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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【驚動編】 第4章 クロウ・シノサカ
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25 違和感

◇ ◇ ◇


統一時間11月9日 22時00分。


自室に戻ったミソラは、思考粒子が入ったカプセルを乱雑に机の上に置いた。


「おい、もうちょっと丁寧に扱ってくれ」


「いいでしょ。アンタには、感覚とかもないんだから」


クロウが非難をすると、ミソラはぶっきらぼうにそう言い放った。


「…怒ってるのか?」


「当たり前! なんでアンタ、司令たちの命令に従ったのよ!」


「命令に従うのは、軍人の務めだろ?」


「そういう屁理屈はこねない!」


そう言うと、ミソラは部屋のベッドへと腰を下ろした。


「どうしてアンタ…あんな簡単に頷いちゃったのよ」


「それは…」


クロウは、先ほどまでの話し合いを振り返った。


通信室で告げられたこと、自分を構成するこの思考粒子が分割され、他のシグルドへと注入されること。そこでエインヘリアルシステムのオペレーションシステムとして働くということ。


「だって、断りようなんてないじゃないか。宇宙怪獣との戦闘での被害を少しでも減らすって意味では、いい話だとも思うし…」


そう。司令の命令は宇宙怪獣との戦いを行う上で、メリットしかないものだったのだ。

クロウはこの半年間の経験――自分がシグルドの一部となって戦い続けた経験から、ミソラの戦いをそばで見続けていた。その経験は彼が戦闘をソフトウェアの面から支援する能力を向上させるという意味では、最良に近い環境だったのだ。


「俺はミソラの側にずっといた。それは、この軍でトップレベルの機体操縦能力を持つ人間と一緒に戦い続けられたってことなんだ。効率的な機体の動かし方も分かっているから、その経験で他のパイロットも助けることができる」


「違う、アタシが聞きたいのはそういうことじゃない!」


「じゃあ…何を聞きたいんだよ」


クロウがそう聞くと、ミソラは黙った。それはミソラがこれから話すことを、クロウに問いたいことを、躊躇しているようにも見えた。

その悩みを、クロウは感じ取り、これ以上何も話さないことにした。


室内に投下されたディスプレイ型の時計が、針を刻む。

ミソラが口を開いたのは長針が3度ほど、時計の頂点を通り過ぎた後のことだった。


「…アンタ、死ぬのが怖くないの?」


その声は、小さく震えていた。


「…死ぬのが、怖い?」


「宇宙怪獣との戦闘を続けていけば必ず損害は出る。それはシグルドも一緒。それは仕方のないことだとは思ってる。それに、こう言ったら冷たいのかも知れないけど、まだ顔も知らない相手だから、落ち込まずにもすむわ」


「そう…だな」


「でも、これからは…シグルドがやられたって聞く度に、アタシはこう思わなくちゃいけないのよ。アンタが死んだんだって」


「…え?」


「だってそうでしょう。これからはシグルド全騎にアンタの意識が乗るのよ。この半年間、アタシと一緒に戦い続けた、アンタ自身の意識が! アタシの行ったこともない、知りもしない星系での戦いでも、シグルドがやられたって情報を見る度に、アタシは…アタシはアンタのことを考えちゃう!」


それは、ほぼ絶叫と呼べるものだった。


ミソラは心優しい人間だ。仲間が死んだ時、誰よりも毅然とした態度を取っているが、その裏では誰よりも悲しんでいる。

そのことを、クロウは知っていた。


だから、ミソラはそんなことを考えてしまったのだろう。

もう死んだ俺なんかのために、そこまで…

そう考えた瞬間、クロウは戦慄した。


俺は今、何を考えた?


もう死んだ俺なんかのため…に?


その思考は、ある種クロウが今まで考えもしなかった、違和感を生んだ。


「…なにか、言いなさいよ」


その違和感を言語化する前に、ミソラからの言葉が投げられた。


「えっと…そうだな」


だが、考えがまとまらない。

いつもなら、スムーズに浮かぶ言葉が、何も浮かんでこなかった。


「…ごめん」


だから、そんな当たり障りのない言葉しか、返すことができなかった。

ミソラは、しばらくカプセルを見つめた後、ため息をついた。


「こっちこそ、ごめんなさい。ちょっと今のアタシ、変になってるみたい」


あからさまに落ち込んだ様子のミソラに対して、やはりクロウは言葉をかけられなかった。


「こんな時は、気分を切り替えないとダメよね! 今日はもう寝るわ!」


やがて、ミソラは無理をしているのが丸わかりな、明るい声でそう呟くと服を脱ぎ始めた。


「…お、おい! ちょっとお前、俺には視覚もあるんだっ…」


そこまで言ったところで、クロウの上にはミソラの脱ぎたての上着が――彼女がクロウの方に投げたものが、かぶせられた。


「変態。アンタは一晩中、そのままだかんね」


まっくらな視界の中、ミソラの声だけが聞こえてきた。

その声は、まだ暗さを隠しきれてはいなかった。


それ後、数分間衣擦れの音が聞こえた後、部屋の明かりが消えた。

同時にばふっと、ベッドにミソラがダイブした音が聞こえた。


カプセルには、まだミソラの服がかぶせられたままだった。


…嗅覚機能は、ついてないんだよな。


いや、ついていなくて良かったと考えるべきだ。

もし、ついていたら、明日そのことを知ったミソラにカプセルごと破壊されかねない。

これは不幸ではない、幸運なんだ。


「…………」


いつまでも現実逃避をするわけにはいかない。

クロウは、先ほどの違和感と向き合うことにした。


俺は、アリーヨ司令からの命令に、特に迷いも無く頷いた。

でも、ミソラが怒っている姿を見て、気づかされたんだ。

ミソラの俺に対する態度に、違和感を覚えてしまったんだ。


ミソラは心優しい子だ。

俺のことを、1人の人間として接してくれる。

だからこそ、さっきもあんな風に悲しんでくれたのだ。


でも、俺はどうだ?

俺は、俺のことをどう思っているんだ?


…もう死んだ俺なんかのために。


先ほどの思考がリフレインする。


…もう死んだ俺なんかのために。


もしかしたら、いや、間違いなく俺は…俺のことを…


…もう死んだ俺なんかのために。


もう、人間だとは思っていないんじゃないか?


…もう死んだ俺なんかのために。



それは、クロウが今まで一度も考えたことのなかった、考えるのを避けていたことだった。


なぜなら、クロウはそこで結論を出すことを、恐れていたのだ。


人間の定義を考えよう。

それは意識の有無が1つの要因になるかも知れない。

そう言った意味では、クロウには意識がある。


だが、彼には意識があるということ意外、人間を人間たらしめる要素を、何一つ持っていなかった。


一方で、彼を機械などと呼ぶこともできないだろう。

なぜなら彼には、意識があるのだから。


だが、こうは考えられないだろうか。

これは、クロウやミソラ、ルーシーが意識と呼んでいるものは本当は人間固有のものではないのではないか。

もしくは人間の意識に近しいだけの、ただ思考粒子がそう振る舞うだけの現象なのではないか。


わからない。クロウには結論づけることはできない。


どう考えても、アーカイブデータを呼び出して読み込んでも、彼の疑問に答えを出してくれるものはない。


…俺は、一体なんなんだ?

本当に俺は、クロウ・シノサカなのか?

ただ、思考粒子がそう振る舞っているだけなのでは?

もし、違うとして、俺のこの意識は紛れもなくクロウ・シノサカのものだとして…


これから意識が分裂した時、どれが本物の俺だと…オリジナルの俺だと言えるんだ?


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