第3話 わたしたちは義姉妹
「仲良さそうだし、同じ部屋で大丈夫よね~♪」
なんて、ご機嫌な母の一言で、わたしのベッドに、ひとり女の子がちょこんと追加された。
元々小物の多いファンシーな部屋だ。
その中に端正な顔立ちの子。
雰囲気にピッタリ合っている。
とはいえ、もちろんお人形じゃない。
むしろフィギュアで欲しいレベルだけど、さすがにそれは無理。
須藤朔。もとい、不知火朔。
今日からわたしの“義妹”になった子だ。
まあ、本人の推しグッズが多く並べられていて変な風に思われていないかちょっと不安。
「あの……須藤さん」
「い、今は……ワタシも不知火。です」
気まずそうに言ってから、パジャマのズボンをぎゅっと掴んで、うつむくSaku。
その姿、小動物みたいにちんまりしてて……緊張が丸わかり。
今は完全アウェイだもんね。そりゃ仕方ない。
けど、配信であんなに鉄面皮だったSakuが、こんな表情を見せるなんて――胸が、どくどくする。
「じゃ、朔……さん?」
「家族なのに、“さん”付けは変じゃないですか?」
「あー……確かに」
ほんの少し、いつものSakuっぽさが出てきた。
探索中、合理性のない選択にズバッと入れるツッコミ。あれだ。
『それって、変じゃないんですか?』
――プライベートではビビリなのを知らなかったけど、それもまた、愛しい。
Saku、最推し。やっぱ推せる!
「じゃあ、朔ちゃん」
「……なに? お義姉ちゃん」
名前を呼ばれたわけじゃないのに、「お義姉ちゃん」って言われただけで胸の奥が、ぽわっとあったかくなった。
これが……妹か……!
「お、お義姉ちゃん……?」
「ごめんごめん」
うかがうに小首をかしげる朔ちゃんに、手を振って「なんでもないよ」と返す。
「いろいろ不安かもだけど……明日からの学校とか、心配しなくていいからね」
「う、うん。お義姉ちゃんと一緒なら……大丈夫な気がする。え、えへへ……」
ぎこちなく笑う朔ちゃんの顔が、もう、どうしようもなく可愛くて……。
わたしは撫で回したい衝動を、なんとかこらえた。
だ、だめだ。まだ……まだ耐えるんだ、わたし。
*
「優~! ウチらと学食行くっしょ! 昼な、昼!」
「ごめん。朔ちゃんとお弁当食べるから」
昼のチャイムが鳴るなり話しかけてきたりんねちゃんに、わたしは両手を合わせて謝った。
ただ、りんねちゃんがそれくらいで許してくれるわけがなく、昨日も見た無表情へと変わる。
「は? 何断ってんの?」
「先約があるからごめんね」
「あっそ。でも、朔って今日転校してきた不知火朔? 聞いたよー。再婚相手の連れ子なんでしょ?」
「耳が早いね」
「当然~!」
ドヤ顔で胸を張るりんねちゃん。
この子の情報網は、ほんといつも謎にすごい。
どこで聞いたのかは知らないけど、事実だし、クラスメイトだし、隠すつもりもない。
でも、どこか言葉にトゲを感じたのも事実。
「……なにが言いたいの?」
「優でもわかる簡単な話! 一緒に住んでんなら、いつでもご飯を一緒に食べられるでしょ? ウチのほうが優先されて当然じゃん?」
わざとらしく、クラス中に聞こえるような大きな声で、りんねちゃんは叫んだ。
「優。わかったら、ウチの言うこと聞くこと!」
――ピクッ。
反応したのは、わたしよりも朔ちゃんのほうだった。
偉そうに片手を腰に当て、もう片方をわたしに差し出したりんねちゃんの手を朔ちゃんが、ガシッと掴む。
「ふん! やっぱ愛想で付き合ってるだけじゃ……な、い……」
「お義姉ちゃんに不要なだる絡みをするなら、ワタシが相手するけど?」
「……相手って、何を……?」
その瞬間、空気が変わった。
りんねちゃんの存在感を消すほどの“気配”が、教室に広がる。
――魔力。それも、桁違いの。
わたしは、昨夜同じ部屋で体感してたけど、周りのみんなにとっては完全に未知の感覚。
誰もが、息をのんだ。
しん、と教室が静まり返る。
校庭で騒ぐ誰かの声が響いてくるほどに。
「……あ、あんた……なんなのよ……!」
ようやく絞り出したりんねちゃんの声にも、朔ちゃんはビクともしない。
配信で見せるあの冷ややかな目で、静かに、でも鋭く睨み返していた。
「ワタシはお義姉ちゃんの義妹。お義姉ちゃんに手を出すな」




