戦場では当たり前
城を包囲して一月程の期間が経った頃、昌邑近隣の三つの城を手に入れた為に兵糧管理に忙殺され量も又クッソ忙しい中兵糧をちょろまかした・・・横領と言った方が良いだろうか?
少量とは言え横領したバカに罰として斬首刑か肉刑が考えられていた時、良が労働力減るとアレだから労役で開墾でもさせれば?と言う良が斬首刑なんて態々見たくないという発想と労働力減らすぐらいならと言う発想からふと出た言葉が太守経験の有る張邈に絶賛され、其れだけだと罰として甘すぎて如何だろうかという話になった。
結果、役人から一兵卒全員の前で見せしめとして棒罰三十発ずつ計九十発が実行され生まれたての小鹿の様にプルプルしている罪人に重労役刑を言い渡すなど、ユックリとしかし確実にこの時代の戦以外の事でも順応させられ初めていた。
「俺が提案したって言う意味あった?コレ」
良は捉えられた宇宙人みたいに兵に吊るされ引き摺られる背中グロッキーな罪人を横目に見ながら引き続き仕事を行う為に陣幕に歩を進めつつ呟く。
「あったよ、あったさ。良の坊や。
あれぐらいじゃあ甘過ぎるくらいだけど良い発想さ。
此れで君の事を武辺一辺倒な物だと侮る者は少なくなるよ」
「あー。そういう事も考えてた訳か・・・有難う」
妙に肉刑が減らされた事が自分発案という事を張邈が言いふらしてるなーと思っていたら自身の為だったらしい。
テクテクと歩きながら張邈の配慮に感謝する。
「ハハハ、良の坊や。
先も言ったがアレは良い考えさ。
確かに人手が足りないというのに罪人を休ませる謂れは無いからね。昔に肉刑は取りやめられていたけど黄巾の乱以降はそうも言ってられなくなっていたからね」
「・・・あぁ」
機嫌良さそうに洋々と足を動かし身振り手振り話す張邈に対して余りに気の抜けた返事。ふと良は思ったのだ。自分の一言で人の人生が決まる程に発言力が自分に有るのか、と少し恐ろしくなった。
「張太守っ!!良佰長っ!!」
大きな声で呼び止められ陣幕の布に手をかけようとしていた手を止め、良と張邈は振り返る。
跪き息絶え絶えに矢の刺さった肩を上下させるのは兵糧輸送を行っていた者だ。
良は慌てて彼に刺さっている矢を抜き、飲み水で傷を綺麗にし布を巻いてやる。
「応急処置だぜ」
その一言と共に張邈の横へ移動する。
「グヌゥ・・・有難う御座います良佰長。
敵の襲撃に遭い物資悉くを奪われ、我が部隊は半壊。敵は騎兵が約三百騎程、短弓に胡服を纏っていましたので異民族の者かと」
「・・・ヤベぇな」
良の顔に汗が垂れる。
マズイ状況や驚嘆した時に良が口に出す意味の解り始めたヤベぇの一言を聞きいてユックリと頷く張邈。
「そうだね、そうだね。
良の坊や。曹操がいつ匈奴と言う手札を切るかと思ったが、正しく今その時と理解して臆面も無く使って見せた。・・・我が友、陳宮の言う通りになったね」
さて、大体の状況は察しているだろうが陳宮の簡単兗州ブン取り大作戦(良の心の内のみの呼称)の概要は良が聞いてないことも含めてこんな感じである。
⓪袁紹と口約束では有るが不戦協定と表向き無関係の半従属の密約。
因みに藏洪は厄介払いを兼ねた監視役。
袁術は袁紹からの盾として従属に近しい同盟と豫州を餌に物資と陽動での援助。
因みに雷薄達は監視役。
徐州の民もついでに煽って戦力増強。
因みに交友で劉備の裏切り癖を抑える。
①曹操の求心力が更にペラペラになった所を狙い、調子に乗って色々くれる袁術からちょろまかした兵糧と、清州兵を駆逐する飴と呂布の武力と異民騎兵の強力さを見せる鞭で諸城を味方に引き入れる。
②昌邑は割と巨城で兵も流石にそこそこ入るだろうから出来うる限り敵の兵糧を削って根気削いでから戦おう。
序でに万が一、曹操が援軍に来たら討ち取っちゃえ。
↑
今ここ。
さて、この状況で曹操が昌邑を守る為に打てる手と言うのは割と限られていて、最もローリスクハイリターンな策は糧道へ打撃を与える事であると陳宮は考え、その任に最適な曹操の部下とは陳宮の察するに匈奴単于於夫羅率いる異民族騎兵であった。
何故曹操の配下もとい従属下に匈奴がいるかと言うと時は四十八年、光武帝劉秀の頃まで遡る必要は無いかも知れないが遡る。
其れすなわち今より百五十年程前の事だが匈奴勢力は南北に分裂し南匈奴が漢に帰順して勝ち北匈奴が消滅して決着がつきはするものの衰退甚だしい感じになってしまった。因みにこの内部分列の時に烏丸とか鮮卑が独立する。
その後も後漢への帰順と離反を繰り返し今代単于於夫羅のお父ちゃんである羌渠の時に又もや匈奴内で分列。
理由は単于と成った羌渠の徴兵のし過ぎと伝わる。
父羌渠は殺され於夫羅は故郷を追い出され、帰る事叶わず略奪に失敗したりとなんだかんだと曹操にしばかれて帰順し配下となった。
正に現在の匈奴とは一勢力としては貧弱。とは言えやはり部隊として見ればその馬術でもって機動力、突破力など諸々含めとてつも無い脅威である事は違わず。高々訓練しただけの歩兵など良い餌だ。
輜重部隊を襲う任務など空腹時に鴨がネギ咥え鍋を用意し罠にダイブしているレベルであり曹操も嬉々として送り出すと予想したのだ。
さて、そんな訳で・・・。
「属長、急げ!!足を止めるな!!
御者!!牛の速度をもっと上げろ!!
敵は騎馬の群れだぞ足を止めんな!!」
「ヘ、へイ、若様!!」
「無理です、荷が重すぎますっ!!牛が耐えられません」
「牛っ!!食うぞコノヤロォーーー!!」
「モォオオオオ!!!」
土砂降りの雨の中、木板を被せられた牛の引く荷車の列が激しい雨音を消し潰しガタガタと音を立て只々街道を行く。
その十台の荷車の周りには半裸もといほぼ全裸の一般兵と片肌脱ぎというには露出度の高すぎる格好で背に矢筒と盾を背負った若将が足に布を巻いた者二人を乗せた愛馬を引いて猛走し、その若将が牛を睨みつけガルルと獣の様に唸り声を上げ牛が鳴いているが何というかアホっぽい。
否、アホである。
唯一の救いは牛が鳴きながら歩みの速度を上げた事か。
・・・そして冷静になって考えてみれば誰も喜ばない最悪の絵図である。
焦燥に駆られながらも黙々とと言うには定期的に騒がしく歩を進め倒していると遠方5時の方向より掛け声と金音がカンカンと響く。
「右翼っ敵へぇー!!!」
それぞれの物見がその音と声を聞くと同じ様に撃ち鳴らしカンカンカンカンカンと金音は重複し敵の位置を何度も叫び騎馬は駆ける。
円形に散開させた騎馬に乗った物見達が敵影を豪雨の中より見つけ退却と陣替えの合図となる金音を響かせながら良のいる中心へ退避を開始した。
「荷車に半円陣を組ませもう半分は木板を掲げ槍衾を構えろっ!!
物見が避難できる様にするのを忘れんなよ、弩の準備急げっ!!」
若将の荒々しく聞こえる指示に従い兵達が動き出す。
荷車が良の背中側で半円を描き配置され、荷車を引っ張っていた牛が内側に追い立てられ荷車と荷車の隙間に配置された最初の牛に弩を持った男と人一人隠せる大きな板を持った男達がよじ登り牛を守る様に隙間部分に盾持ちの兵が陣取る。
続く様に他の牛も荷車の隙間部分の内側に配置され二人の男によじ登られ盾持ちの兵に守られる。その姿は良の背を大きく囲む様に円を描く。
荷車の壁が無い敵側前方には木板を掲げた兵の前に木盾を前面に押し出し戈を持ち並べた兵達が並ぶ。
その後ろに余った牛達がせかせかと連れてこられ此れ又、弩持ちの兵と木板を持ちの兵二人が登る。
馬を潰す勢いで走らせ敵兵を置き去りにして帰ってきた十六騎の物見用の精鋭騎兵が大きめに開けらた戈と盾持ちの兵の隙間を抜け牛と人の間を通り滑り込む様に良の周りで円をえがき小手に縛り付けられた丸盾を掲げ速射が行える様に矢筒からはえる矢尻を握る。
中心に居る負傷者を下ろした愛馬に跨った良。彼を中心に弓騎兵、弩牛兵と前面の戈衾歩兵と後方の荷車で方円陣を組み敵を待ち構える。
良も特注の大きな強弓をミギィと引き絞り敵が射程範囲に入り込むのを矢を構え弓にギチギチという音をならせて待つ。
彼としては敵に矢を当てる事のみに注力したいところだが其れをすれば指揮は出来ず歯がゆい思いを募らせる。
段々と雨の中でヤケに大きく聞こえていた心臓の音を掻き消し、敵の蹄の群れが響き渡ってくる。
良は雑念を払い拾える音で何とか距離を推察する。雨の中視界が遮られている状況では初めての事だが、出来ねば死ぬだけだ。
500…
490…
480…
470…
460…
「構えぇ!!」
弓を持つ兵が弓を上に掲げ、弩を持つ兵が敵が来るであろう前方に狙いを定め、戈を持つ兵が腰を落とし重心を下げ盾を地に突き刺す。
400…
390…
380…
370…
360…
「シッ。」
一息の元、良の強弓の弦が戻り矢が射出される。
曲線を描きながらも空を切り雨を裂く矢は先頭にいる敵の頬を擦りそのまま落下して地に突き刺さる。
敵に損害がない事を音の変化が無い事で理解するが良は気にもとめず矢筒より素早く矢を抜き弓を再度構える。
300…
290…
280…
270…
260…
「弓を放てっ!!」
薄っすらと見える敵に向け声と同時十六騎の弓騎兵が引き絞られた弦達を解放する。だが其れは敵も又同じ。
敵と味方の丁度中間地で降り落ちる強烈な雫達を散らし鈍い黒の軌跡が幾度も交差しあう。
敵の呻き声とともに此方にも矢が木板に弾かれる音が連続して耳を叩く。
200…
180…
160…
「弩、撃てぇーーー!!」
くっきりと見えた敵にバシュっと空を穿つ音が半円を描いて敵へ飛来し馬の眉間に突き刺さるか否かといった所で先頭の敵が急速に馬首を逸らし良の率いる方円陣の側面を過ぎて行く。
数騎が崩れるがほぼ敵に損害は無い。
100…
50…
後方向右側の兵達が慌てて敵の横腹に弩を放とうとするも先陣を切る小さな飢えた牙獣の眼光が雨と曇天の暗闇の中で煌めき引き金を引く事さえ出来ぬほどに心を揺すぶられ竦み上がる。
敵は堅陣を崩す気の無い事を悟ったのか悠然と豪雨に消えゆく。
竦み上がり追撃の弩を放たなかった彼ら弩持ちの牛兵を侮る無かれ。一兵から勇者たる弓騎兵達や若いとは言え指揮官である筈の良に至るまでその眼光を見た者は勿論、その者の重圧を感じた全員が股から足元にかけて暖かいモノが滴っていた。
ボソリと誰かが呟く。
「・・・雨降っててよかったぁ」
雨音に消える事なく広がる一言。その場に居る者達全てが不意に頷いているのは見てはいけない。
嵐の様に過ぎた死の恐怖。
雨の暖かさを感じ汗の冷たさを理解する。
良の・・・否、この部隊全てが純然たる事実として冷や汗を流していた。
感覚的には数日間を過ごす様に敵の第二波がない事を薄らいだ雨の間から確認すると陣形を変え光射す雲の切れ目に向かって移動を再開するのだった。
『小便クセェ…』
誰もが感覚的にそう思いながら。
*於夫羅・・・(おふら)
屠各種と言う匈奴の中心種族の戀鞮氏の出自の単于。
騎馬民族って聞くとモンゴルのチンギスハン的なイメージからメッチャ強いイメージがあるがこの人は何となく不憫に思えてならない。
父の羌渠が当時の使匈奴中郎将の張脩の独断で単于呼徴を斬り単于に立てられ、それが漢王朝に認められちゃったが為の義理立てなのか何なのか黄巾の乱の援軍として右賢王となった於夫羅が派遣された。
その途中で漢の張純が反乱。又もや漢王朝に頼まれ其の反乱鎮圧援助のため徴兵しまくった為に父が殺され於夫羅が単于を継いだが国人達はろくすっぽいう事を聞かず洛陽まで行ってこの事を訴えるも帰って来たのは「今、霊帝死んじゃってヤベーんだよ!!オメーラの事なんざ知るかボォケェ」でありブチキレたのか略奪をしようとするも自警団にボコボコにされお家(本国)に帰ろうとするも受け入れてもらえず・・・。
その後は袁紹の下についていたが反逆しボコボコにされ、曹操にちょっかいかけてボコボコにされ悔しかったのか袁術が曹操を攻めた際にもう一回ちょっかいをかけるもボコボコにされついぞ曹操に帰順したようである。
尚、死ぬまで帰国は出来なかったっぽくて個人的には余計に不憫に感じる。
*呼廚泉・・・(こちゅうせん)
羌渠の子供で於夫羅の弟で南匈奴最後の単于。
長生き過ぎて引く。
何で於夫羅が単于の時に曹操と戦ったみたいな話(195年より前)から始まり西晋に来朝した(277年の事)などと言うとこまで彼の記録があるのか。
匈奴の寿命は化け物か?
因みに彼の人生は大体反乱起こすか帰順するかである。




