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第四章 ドロシーの靴

恵里のご両親を園庭に呼び寄せ、誠一は言った。


「捜したんですが、恵里ちゃんはちょっと私たちじゃあ見つかりません。赤ちゃんの芙美ちゃんはうちの仲居が預かるので、恵里ちゃんを一緒に捜してくれませんか。恐らくこの庭のどこかには居ると思うんで」


長い時間戻ってこず見つからないと言われようやく父親も母親も焦り出し、庭を走りながら恵里の名を叫ぶ。庭をひとしきり駆け巡り数分後、


「ちょっと待って、あなた。静かにして」


母親が耳を澄ませると、チリンチリンと微かに鈴の音が聞こえる。音のする方へ向かうと、木の下で靴に付いた鈴を鳴らして親の到着を待つ恵里の姿があった。


「恵里!!こんなとこにいたの!どれだけ心配したと……!」


怒鳴りつける母親を、優しく誠一が止める。


「恵里ちゃん。良かったなぁ、パパもママも迎えにきてくれて。これからも、忘れられそうになったらその靴の鈴鳴らして教えてあげてな」


そう言われ、両親は共にハッと顔を合わせ、恵里を見る。何かを我慢してるように口を曲げたせつなげな表情。ずっと忙しくて構ってやれず、ゆっくりと顔を見たのは久しぶりだった。

両親は膝をつきごめんね、と恵里に向けて腕を広げた。───リン、と音を鳴らし、小さい体は温かい腕の中に飛び込んだ。すると恵里は、堰を切ったようにわんわんと泣き出した。つられて父も母も涙を溜めていく。泣く三人の声が、その場にこだました。



大西一家は何度も誠一と立希にお礼を言い、去って行った。誠一も、「お食い初めはあくまで産まれた子供が主役ではあるけれど、その兄姉も年長になったお祝いとしてフォローをいれてやらんとあかんな。例えばプレゼントをサプライズで用意しておくとか」と、新たな気づきを得て経営に生かすようだ。


「誠一、ありがとう。さっき恵里ちゃんの靴に鈴を付けてあげたんだね」


「ああ。靴が履けなくなっても、外して新たな靴に付けられるようにしたった。あれならご両親もちゃんと恵里ちゃんが付いてきてること分かるし、存在感出せるやろ」


誠一は向き直ると、


「あ〜、あの鈴やけど、順太のおもちゃから拝借してん。堪忍な。弁償するわ」


「ああいいよ。あのおもちゃはそろそろ卒業するタイミングだったし。……それにしても、おもてなしって難しいね。……私は、峰子さんみたいになれないな」


恵里が音がする踵を直さない理由を最初から気付けていれば、こんな騒動にもならなかった。峰子氏に倣い、見えない気遣いや心配りをすることでお客様におもてなしができると思ったが、まだその本質を掴めていない。


「あの人は何十年もやってる大ベテランや。始めて数ヶ月のひよっこにおもてなしの本質がわかってたまるかい。……でも、ほうやな。もっとお客様とコミュニケーションとった方がええやろうな」


「コミュニケーション……」


立希が呟くと、おーい、と奥で声をかけて近づいてくる男がいる。六郎だ。


「六郎さん。さっきはありがとうございました」


「いいってことよ。それより立希さん。誠一借りてええか?」


「は?六郎何するつもりや。というか、なんで今日彩とここに来てたんや」


「そりゃあ勿論。掘り起こすためや。タイムカプセル」


何処から出したのか、スコップを見せて笑う。慌てる誠一に、


「私も行きたい。一緒に行っていいですか」


ええで!と六郎から了承を得て、彩も呼び四人で庭に集合した。


「場所は……ここ。この御神木とこの屏のちょうど真ん中らへん。ちょっと失礼」


六郎はスコップで庭を容赦なく掘り起こしていく。ああ〜、庭師さんに後で怒られるわ、と誠一は青い顔をしているが、出てくる手紙の方が心配で気が気じゃないだろう。立希は彩にこっそりと耳打ちする。


「……彩さん、なんて書いたか覚えてるんですか?」


「いやぁ……それがサッパリ。埋めたのも、5歳か6歳くらいの時やし……」


アッ、なんか出てきた!と声を上げる六郎。覗き込むと、手のひらサイズの小さなお菓子の缶が出て来た。土を払い、力を込めて開けてみる。


「……わぁ、」


中から、食玩やビー玉、折り紙の鶴などが出て来た。変色しているものもあるが、どれも保存状態は悪くない。


「結婚したい相手書いた紙は?」

「ちょ、もうほんまもうええやろ」


慌てる誠一を押さえ込んで、下の方に敷かれた紙を取り出す。すると、あや、ろくろう、せい一と書かれた3枚の紙が出て来た。せっかくだから読み上げる。


「『しょう来、あやとけっこんします ろくろう』」


「『あやとけっこんできますように せい一』」


三人の顔を見て、立希が言う。


「彩さん、モテモテですね」


彩はアッハッハと笑い、六郎と誠一はバツが悪そうな顔をしている。特に誠一は苦虫を噛み潰したような顔で恥を忍んでいるようだ。立希は最後に彩の紙を取り出すと、


「『せいいちとろくろうと3にんでけっこんできますように あや』」


四人は顔を見合わせ、まさかの一妻多夫制!!と叫び、笑い合った。ひとしきり笑い、涙を拭った後六郎が言った。


「そうかー、……こんときから彩のこと好きやったんやな。しかし彩、この願いは今の日本じゃ無理やな。どっか、海外にいかへんと」


「うるさいわ。子供の頃の話や。なぁ、立希さん」


話を振られ、立希も頷く。


「そうですよ。誠一さんは私が貰いますから。だから彩さんの出る幕はないです」


ブハッ、と六郎が噴き出して笑い、泥だらけの手で首を揉みながら、


「ほうか。ほな彩。余り物同士、俺と結婚するか」


突然、さっきまで笑っていた彩の声はピタリと止み、顔を引き攣らせる。

かと思えば次の瞬間には真っ赤になりながら、


「……アホ!最低!!」


怒鳴って手紙を六郎に押し付けて走って去って行ってしまった。

残された三人は、茫然としながらその場に立ち尽くした。


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