エピローグ 1
天気は快晴。暦の上ではもう冬なのだろうが、まだまだ寒さは訪れず爽やかな風が吹いている。関係者や親族のみならずカメラマンやマスコミも多数集まり、今日の披露会が始まるのを今か今かと待っていた。
「〜、どうやろ。変やないやろか」
誠一は不安そうにしながら鏡の前で黒紋付の着物をパタパタと翻している。立希はその様子を見て、
「緊張してるの?珍しい。大丈夫だよかっこいいよ」
立希も峰子に借りた着物を着せてもらい、順太と共に笑っている。本日は出席させてもらうことになったが、それは婚約者としてではなくあくまで友人としてだ。せっかく集まってくれた人たちの前で、嘘をつくことはしたくないと峰子に願い出たのだ。
「あと少しだね。それじゃあ私峰子さん呼んでくるね」
歩けるようになった順太の手を引き、ドアに手をかけたところで、誠一に呼び止められた。
「立希。……ありがとうな」
「え?」
振り向きなぜ礼を言われたのか分からないでいると、
「2ヶ月前、お前を計画に引き入れたときはまさかこんなことになるなんて……。母さんや父さんとも分かり合える日が来るなんて、思ってもなかった。だから、……ありがとう」
誠一が頭を下げ感謝を伝えると、
「どうしたの珍しい」
竹の花を見たかのように珍しがる立希に、素直になり損だと不貞腐れる誠一。順太と一緒に笑いながら、
「ね、ずっと不思議だったんだけどさ、京都の人ってなんで思ってることと言うことが逆だったり、婉曲に言うのかな」
「は?」
「ホラ、えらいハイカラやな、は奇抜でダサいね。元気でよろしい、はうるさいって意味とか」
「ああ……そうやって言葉の裏を読んで、気を遣って察して、頭つかって暮らしてきたからや。賢く生きるために皆そうしてきた。どっかの誰かさんは、そのまま文字通りに受け取ってたみたいやけどな」
「じゃあさ、好きでずっと一緒にいてほしいときとか、素直に気持ちを伝えたい時ってどんなふうに言って伝えるの?」
突然、真っ直ぐに目を見て問われた。
「……それ聞いて、どないするんや」
誠一は固まったまま、立希の表情を見てなんとか言葉に隠された真意を読もうと試みる。しかし全く分からずに時間だけが過ぎ、立希がついに口を開いた。
「峰子さんに伝えようと思って。誠一もさ、今思いついた言葉を、峰子さんと冬司さんに言ってあげなよ。きっと喜んでもらえるよ」
ニッコリ笑って扉を開け出て行ってしまった。
───やられた、と苦虫を噛んだような顔で悔しがる。やっぱりとんだ食わせもんだ。腕を組んで出て行った方をひと睨みし、
「今に見とけよ。いつかお前を───、」
背を向けて、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。




