グラムの刀身に使われたものと同じ、グランブルナノメタルが使用されているのだ。
本来は、機体各部の強化のために施されたものであったが、ミソラはそのナノメタルを、クロウのサポートの元、グラム同様宇宙怪獣への攻撃兵器として、転用していたのである。
シグルドⅡが剣を振るい、爪で敵をひっかき、肘打ちを食らわせる毎に、宇宙怪獣はその体に深刻なダメージを負うことになるのである。
◇ ◇ ◇
シグルドⅡが荒々しくグラムを振るう。
エメラルドグリーンの残光が、その刃にかかって命を落とした、宇宙怪獣たちの残骸を照らした。
「クロウ、次のエリア!」
到着からの10分間で、ミソラは60匹近い宇宙怪獣を屠っていた。
だが、その功績に対して、ミソラの表情は険しい。
「クソ、これじゃあ開拓船団が…!」
ミソラの脳内には、クロウから送られてきた戦場の様子が映し出されていた。
彼女が戦場に到着してから、局地的な戦闘では勝利を重ねていた人類ではあったが、その被害は着々と増え続けていた。
開拓船団の残存勢力は6割ほど、その原因は現在も暴れ続けるドラゴン型にあった。
あの宇宙怪獣がブレスを吐けば、2桁の艦艇が沈む。
「次元振動砲の斉射は、まだなの!?」
ドラゴン型の攻撃により、開拓船団の群れに穴が開いたのを見て、ミソラは叫んだ。
彼女がいくら叫んだところで、船のチャージが早く終わるわけではない。
だが、それでも彼女はそう叫んでしまうのである。
「くっ!」
「ダメだぞ…」
機体をドラゴン型へと向けようとするミソラだったが、それをクロウが制止する。
「なんでよっ!」
「ダメだ。命令を思い出せ」
「わかってる! わかってるけど!」
ミソラは、出撃前に艦長から伝えられた言葉を思い出す。
――ドラゴン型の制圧は、開拓船団の護衛艦隊に一任するように。
シグルドⅡを始めとするヴァルハラ所属の殲闘騎はドラゴン型との戦闘をしないよう命令されていたのである。
それは妥当な判断であった。
いくら最新鋭機のシグルドⅡといえど、カテゴリー7の宇宙怪獣と戦うのは分が悪い。
複数の戦闘艦から、次元振動砲を放った方が、確実にドラゴン型を仕留められる。
そのことはミソラも承知である。
だが、彼女も無謀な戦いをしようとは考えていない。
勝算はあるのだ。
ミソラが乗るシグルドⅡは、生産第一号騎として彼女に合わせての調整がされた、いわば専用騎であった。そして、ミソラもまた、この機体のスペックを全て頭に入れて、戦いに臨んでいた。
だからこそ、シグルドⅡでドラゴン型を打倒できる方法に、気がついたのだ。
「アンタだって、分かってるんでしょ!?」
ミソラは、自分と同レベルに機体のことを知っているだろうクロウに声をかける。
「ダメだ。不確定要素が大きすぎる!」
だが、彼はミソラの考えには賛同しないようだった。
それがミソラに悔しさを生み出した。
救える可能性があるのに、目の前で大量の同胞が消えていくのを、ただ見ることしかできないなんて!
それに、なによりも今まで一番の理解者であったクロウと、意見が分かれるなんて…!
「…いいわよ。アンタが意気地無しなのは知ってた」
ミソラは、自分の気持ちを飲み込むと、そう告げた。
同時に、コクピット内のコントロールバーを引き、機体をドラゴン型へと向ける。
「お、おい!」
「うるさい! アンタは黙って、アタシの言うことを聞いてればいいのよ!」
「…っ!」
ミソラは、クロウの心に少なからず傷を与えたことを自覚する。
だが、それでも…彼女は今、自分の意地を通したいと思うのであった。
数日前のクロウとのすれ違いが無ければ、結果は変わったのかもしれない。
だが、そんなことを、ミソラは認識すらしていなかった。
機体がドラゴン型へと近づいていく。
ヤツはまだ、シグルドⅡへは気づいていない。
まるで、自分に刃向かう者はいないと思っているかのようだ。
いい。
このままグラムの射程圏内まで気づかずにいろ。
そうすれば、アタシが…グラムが…!
そう考えながら、コントロールバーを握る力を強めた…その時だった。
「…えっ?」
機体のセンサーが、彼女たちの目の前に現れた巨大ななにかを捉えた。
更新の間が空いてしまい、大変申し訳ございません。




