第20話 復活の義妹
エスメラルダさんが部屋を出ていって、しばらく。
何かをするより先に、朔ちゃんは迷いなく、あの円盤に手を伸ばした。
起動された円盤から、ふわっとした雰囲気の中性的な子が映し出される。
相変わらず、どこか夢の中みたいな、不思議な存在感だった。
「また別の子だ。はじめまして。ボクはアメノミヤ・ルツェ。キミはもう目的が決まっているみたいだね? うん、本来はそっちの手伝いのほうが得意なんだ」
「……初めまして。ワタシは不知火朔。目的は……心を強くすること。どんな状況でも、折れない心が、欲しい」
「なるほどね」
ルツェちゃんはうんうんとうなずきながら腕を組み、片目だけ開けてわたしを見てきた。
まるで何かを見抜いたように、ゆっくりと笑って、もう一度大きくうなずいた。
でも、わたしには、その笑顔の意味がよくわからなかった。
「きっと、それ、必要ないと思うよ」
「でも、ワタシ……すぐに折れて、動けなくなっちゃうから」
「ううん、大丈夫。荒療治だったかもしれないけれど、ボクの出る幕じゃない」
「でも……何か、方法があるはずで――」
「ないない。うん、キミはもう“持ってる”んだよ。ただ、それに気づいてないだけ。……というより、ちょっと、ないがしろにしてるって感じかな」
「そんなこと……」
「じゃあ、自覚しよう。ボクより先に話すべき相手が、すぐ近くにいるんじゃないかな?」
――ハッ、と息を呑む音が部屋に響いた。
朔ちゃんが、くるっと振り返る。
わたしと、目が合った。
驚いたようなその顔には、ほんのり血色が戻っていて――なんだかんだで、表情に出ちゃう朔ちゃんらしさに、思わず笑みがこぼれる。
ああ、よかった。
ふと気が緩んだのか、朔ちゃんの目が泳ぎはじめた。口をぱくぱくさせながら、何かを言おうとしてる。
ああもう、かわいいなあ、ほんと。
「お、お義姉ちゃん……」
恥ずかしそうに、もごもご口を動かしながら、指先をそわそわいじってる。
「なぁに? 朔ちゃん」
できるだけやわらかく、優しく声をかける。
「ご、ごめんっ!」
ポニーテールがぶんっと跳ねるほど、勢いよく頭を下げた。
この一週間、わたしが毎日結んであげてたポニーテールだ。
「ワタシ、自分のことばっかりで……迷惑をかけてるってことしか考えてなかった。人の邪魔にならないようにって、そればっかりで。もし損害を出したら、誰かが離れていっちゃうって思ってた。でも、お義姉ちゃんは……何度だって言ってくれた。迷惑じゃない、って」
「うん。わたしは一度も、迷惑だなんて思ってないよ。エスメラルダさんも、配信を見てくれる人たちも、きっとそう。朔ちゃんはSakuで、わたしはファン。朔ちゃんは義妹で、わたしは義姉。――これは、配信でSakuを見つけた日から、家の前で声をかけたあの日から、ずっと変わってないよ」
顔を上げた朔ちゃんの目に、ぽろりと光るものが浮かんだ。
わたしはそっと指先で、それをぬぐってあげる。
驚いたように見開かれた瞳が、また愛おしかった。
ほんとに、臆病で、頑固で、でもまっすぐな子。
わたしは震えている朔ちゃんの手を、しっかり握った。
「戻ってくるって、信じてたよ」
「……すっごい、待たせちゃった」
「ほんとにね」
でも、うれしい。
本当に、戻ってきてくれてよかった。
心配してたのは、きっとわたしだけじゃない。
みんな、ずっと気にしてた。
「なーんか、すーぐ忘れちゃうみたいだからさ。もう一回、はっきり言っておこうかな?」
「な、なにを……?」
朔ちゃんが一歩引きかける。
でも、もう手は握ってる。逃がさない。
そのまま、わたしは朔ちゃんの目を見つめて、ゆっくり顔を近づける。
ビクッと肩を震わせる朔ちゃんに、ちょっとだけ悪戯っぽく笑いかけて――
「わたしは、朔ちゃんのことが好き。大好き。迷惑だって、かけてほしいくらい」
「……あ、ありがとう。お義姉ちゃんのこと……ワタシも、す、好き……」
顔を赤くしながら、ぎこちない笑顔を浮かべる朔ちゃん。
その言葉は、たしかに――ちゃんと、届いたよ。
「迷惑……かけたくなるくらい」




