エピローグ 2
「峰子さん、そろそろお時間です」
峰子は立希に呼ばれ、椅子から立ち上がった。黒に金の刺繍が入った留袖が美しく、誠一の隣に立つ姿がとても映えるだろうなと思った。
「ほんまはアンタにも、女将としてのちゃんとした着物着て立ってて欲しかってんけどな」
「この着物も素敵ですよ。貸していただきありがとうございます。女将に相応しい着物は……いずれ必ず。そうだな、私の顧客がニ十人になったときに」
「あら。あと何十年かからはるやろか」
クスクス笑い、順太を抱きかかえてくれた。
「……あんたと順太くんを迎え入れる件やけどな。ちゃんとした手続きを踏んでやるから、もう少し時間かかるんや。でもちゃんとやるから、待っててくれるか」
峰子の言葉に、
「勿体無いお言葉です……。でも、ずっと疑問だったんですが、どうして私にそこまでしてくれるんですか」
立希は峰子をじっと見つめ、質問した。私は女将の器でもないし、最初は婚約者に成りすまして騙そうとしていた最低な人間だ。そんな人間を、何故。
峰子は、ツンと口を尖らせ、
「……困ってたから助けただけです。何か問題でも?」
そうとだけ言って黙ってしまった。立希は思わずプッと噴き出し、そのままお腹を抱えて笑い出した。
困ってたから声をかけた。困ってたから助けた。ファストフード店で初めて誠一と出会ったときもそうだった。やっぱり親子なのだ。困っている人には手を差し伸べてやる。人の上に立ち導いてくれる人の器とは、そういうものなのだろう。
「なんですの。そんな笑って」
「いえ。……私、本当に誠一さんと峰子さんに出会えてよかったです」
峰子はフン、と鼻を鳴らして外方を向いた。立希はああ、それから、と思いついたように声をあげると、
「一応私、婚約者として迎えてもらってるじゃないですか。結納金まで払って貰って。だから誠一さんにちゃんと好いてもらえるように、惚れてもらえるよう頑張ります」
「……あんたはそれでええんか?別に無理に結婚せんと、養女として迎えることだって───」
峰子が言うと、立希は、
「言ったじゃないですか。誠一さん次第だって。私は誠一さんが好きです。私だけじゃなくて、順太も。ねぇ」
だあぁ、と喃語で返す順太。目を丸くして黙っている峰子の手を引き、扉の外へ出る。
「さぁ、そろそろ行きましょう」
手を引かれ歩きながら、峰子は思った。
───誠一のことは小さい頃からよく見てるので、分かります。あの子は人にあまり興味も持たんし、誰彼構わず助けるような篤志家でもない。そんなあの子が連れて来た、初めての女子やったから、あんたを家に引き入れたんです。
「……とんだ、タヌキやったけどな」
小さく、誰にも聞こえない声で、峰子は呟いた。




