3 戦場のパイロット
【サモス恒星系 第4惑星アンカイオス近郊】
統一時間11月15日 19時30分。
宇宙の暗闇に、無数の閃光が走る。一瞬の後、反対方向から極太の熱線がはなたれ、無数の爆発が起きた。
つい先日まで、人類が訪れたことのなかったこの宙域は現在、戦場と化していた。
動きがあったのは3時間ほど前。
北方開拓船団と呼ばれる、人類の大規模船団がこの宙域に訪れてからであった。
彼らは、超長距離ワープで消費したエネルギーのチャージ時間を、この静かな海で過ごすこととなっていた。
サモス恒星系には植民が可能な惑星は存在しない。
しかし、赤い大気に覆われた惑星アンカイオスには、すでに人ならざる者が、生息していた。
宇宙怪獣である。
彼らは、船団が動きを停めたのを確認するとほぼ同時に、惑星アンカイオスの大気圏を脱出し、船団へと襲いかかった。
かくして、戦闘は始まった。
開拓船団には350隻を超える戦闘用艦艇が付随していた。
各船から殲闘騎が飛び立ち、宇宙怪獣を出迎えたのである。
戦闘に参加した殲闘騎は2000騎を優に超える。その中には最新の殲闘騎であるシグルドも参加していた。
開拓船団は、彼らがもつ圧倒的な武力で、宇宙怪獣を撃退するはずであった。
しかし、彼らの予想は裏切られることとなる。
宇宙怪獣の中に、カテゴリー7。ドラゴン型が確認されたのだ。
規格外の力を持つドラゴン型に対して、人類側が取れる手段は1つしかない。
戦闘用艦艇による次元震動砲の一斉射。
しかし、彼らは超長距離ワープを終えたばかりであり、次元震動砲を放てるほどのエネルギーを持ち合わせてはいなかった。
結果、人類は攻勢から一転、次元震動砲を発射可能になるまでの、時間稼ぎをしなければならなくなった。
ドラゴン型の口から、熱線が放たれる。
瞬間、10騎を超える殲闘騎と、1隻の開拓船が宇宙の藻屑と化した。
脅威はドラゴン型に留まらない。
それ以外の宇宙怪獣にもカテゴリー5を超える、強力な個体は多い。
人類は開拓船を守りながら、そしてドラゴン型殲滅の切り札である次元震動砲搭載の戦闘艦艇を守りながらの戦闘をこなさなければならない。
犠牲になるのは、殲闘騎たちであった。
◇ ◇ ◇
「くそ…こいつら、どこまでついてきて…うわぁっ!?」
「ダメだ、やつが…ドラゴン型がこっちを向いた…もうおし…」
仲間から送られてくる絶望的な報告を聞き流しながら、殲闘騎パイロットのアラン・アースキンは、舌打ちをした。
初代シグルドパイロット候補生。通称2期生。
軍上層部がエインヘリアルシステムの適正を重視した結果、シグルドの初代正規パイロットの内定を取り消され、訓練過程を後回しにされた悲劇のパイロットである。
アランは、その悲劇の世代の首席パイロットであった。
現在彼は、この北方開拓船団の護衛艦隊付の殲闘騎パイロットして活動していた。
彼は半年前、宇宙怪獣がなりすましたクロウ・シノサカの催眠によって、シグルドを奪われていた。
本来であれば軍法会議を受け、どんなにうまくいったとしても、二度と殲闘騎パイロットへは復職できない身であったが、ミソラをはじめとする迎撃艦シリウスの殲闘騎パイロットたち、そしてルーシー・ノイマン博士の助力によって、彼は現在の地位を維持することになった。
プライドの高い彼ではあったが、この時ばかりは憎き1期生にも憎まれ口を叩かなかったという。
味方と共に、開拓船団を襲う宇宙怪獣の撃退を命じられたアランであったが、現在彼の近くには友軍騎は10騎程度しかいない。
このあたりにいた殲闘騎たちは、休み無く襲い来る宇宙怪獣に、数を減らされ続けていたのだ。
殲闘騎部隊の消耗率は…!
現在32パーセント。
思考と同時に、回答が彼の脳内へと響く。
その報告を聞き、彼は再び舌打ちをした。
「消耗が早すぎる…! いったいいつになったら友軍は来るんだ!」
そう叫びながら、彼は機体を操作し、近づいてきた宇宙怪獣、ワーム型の脳天へとハルバートを突き立てた。
「今、ヴァルハラが急行しているみたいだが…」
「今のは一人言だ! 君には聞いてない!」
彼は、自らの機体に潜む、サポートOSを怒鳴りつけた。
直後、コクピットにアラートが鳴る。
機体の右後方から、サラマンダー型が突撃してきたのだ。
まずいっ!
予想外の方向からの攻撃。
今から武器を取り出しては間に合わない。
だが、彼が諦めようとしている間にも、機体はアランの生存方法をはじき出していた。
サポートOSからの提言が、アランの脳内へと直接映し出される。
彼は、その方法の妥当性を考えるよりも早く、OSの指示に従い、機体の上半身を前方へと傾けさせた。
お辞儀をするような格好となったシグルドβの真上を、サラマンダー型が通りすぎていく。
間一髪のところで攻撃を避けたアランは、そのまま機体にレーザーライフルを取り出させると、再度の攻撃のため、こちらへ方向転換しようしていたサラマンダー型を照準に収め、トリガーを引いた。
目の前で、サラマンダー型が爆散する。
宇宙に音は響かない。
防音ガラス越しに花火を見ているようなそんな不思議な感覚を、アランは覚えた。
「周囲に敵はいるか?」
「いや、今のが最後だ」
アランが、サポートOSへと質問をすると、即座に回答が返ってきた。
「では、艦隊右下へと援護に向かうぞ」
「アラン、少し疲れているんじゃないか? 一度も休息を取っていないだろう?」
「私がこの程度で弱音を吐くものか! 貴様は私の指示に従って、情報を送ればいいのだ!」
「…了解」
サポートOSはそれだけ答えると、沈黙した。
コクピットには仲間からの通信――断末魔が届いていた。
アランは再び舌打ちをすると、機体を動かしはじめる。
同時に、彼の脳内へと現在の戦場の様子を伝える情報が入り込んでくる。
その情報は、彼はサポートOSに対して用意しろと求めてはいないものであったが、彼自身が必要としていたものであった。
どうにもこうにも、気にくわない。
開拓船団が襲われたことも、戦況が不利なことも、友軍がこないことも、なにもかも…
そしてなによりも、一期生の意識が入り込んだサポートOSが、この数時間の間に、彼の命を何度も救っていることが。
「友軍からの通信! 5分後にヴァルハラからの援軍が到着するそうだ! また、30分後には次元振動砲の斉射も可能になる! みんな、もう少しの辛抱だぞ!」
司令官から、そんな朗報がもたらされても、彼の苛立ちは収まることがなかった。




