第21話 Saku復帰配信
:よく配信できるな
:Sakuってメンタル鋼でできてんのかwww
:失踪したかと思ったのにな笑
待機中のコメントすら、皮肉混じりのものばかり。
なのに――朔ちゃん、いや、Sakuは、静かにカメラの前に立っていた。
配信者として、またこの場所に戻ってくるまで、どれほどの葛藤があったんだろう。
わたしにはわからない。
でも、これからは――その痛みの一部を、共有させてほしいと思った。
「いける?」
「……うん」
短くて、でもちゃんと芯のある返事。
Sakuは落ち着いていた。迷いは、ない。
カメラのランプが点き、配信画面が切り替わる。
Sakuが、ゆっくりと目を開いた。
「お久しぶりです。Sakuです」
:逃げてんじゃねぇ!
:さっさと辞めろ
:戻ってくんなって
……きつい。
コメント欄を見たSakuの瞳が、ほんの少しだけ揺れる。
――まずい。
すかさず、わたしはグータッチの構えを見せた。
Sakuの口元がふっと緩んだ。
そしてまた、カメラへと目線を戻す。
……よかった。
「色々ありました。ご心配も、ご迷惑もおかけしました。でも、ワタシは元気です。なので、攻略を再開していこうと思います」
“待ってました”。
口パクでそう伝えると、Sakuの表情は一瞬、微笑んだ。
でも次の瞬間には――
もう、あのクールなSakuに戻っていた。
「今回は盛大に巨獣です。巨獣って、絵的に映えるじゃないですか? なので、調べてきました。みなさん、ドラゴンって好きですか?」
そう、Sakuと言えば、竜殺し。
ここ最近の配信はどれも、それ絡みで話題になっていた。
本来なら、複数人で挑むような相手なのに――Sakuは、ひとりで討伐してみせる。
その姿に、わたしは何度も胸を打たれた。
でも……これまでのドラゴンも、けっこうデカかったよね……?
「もしかしたら、これまでのドラゴンでも十分大きかった。そう感じているかもしれません」
――心を読まれた!?
「でも、今回はきっと想像よりも大きいですよ。説明するより、見てもらった方が早いですね。……行きましょうか」
*
目当ての場所は床の装飾からして違っていた。
今までは自然の洞窟や平原が多かったけど、ここはまるで別世界。
床も壁も、レンガ造り。
どこかクラシカルで重厚なつくり。
鉄製の大きな扉には――ドラゴンのレリーフまで彫り込まれていた。
ファンタジーRPGに出てくる、いかにもボス部屋って感じ。
「この中です」
Sakuが扉に手をかけ、ぐっと力を込めて押し開く。
――その先は、まるで玉座の間。
いや、違う。
宝物庫だった。
黄金が天井から壁まで反射して、あたり一面がまばゆく光っている。
そして、その中央。
トラックなんかじゃ運べない。
ビルが何棟も横倒しになったような巨大な影が、赤い喉をゆっくりと光らせながら、わたしたちを見下ろしていた。
「――クリムゾンレッドドラゴン」
その名前が呟かれた瞬間。
コメント欄が一瞬、静まりかえった。
……絵として見ても圧倒的。
画面越しでも、視線が釘付けになる。
伝説の存在。
けれど、目の前のドラゴンは容赦なく、こちらを値踏みするような目で見下ろしてくる。
喉元の赤い輝きが、次第に黄金を照らし出す。
そして――
「来るっ!」
咆哮と同時に、口から真紅の熱線が一直線に放たれた。
――だが、Sakuはすでに動いていた。
一歩、二歩。
避けるのではなく、切り裂きながら、前へ。
火線の端を駆け抜け、竜の顔面へ肉薄。
剣を一閃、ブレスの中を割ってその口の端を切り裂いた。
「グギャアアアオオオオオ!!」
怒声のような悲鳴を上げ、ドラゴンが頭を暴れさせる。
熱が暴発し、口から赤い血が滴り落ちていく。
苦悶のあまり、竜が首を振り回す。
その隙をついて、Sakuは――すでに空へ跳んでいた。
天井を蹴り、落下。
流星のごとく剣を振り下ろし、眼球を一突き。
ドシュッ、と音を立てて竜の目から血が噴き出す。
一瞬で、動きが止まった。
「やる前から諦めるなんて、それっておかしいですよね」
:やっぱSakuしか勝たん
:引退しろとか言ってすまん
:見ててスカッとしたわマジで
コメント欄が、今度は高速で称賛の嵐に切り替わっていく。
わたしがサムズアップを送ると、
Sakuはウインクで返してきた。
――……ちょっと。
そんな大胆なこと、今までなかったのに……。
……なんだろう、この気持ち。




