15話 余韻
ライブの後半が開始される
登場の為にリフトの上で背中合わせで待機しているとピリオドは自分が恐怖を感じている事に気が付いた、人前に姿を出す事もそうだが大勢の人の前でパフォーマンスをするそれが楽しみでもあり恐怖でもあった。そんなピリオドの不安を感じ取ったアルファがその手を握る
リフトが昇って行くと今までのブースで見ていたのとはまったく違う景色が広がる
薄暗く布越しだが客の顔の一人一人がよく見える、その事にさらに緊張したがアルファが握る手に力を入れると一人ではない感じてピリオドは少しリラックスできた
曲が始まると背中のアルファが離れて行き、歌が始まる最初の曲はアルファが全て歌いピリオドは踊るのみ、何度も練習した曲だけあって踊りは問題なかった、客の感触も悪くはない前半の熱気のまま、後半の頭も無事終えた
最初の1時間はアルファのサポートの為にダンサーに徹する、曲の合間にあるアルファのMCも好調だった
ライブの残り時間が40分くらいになりついにピリオドの歌の出番が来る
最初はアルファのホログラムの中に紛れてグループ曲の一人を任される、アルファのライブはグループ曲も多い、その全てをアルファが歌っているのは有名な話だ、そしてそれを生で歌っているというのも名物の一つだった
今回ピリオドが歌うのはアルファが70年前に歌ったのが最後のグループ曲だった、70年前なのでよほどのファン以外は声までは覚えていないだろうという事でその曲が選ばれた
歌が始まるとアルファの一人に紛れる、最初こそ観客も違和感無く見ていたが途中から聞いた事の無い声に気付く人もちらほらいた
それから数曲歌っている間にピリオドは人前で歌う事が楽しくなっていた、今まであれほど人前に顔を出すのが嫌だったのに歌えば歌うたび自分の探していた場所はココではないのかと思うようになっていった
次第に客にも今回はアルファのソロでは無く、ピリオドとのデュエットだという認識が広がって行く
最終の3曲前からは完全にデュエットになっていった。アルファに負けじとピリオドの歌にも力が入る。それは戦っているようにも恋人がよりそうようにも見える、そんな錯覚の中、観客も最高潮に盛り上がっていた
最終曲になると今までアルファに引っ張られていたピリオドは何かを解放したように前に出始める、観客からのブーイングも予想されたがその歌唱力で観客を圧倒してしまう
圧倒された観客は盛り上がる事も忘れ二人の歌を聞き入った
曲が終わり一瞬の静けさに包まれた会場から一転して揺れるような喝采が飛び交うその喝采は5分程続き次第にアンコールになって行った
「ピリオドもう1曲だけ付き合ってくれる?」
「もちろん」
その後アンコールに答えて舞台に上がるがテンションの上がったアルファが1曲で終わるはず無く3曲も歌わされた
後日のニュースでピリオドの事は世界のトップニュースになるのだがそれはもう少し後
無事にライブを終えた二人は控室に戻るとスタッフが盛大に迎えてくれた、アルファはそれに答える、その隙を見てピリオドはその場から逃げた
ブースでコンマを回収して駐車場へ向かうと途中でダンサーの二人が待ち構えていた
二人から手を差し伸べられるとピリオドもそれに答えて握手をする。二人と握手を交わした後に先に骨折した子が言う
「目標が変わりました、プリンセスとあなたと4人で最高のライブがしたい、それが今の私達の当面の目標です」
もう一人の子も黙ってうなずいていた
「ありがとう、楽しみにしとくね」
ピリオドはそう言ってバイクに乗り会場を後にした
帰ろうとしていたピリオドだったがどうにも興奮が収まらない、誰かに褒めて欲しくてマスターのいるバーに向かうマスターが見ているわけはないし褒めてくれる事などないとわかっていながらピリオドはバーへ向かった
バーに着くといつものようにマスターがよれよれの恰好でカウンターの中に立っていた
「久しぶりだな」
「うん」
「仕事は終わったのか?」
「うん、楽しかった」
「そうかよかったな」
そう言ってマスターはいつも仕事終わりに出してくれるコーヒーを入れてくれた、ミルクたっぷりのやつだ
いつもの仕事が終わった後と同じような静かな空気が流れる、ライブも楽しかったがバーでこうして仕事終わりに一杯飲むのも安心するそう思っているとその静かな空気を壊す存在が飛び込んできた
「マスター見たでござるか?ピリちゃんが100年歌姫様と一緒にライブに出ていて最高でござった」
「ここに居たんだ見てるわけねぇだろ」
感動に身を震わせている拙者だがいつもの用にマスターに冷たく返される、そしてピリオドに気づいたのか拙者はさらに興奮する
「ピリちゃんなんでここにいるでござるか、歌姫様とライブに出ていたのでは!?あれは幻?」
「帰って来たの、それよりピリちゃんって何…」
「拙者推し変したのでござるよ、今までもこれからもずっと歌姫様一筋と思っておったのでござるがまさかそれ以上の推しが出て来るとは、ちなみにファンクラブも作ったでござる拙者会長にして会員ナンバー1でござるよ」
そう言って会員用のホームページを見せてくれる、そこには覆面美少女を推す会と言うホームページが表示されていた
ライブが終わってからまだ2時間ほどしか経っていないのにすごいスピードだった
「拙者最初にダンサーとして踊っているピリちゃんを見た時にもうこのHPを作ったでござる最初はピリちゃんの素性がバレないように気をまわして作ったのでござるが…パフォーマンスが凄すぎて一気に会員が増えたでござる」
そういって会員のカウンターを見せてくれるそこには10万強の数字が表示されていた会場のキャパが12万なのでほとんどの人が登録した事になる
「……」
それを見てピリオドは絶句するしかなかった
「それで正直ここまでの騒ぎになるとは思ってなかったでござるよ。どうやって鎮火させようか悩んでいるでござる…」
「そのままでいいと思いますよ、先輩はスターなんですから」
「それもそうなんでござるが、変に嗅ぎまわって来るのが出てくると面倒でござるよ」
「そんなもん声明でも出しちまえばいいだろう」
マスターの一言でそれだと飛びついた拙者はさっと撮影の準備をした
そして収録されたピリオドのメッセージは《みなさん本日は100年歌姫のライブをご覧くださってありがとうございました、思わぬ事で反響を呼んでいるようですが私は今は表舞台に立つ事はございません、今回は友人である100年歌姫が困っていたので友情出演させてもらった次第です、私の素性が気になる方もいらっしゃるでしょうが出来れば静かに見守っていて欲しいと思います》
全身は映さず足だけを映したメッセージ動画であった、あんぐるはもちろん拙者の趣味
「それじゃコンマ殿協力してもらっていいでござるか?、場所の偽装をしたいでござる各地を経由してライブ会場から上げたように偽装したいでござる」
「先輩の為に協力は惜しみませんよ」
そうしてアップされた動画は一気に拡散されて世界中の話題を攫った、さらに静観してほしいという願いに答えて主にファンとなった人々がマスコミ各社を監視する事態にまで発展した
スクープを狙って探りを入れようとしたマスコミの1社がファンに特定されその会社の役員すべての個人情報と編集者の個人情報、その出勤時間と退勤記録、取材班がどこに行ったという情報まで全てネット上に晒される事になりそれを嫌った取材先とスポンサーが減って行き、取材自体ができなくなった、もちろん政治の記事だけで生き残れる力はそのマスコミには無く会社は潰れてしまった
役員と編集はその後も監視され続け同業者に再就職する事も出来なくなっており生活レベルを下げてひっそりと暮らしていくしかなくなった
「怖い…」
それがピリオドの感想だった。そのマスコミ潰しの筆頭が拙者とコンマだったのはピリオドにはバレていない様だった




