第22話 プライベートの炎上女
下校中の帰り道。
前を塞がれて、危うくぶつかりかけたその瞬間——気づいた。
わたし、昨日のことを思い出して、ぼーっとしてたらしい。
Sakuの復活劇。
あんなに騒ぎになったのに、つい頬が緩む。
「ごめんなさ——」
謝りかけた言葉は、喉で止まった。
目の前に立っていたのは、まさかの人物。
グレーから黒に落ちるグラデーションの髪。
冷えた赤い瞳がじっとこちらを見下ろしている。
ハイネックのトップスにカーディガン、タイトめのパンツその全て全身を黒で統一した、長身の女性。
まるで壁のように立ちふさがっていたのは——篝だった。
「あの……」
「なんですか? 何かご用ですか? ワタシたちの前に現れるなんておかしくないですか?」
わたしが一歩前に出ようとした瞬間、朔ちゃんがスッと手を伸ばし、わたしの前に立った。
まるで庇うように。
その様子を見て、篝は鼻で笑った。
「……何がおかしいんですか?」
朔ちゃんが険しい顔で問いかける。
「いや。アタシに向かって“ごめんなさい”って、あまりにも滑稽だな、と思って」
煽ってる。でも、カメラはない。これは配信じゃない。
つまり、素の篝ってこと……?
ダンジョン外でも、こんな感じなの?
生きづらくないのかな、この人。
「そんな目でアタシを見るな!」
チラとわたしを見ただけで、篝がいきなり声を荒げた。
目を見開いて、周囲の視線もお構いなしに怒鳴る。
「……反省して、大人しくしているようだったから、教育の成果が出たと思っていた。けれど、昨日。裏切ってくれたね。だからこうして、わざわざ文句を言いに来てやったの」
「文句……?」
思わず口に出る。
昨日、わたしたち、そんな非難されるようなことしたっけ……?
首をかしげるわたしに、篝はあきれ顔でにらみつけてきた。
「まさか。あそこまで教えてやったのに、自覚もないなんて!」
「自覚もなにも……別にあなたから教えてもらっていたことなんてないので。それと関わっていたと思われたくないので、そろそろ行っていいですか?」
「ふん。言葉の一つ一つに棘があるな」
それ、ブーメランじゃん。
そっくりそのまま返したい。
このままじゃ時間のムダだ。
わたしは朔ちゃんの背を軽く押して、「行こ」と促す。
そのまま、額に手を当てて立っている篝の横を通り過ぎようとした、そのとき。
肩に、手が置かれた。
反射的に飛び退いた。
燃えたり、灰になったりはしなかったけど……触られた事実にゾッとする。
「……なんですか? まだ何か用ですか? お義姉ちゃんに、気安く触らないでくれます?」
朔ちゃんの声が一段と強くなる。怒気すら含んでいた。
けれど篝は、わたししか見ていない。
その目は、どこまでも真っ直ぐで、どこか哀れにも見える。
「偽物だぞ」
「は?」
「前を歩く女は、偽物だ。そんな狡賢い配信者にくっついていても、先はない。お前の程度が知れるだけだ。それでも、ついていくのか?」
その言葉は、まるで優しく“諭す”ような声色だった。
……なんなの? この人。
きっと、自分が正しいって、心の底から信じ込んでる。
つくづく、哀れだ。
「……行こ」
わたしは無視して、もう一度、朔ちゃんの背を押した。
「でも、あいつ……」
「いーの。こーいうのは、反論したら負けだから」
「…………このまま大人しくしてるなら、見逃してやろうと思ったんだけどな。どうやら、それも無理みたいだ」
篝の捨て台詞が背中に刺さる。
でも、もう振り返らなかった。
わたしたちはそのまま、家へと帰った。




