第4話 魔力解放! ビビるりんね
「お、覚えてなさいよっ! 優の義妹だかなんだか知らないけど……顔は覚えたから! 先にツバつけてたのはウチなんだからね!」
「……お義姉ちゃんに、ツバ……つけてたの?」
「……っ! い、行くわよっ!」
ギロッ、と朔ちゃんが一睨み。
その一瞬で、りんねちゃんは尻尾を巻いて、取り巻きごと教室から脱兎のごとく退散した。
涙目で強がってたけど……まあ、当然のリアクションだよね。
まだ本気じゃなかった朔ちゃんの魔力が、追加で噴き出したんだから。
「ふぅ……お、お義姉ちゃん。ケガとか、してない?」
「う、うん。大丈夫……」
ほっと息をついたその顔は、昨日うちで見た“子リス”の朔ちゃんで、配信で見せる、あの冷静無比なSakuとはまるで別人だった。
「お義姉ちゃん……ワタシね、お腹すいた」
「それじゃあ、わたしたちもお昼にしよっか」
……そう言って笑ったけど、さっきの一件を見てたクラスメイトたちは、ちょっと距離を取っていた。
無理もないよね。
わたしたちみたいな一般人、ホンモノの探索者を目の前で見ることなんて、まずない。
義務教育でダンジョンとかスキルの授業はあるけど、実戦なんてそう経験しないもん。
――だから今日は、朔ちゃんとふたり、デュオランチ。
「って、さっきお腹すいたって言ってたよね?」
「……言った」
でも、朔ちゃんはお弁当を出す前に机に突っ伏して、力なくボソッとつぶやいた。
……あれ? なんか元気ない?
「まさかだけど……昨日の晩ごはん、お母さんの味が合わなかった?」
「そっ、そそ、それは全然ちが……っ!」
あわてて首をぶんぶん振る朔ちゃん。
たしかに、家庭の味って人それぞれだし、慣れないと食べづらいのはあるけど、どうも、それだけじゃなさそうだ。
「無理しないでいいよ? 言いたくなかったら、言わなくてもいいから」
「……ちがうの。ほんとにちがうの。ただ……ちょっとだけ、疲れたっていうか……うーん……」
ばっ、と顔を上げて、あわてて視線を泳がす朔ちゃん。
この子、ダンジョンじゃ冷静で無表情なのに、いまのこれは、なんていうか、完全に“年下の妹”だ。
「それってやっぱ、魔力を、バーッって出すやつのせい? アレって体力使うの?」
「そーでもなくて……」
視線はずっと教室の隅。
どうしても目を合わせてくれない。
朔ちゃんにとって、魔力を出すこと自体は“疲れ”じゃないのか。
「やりすぎちゃったなって……」
ぼそりとつぶやいて、教室のドアの方を見る。
「お義姉ちゃんへの敬意が感じられなかったから……魔力で黙らせようとした。でも、相手は一般人だったし……わたし、あんなこと……」
頭を抱えて、机にうずくまる朔ちゃん。
ああもう、この子ほんと――
「でもね。わたしは、嬉しかったよ」
「……え?」
「りんねちゃんって、毎回しつこいし、断っても聞かないし。だから、朔ちゃんがバシッと追い払ってくれて、すっごくスッキリした」
「え、えへ……そっか。お義姉ちゃんの役に立てたなら、よかった」
小さくなって、上目づかいで笑う朔ちゃん。
……ずるい。これはずるい。
この笑顔を向けられて、なにか感じない人間がいるわけない。
「わたし、“守ってあげる”って言ったのに……逆に助けられちゃったね」
「ううん。ここまで案内してくれたお礼だから。ワタシ、お義姉ちゃんに感謝してるんだよ?」
ほんと、どこがあのクール系配信者“Saku”なの? ってくらい、甘えた顔をする。
このギャップで心臓が撃ち抜かれそう。
「……ほんっと、いい子だよね。イタズラしたくなるくらい」
「えっ?」
「なんでもないよ。さ、お昼にしよう」




