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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【驚動編】 第4章 クロウ・シノサカ
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23 ヴァルハラの少女たち

【パルテノス恒星系 第1惑星アテナ近郊】


 統一時間11月8日 21時21分。

 人類の開拓の最前線の1つ、パルテノス恒星系では、数々の開拓船、護衛艦が集結しはじめていた。

 それは1週間後に再開される、人類生存圏拡大のための宇宙開拓のために集められた集団であった。


 ◇ ◇ ◇

 パルテノスの宇宙港に繋留された、超大型迎撃艦母艦ヴァルハラの艦内では、乗員たちが慌ただしく動いていた。

 その理由は数時間前に軍司令部より発表された情報が原因であった。


 今後、宇宙怪獣との戦闘が激化することが予想されること。

 そのために、銀河連合軍では開拓船団に対して、大規模な護衛艦隊を用意すること。


 銀河連合軍、特にファブニール殲滅のために動いていた特務部隊は、その編成が大きく変わることが予想された。

 そのため、乗員たちはいつ何時、人事異動が発令されても対応できるよう、動き回っていたのであった。


 慌ただしく人々が動く中、比較的静かな場所もあった。

 ヴァルハラの一角にあるメイン研究棟がそうである。


 そこには、主任研究者のルーシー・ノイマンと、第1特務殲闘騎部隊の隊長であるミソラ・アカツキがいた。

 彼女たちはとある白銀の殲闘騎の前に立っていた。


「コクピットシステムのテストラン完了、メインシーケンス問題なし」


 ルーシーがホログラムモニターの内容を読み上げる。


「オーケー、シグルドⅡのテストは、これですべて完了よ」


「ありがとう。ルーシー」


 彼女たちは、軍の再編に備えて、新型殲闘騎の実装を急いでいたのである。


「クロウ、調子はどう?」


「ん? ああ、ちゃんと認識できてるよ」


 ミソラが、ルーシーの前に浮かんだホログラムモニターに声をかけると、そんな間の抜けた声が返ってくる。

 クロウ・シノサカの声だ。

 シグルドⅡには、今までミソラが乗機としていたシグルドのエインヘリアルシステム、そして思考粒子の90%以上を移植していた。

 そのため、クロウの意識はそのままシグルドⅡに移行されていたのである。


「コクピットシステムの同調も順調。前の機体と同じように動けると思うぜ?」


「そう。よかった」


「当たり前でしょ。私自らが調整を行ったんだから。ミスなんて起こるはずがない」


「そうね。ありがとう。ルーシー」


 得意げな表情のルーシーに、ミソラは微笑みかける。


「それで、早速この機体を動かしてみたいんだけど…」


「それは流石に無理でしょ。今の状況的にね。どこに開拓船がワープアウトしてくるか、わかったもんじゃないわ」


「ま、そうよね」


「それよりも、今はクロウの様子を調べたほうがいいんじゃない?」


「ん…そうね。じゃあ、クロウ。あなたはアタシの声、聞こえてる?」


 ミソラはうなずくと、今度は胸に抱いたカプセルに、声をかけた。


「「ああ、そっちも動いてるよ。問題ない」」


 手元のカプセルと、ルーシーの眼の前に浮かんだモニターからクロウの返答が返ってきた。


「…なんだか、不思議な感覚ね」


「「ああ、俺もそう思う」」


 再び、二箇所からの返答。


「「同じことを考えているはずなんだけど、自分が二人いるような感覚ってのは不思議なもんだな」」


「そうね…」


 ミソラは、2つの声に対して、頷いた。

 その顔には一言では説明ができない、様々な感情の入り混じった表情が刻まれていた。


「まぁ、考えてみれば当たり前のことなんだけどね…今のクロウの意識は無数にある思考粒子によって形成されている。つまり、それを分割すれば2つのクロウが生まれる。その仮説が正しいことが、証明されたわ」


 対するルーシーは、自分の理論が実証されたことに満足げな表情だ。


「まぁ、今のあなたたちは2つに分割されたと行っても、情報自体は同期される仕組みになっている。そこまでコミュニケーションのエラーは起きないでしょう」


「「ん…そうだな」」


 そうなのである。

 ルーシーは、シグルドからシグルドⅡへ、エインヘリアルシステムを移行する際に、エインヘリアルシステム内にある思考粒子の一部を、カプセル型の外部機器へと移したのであった。

 その理由は、クロウの意識の所在、それを確かめるためであった。

 結果、現在クロウ・シノサカの意識はシグルドⅡの機体内部と、思考粒子保存用のカプセルの両方に宿ることになっていた。


 ルーシーの説明にもあったように、カプセルと機体自体は双方向での情報共有を行っているため、それぞれの内部にあるクロウの意識は、それぞれの経験を【知る】ことができるようになっているが、物理的に分離されているため、それらは厳密には独立した意識が2つ存在すると言えた。


「クロウの意識、それは1つ1つの思考粒子の中に存在するのではないか。この前のファブニールとの戦いで、そう考えたのだけど、こうも早く実証ができてよかったわ」


「ええ、そうね」


 満足そうなルーシーであったが、ミソラは心の底から笑えないでいた。

 その原因は、数日前の経験にあった。


 もし、クロウの意識が分離可能なものだとしたら…

 アタシが戦ったあのファブニールが発したクロウの声は…

 あの声の主は、本当にクロウだったのではないかと。


「「…どうかしたのか、ミソラ?」」


 そんなミソラの様子に気がついたのは、クロウであった。


「…ん。なんでもない」


 だからこそ、ミソラは首を横に振ることしかできない。

 自分が、クロウの一部を殺しのかもしれないということを本人に言えるほど、彼女の精神は図太くはないのだ。


「「そうか…」」


 その雰囲気を察したのか、クロウはそれ以上は追求してこなかった。

 その気遣いが、ミソラにとってはありがたかった。


「じゃあ、ミソラ。そろそろ時間だから、行きましょうか」


「行くってどこへ?」


「司令との通信会議、あなたも呼ばれてたでしょ?」


「あ、そうだったわね」


 ミソラはホログラムモニターを浮かべて、時刻を確かめる。

 現在21時25分。


 彼女たちは、21時30分にアリーヨから通信がある旨を伝えられていた。

 彼は現在、この恒星系に多段階超長距離ワープを使って跳んで来ているのだが、到着前に、どうしても相談したいことがあるとのことだった。


「じゃあクロウも、一緒に行くわよ」


 そう言うと、ルーシーはミソラが抱いたカプセルにそう告げた。


「え、こいつも連れてくの?」


「ええ。司令も、この実験の結果に興味を示していたからね」


「…そう」


 こうして、二人と一台は、研究棟をあとにするのであった。


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