第五章 彩取合戦
「まず俺からいくで!彩は、え〜と……めっちゃしっかりしてる!俺が小学校の修学旅行で財布をカツアゲされたときも、彩が取り返してくれた!」
「あれはアンタがどう見ても浮浪者のおばさんに必ず返すから金貸してくれ言われて、そのまま有り金全部渡すからや。どこの世界にあんな嘘信じるアホおるんや」彩がすかさずツッコむ。
「あの時の彩は凄かった。極妻みたいにキレ散らかして、オバハン小便ちびってたもんな」
「そこまで恐ないわ!元はと言えばアンタのせいやないか!」
誠一は黙ったままだったが二人のやりとりが収まると、次はお前の番だと視線が集まる。
「え……え〜と……彩は……優しい」
低いテンションでおざなりに答える。相変わらず目は死んでいる。すかさず六郎が、
「ほな次オレな!!彩は……可愛い!特に可愛いなったんは、中ニの夏からや!それまでの彩と打って変わって、何故か急に二重になった。今でも思い出せるわぁ。雷が落ちたみたいな衝撃やった!」
「あれはアイプチしたんや!悪かったなそれまで可愛くなくて!ほな何?一重のウチはブスや言いたいんか!?」
「あっ……そうやったん。で、でも今は二重やん!今が一番かわええで!」
「そら整形したんや───!!気付けド阿呆が!!」
彩の叫びが公園内にこだました。え、整形だったんだ、と立希と誠一は内心思った。
空気を変えようと誠一が続ける。
「……彩は……頭がええよな……。数学なんかは一回も勝てへんかった……」
すかさず六郎も、
「えっ、えっとえっと、彩は……優しい!!俺が昔飼うてた犬のポチ助。あれがいつの間にか逃げて泣いてた時も、一日中探して見つけて戻してくれた。あれは嬉しかったなぁ」
思い出に浸る六郎に彩が、
「あああの犬……。あれ逃したんウチ」
「ええっ!」
「給食の残りのパンあげて、ついでに散歩したろうと思って鎖外したらターッって出て行ってしもて」
「えええ……!」
十数年ぶりに知る真実に慄く六郎に追い討ちをかけるように誠一が言う。
「ついでに言うとポチ助見つけて取り戻したんは俺やからな。あのバカ犬、隣町でホームレスのおっちゃんに飼われそうになってた」
「えっ取り戻してくれたん、誠一やったん!」
「彩は逃したくせにピアノのレッスンあるからって言って俺に捜すの命じたんよな」
外方向いて口笛を吹く真似をし誤魔化す彩。六郎は「おま……」と脱力している。立希は誠一にだけ聞こえるように、
「もしかして彩さんて結構……」
「せやで。彩は昔から外ヅラはええけど結構したたかな女や」
「ヤンキーにケンカ売られて返り討ちにしてたし」
「夏休みの宿題の読書感想文なんか何回代わりに書かされたか」
「しかもそれが毎回表彰されたおかげで大学の推薦ゲットしたようなもんやし」
「だぁぁ〜!!、なんなんアンタら私のええとこ言うって勝負なんちゃうん!?悪口やん!!」
列挙される悪口に堪忍袋の緒が切れ爆発する彩。立希は可笑しくて小さく震えている。
「ほんま、なんでこんな女好きなんやろ。誠一、お前やったらもっとええ女まわりにぎょうさんおるやろ」
そう言われて誠一は目を伏せ、
「おらへんで。彩ほどええ女はどこにもおらん。お前ほどええやつもな。六郎」
長く息を吐いて、二人の目を見つめながら、
「俺はお前らが好きや。だからこんな拗れてしもた。……ちゃんと最初から言っときゃよかったんや。
彩。俺はお前をずっと好いとった。子供の頃から、お前のことしか見てこんかったよ」
「……誠一……」
「……ッ、待てや!!」
六郎は誠一を押しのけ、彩の正面に回る。この短時間で驚いたり怒ったり、くるくる変わった彼女の表情は、その時見せたことない感情を映していた。
「……俺は、誠一みたいな御曹司でもなければイケメンでもないし、何の取り柄もない男や。
……彩の整形にも気付かんほど呑気で、保険もかけな告白の一つもできん、ただのヘタレや」
整形のことはええねん、と彩は小さく呟く。六郎は続ける。
「一緒に来てくれって彩が勇気出して言ってくれたのに、誠一なら幸せにしてくれるでって言ってその手を突き離したことずっと後悔してた。もしできるなら、今度こそ掴んだその手は絶対に離さへん」
「……今更遅いねん。さっきまであんな悪口言い腐ってたくせに。もうええわ。あんたらなんざ願い下げや」
ここに来て意地を張る彩。誠一がすかさず、
「おい彩。俺はずっと見とったから分かるぞ。お前も六郎が好きなんや。ええ加減素直に手を取れ」
「うるさいわ!その手払われた気持ちがあんたに分かるか!?こんなんやったらもう生涯独り身のババアになったるわ!そっちのがマシや!」
「彩!!」六郎が叫んだ。




