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第一章 ネタばらしは新幹線の中で

2日後、八重洲の新幹線乗り場にて誠一と立希・順太は落ち合った。ホームに並び、誠一から渡されたチケットに書いてある字に感動すると、順太に話しかける。


「わぁ!グリーン車だって!初めての新幹線がグリーン車なんて贅沢だねぇ!」


「荷物はそれだけか?車内で騒ぐんじゃないぞ」


車内に乗り込み席を見つけると、早速広くゆったりとした座席に腰を下ろした。当然のように三席並んだ座席を見つめ、申し訳なさそうに言う。


「順太の席まで用意してくれたの……」


「一人ひと席座れた方がいい。ここから京都まで約2時間、長いからな。京都に着いたら俺の持ってるマンションの一室を貸してやる。そこに2人で住め。何か必要なものがあれば用意してやる」


「貴方はどこに住むの?」


「俺は実家だ。家族の監視の目もあるからな。必要な連絡はスマホに頼む。2ヶ月後の披露会に向けて、細かく詰めていく必要もあるから、俺からの連絡はいつでも出れるようにしてくれ」


いくら偽者とはいえ婚約者の体だから、契約以上のこと───例えば体を求められたりしたら、暴れて契約不履行にしてやるつもりではいたのだが、この人は本当に私に興味がないようで安心した。私たちはあくまでビジネスパートナーであり、それ以上の邪な感情はいらない。立希は順太の手を握り、静かに微睡む。

恋とか愛とか、そんなものは必要ない。そんなものは、生まれてから一度も知らない。私に必要なのは、順太だけだ。順太へのこの感情は愛なのだろうが、いつか───。いつか、私にも愛を注いでくれる人が、現れるのだろうか。


駅で買ってもらったえんがわ寿司を頬張りながら、立希はふと思い出し疑問に思っていたことを聞いてみた。


「そういえば初めて会ったとき、なんであんな時間にあの店にいたの?」


老舗旅館の御曹司が、深夜にファストフード店に一人でいるなんて不思議だった。

誠一は頬杖をつきながら、


「……好きなんだよ。ジャンク飯。あの時間は空いてるし、よく行く」


子供の頃から食の英才教育を受けてきた自分にとって、ジャンキーで背徳感のあるファストフードを腹一杯まで食べて悦に浸るのは、一種のストレス発散だった。また、深夜の静まった二階席から眺める街の景色が好きだった。昼間の喧騒の服を脱ぎ、徐々に眠るように光が落ちついていく。

─── 東京の大学で経営を学び、後に藤龍グループを統括するため、重責に見合う人格と器になることが急務だった俺にとって、あの時間は大切なものだった。自分の悩みと向き合い、模索し、思慮する。そうするうちに、答えを見つけてまた次に進める気分になるのだ。


目を瞑り、思い出す。あの日順太を抱いて途方に暮れている立希の姿。

計画に引き入れる目的もあったが、何より人生に悲観し絶望している様子のこの人を助けてやりたいと強く思った───。

いったい何の正義感だろうか。誠一自身、その時の心情をうまく説明できない。


「……しかし、君の主人にバレたら俺は殺されるかもしれないな。人妻、しかも子供まで、いくら君の合意のもととはいえ誘拐し匿うなんて」


楽しげに窓の外を見ている順太に目線を下ろしながら誠一が言う。その言葉に立希は目をパチクリさせ、


「主人……?人妻……?」


頭に疑問符をつけながら言い返した。その様子に誠一も思わず、


「え?だって、DVから逃げてきた、って……」


「逃げてきたのはそうだけど、順太は私の子供じゃないよ。歳の離れた弟。って言っても、多分父親は違うだろうけど」


順太を膝に乗せ、顔を並べながら「似てるー?」と見せて笑う。誠一は驚いて口を開けたまま静止している。


「あの女……母親がさ、アル中で暴力は日常茶飯事で。仕事辞めてからはその矛先を順太に向けようとしてたから、慌てて家を飛び出したの」


ママァ、と甘える順太に、お姉ちゃんって言ってっていつも言ってるのにー。まぁママの方が呼びやすいよねぇ、と楽しげにあやす。


誠一は頭を掻きながら、まぁ、そういうこともあるか……、と独り言をこぼした。納得し理解しようとはしているが、正直混乱し、目は泳ぎ顔は引き攣ったまま直らない。立希は続けて、


「2ヶ月、って言ってたよね。私の誕生日は再来月だから、そうしたら成人を迎えて正式に順太を自分の養子にしてあの女とも絶縁できる。だから、それまでの間絶対にあの女に見つかるわけにはいかないの。しっかり守ってよね」


そう言われ、誠一は更に硬直した。


再来月、成人……?


背も高く、ボロボロの身なりで生気も髪に艶もないし、慣れた手つきで子供をあやしているものだから、てっきり歳上だと思っていたが……。


「おま……歳は……」 


絞り出すように尋ねると、またお前って言った!と頬を膨らませ怒りながら、


「17歳。高校2年生!」


そう言って、立希は顔の隣にVサインをつくった。

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