第2話 義妹は本物の推し
「初日から仲良く二人で帰ってくるとは思わなかったわ。同い年の女の子だから、喧嘩でもしちゃうんじゃないかって、ちょっとだけ不安だったの。でも、これなら安心ね」
ニコニコ笑うお母さんの前では、「家の前で会っただけだよ」なんて言えるはずもなく、わたしとSakuはあいまいに笑って、その背中を見送った。
「「あの……」」
「「どうぞ……」」
声が重なって、空気が凍る。気まずい。沈黙がじわりと場を包む。
……だめだ。頭がまわらない。
Sakuが目の前にいるとか、義妹だとか、急に言われても脳が処理できるわけない。
そっと視線を右へとずらす。
その先にいるのは、黒髪黒目でキリッとした顔立ち。スレンダーでスポーティなポニーテールの女の子。
わたしの目が節穴じゃなければ、どう見てもSaku本人。
でも、見つめると目をそらされてしまう。
昨日の配信で見た、あのクールな印象とはまるで違っていた。
「あの」
「ひ……、ご、ごめんなさいぃ。ワタシなんて消えた方がいいですよね。妹ができても邪魔だろうし。親の再婚って言っても、ワタシたちにはそんなに関係ないわけで……、は、ははっ」
「いや! そんなことないです!」
わたしがあげた突然の大声にビクッと震えるSaku。
だけど、わたしがもっているこの気持ちは、本人を目の前にして伝えないわけにはいかない。
「だってあなた須藤朔さんですよね?」
「へっ」
Sakuがわたしをまっすぐ見る。大きな瞳がみるみる見開かれて、ようやくわたしを捉えてくれた。
「あの……知ってるんですか? ワタシなんかのこと……」
「そりゃあ知ってますよ! 知ってるどころか、有名人じゃないですか!」
声が弾んで止まらない。
「Sakuって言えば、伝説の配信者。齢14歳にして、現代最強の探索者の名をほしいままにしてるって——わたし、大ファンなんです!」
「う、うへぇ……そ、それは……過大広告ですってば……」
顔を真っ赤にして、両手でぱたぱた隠そうとする。その姿も配信では見たことない、新鮮なリアクションで——ちょっと可愛い。
でも、Sakuがどんなに謙遜したって、わたしは本当の実力を知っている。
他の人が苦戦してる場面でも、Sakuはほとんど汗もかかずに進む。少なくとも、配信で見せる姿はそうだった。
「昨日の配信も見てました! Sランクダンジョンをソロで攻略して、ブラックドラゴンを素手で倒してたじゃないですか! すっごくカッコよかったです。大好き。憧れてます!」
「う、あう……す、すごい見てくれてる……ありがとうございます……え、えへへ」
「当然です! ほら、これ見てください!」
わたしは自分のカバンを見せた。そこには、数少ない公式グッズのひとつ——Sakuのアクキー。
「エエッ!?」
Sakuが跳ねた。まるで未知の生命体でも見たかのような反応。配信じゃ絶対見せない、びっくりジャンプ。
そして、わたしのカバンを凝視。アクキーを、二度見、三度見。
「……じ、実在したんだ……ワタシのファンって……え、えへへ……す、好きになっちゃいそ……」
「ずっと言ってるじゃないですか! わたし、Sakuのファンだって! そもそも——」
「いつまでもなーにを玄関で話してるの?」
ぷくっとほっぺをふくらませて、お母さんが戻ってきた。腰に手を当てて、定番ポーズ。
「仲がいいのはいいけど、あんまり玄関で騒いでるとご近所迷惑でしょ」
「「あっ」」
いつもの“めっ”だ。Sakuの驚き顔がなんだか新鮮。
……うん、わかる。うちのお母さんって、時々ちっちゃい子向けのテンションでくるからね。
「あ、そうそう。今朝も言ったと思うけど、優ちゃんの方が朔ちゃんより数日だけお姉さんなんだから、優しくしてあげてね。手を洗ったらお菓子あるから、早くおいで〜」
満足げにそう言って、お母さんはひらりとリビングへ消えていった。
「……」
「…………」
「………………」
えっ、わたしの方が、姉? 本当にSakuが義妹なの?
視線を感じて振り向くと、Sakuが少し頬を赤くして、わたしをじっと見ていた。
「よ、よろしく……お義姉ちゃん」
「……召されてまう」
「え、え!? だ、大丈夫ですか!? お、お義母さーん! お義母さーんっ!」




