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推しのダンジョン配信者が妹になった義理の姉妹の話  作者: マグローK


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第19話 病み義妹

 篝の襲撃から、一週間が過ぎた。


「……」


 朔ちゃんは、いまだに意気消沈したまま。

 曇った目で、どこか遠くを見つめて動かない。

 まるで、誰も近づけない場所に閉じこもっているようだった。


 必要最低限しか動かず、声も出さず、ご飯だって喉を通ってるのか心配になるくらい。


「朔ちゃん」


「…………」


 名前を呼んでも、返ってくるのはわたしの袖を少し掴む小さな動きだけ。

 それすら、かすかな反応。


 もう、まともな会話すらできない。

 元気づけようにも、空回りして終わるだけ。


 ……そりゃそうだ。

 配信者でないわたしが、Sakuにかけるべき言葉なんて、あるはずがない。


 だから、わたしはただ――隣に座っていた。


 距離だけは前より近くなった。

 だから、離れないようにしている。


 でも、こんなの――全然、よくない。


「……ねぇ、朔ちゃん」


「……」


「配信、しない?」


 その一言で、朔ちゃんが急に顔を横に振った。ブンブンと激しく。


 久しぶりの反応。でも――


「や、やだ! い、いやっ!」


 まるで駄々をこねる子どものように、朔ちゃんはわたしの腕にしがみついた。

 その手に込められた力は、少し痛いくらい。


 でも、それ以上に痛いのは、

 わたしの知ってる、あの輝いてた“Saku”が、今にも壊れそうに見えることだった。


 見ていられず、たまらわずわたしは朔ちゃんを抱きしめた。


 ――そのとき。


「お邪魔するわよ」


 扉が、勝手に開いた。


 次の瞬間、部屋の空気がガラリと変わる。


 LEDライトすら反射して、銀髪がまるでミラーボールみたいに煌めいた。

 長身・長髪の美女が、優雅に歩いてくる。


 まるで部屋そのものが、舞台の照明を浴びたかのように、ぱっと明るくなった。


 エスメラルダさん――。


 ノックもなく当然のように部屋に入ってきた彼女に、思わず目を奪われる。


「って、えっ、エスメラルダさん!? なんでここに!?」


「姉としての務めを果たしに来たの。不甲斐ない妹のためにね」


「い、いやそうじゃなくて! 住所とか……どうやって……」


 疑問は、彼女のひとつの咳払いにかき消された。


「Saku」


「……」


 鋭く、けれど感情を抑えた声音。


 でも、それにも朔ちゃんは応じない。


 まるで、電源を落とされた人形みたいに――無反応。


「ねぇ、Saku。いつまでそうしてるつもり?」


 低く、でもはっきりとした声が落ちる。


「あの不甲斐ない配信から一週間。何のリアクションもなし。黙って嵐が過ぎるのを待つつもり?」


 静かな怒りが、空気を震わせた。


 わたしが知っている穏やかなエスメラルダさんじゃない。

 今の彼女は、優しさを脱ぎ捨てた“姉”だった。


「エスメラルダさん……その言い方は――」


「優の妹かもしれない。でも、あなたは探索者でしょ?」


 真っ直ぐに、朔ちゃんを見つめながら続ける。


「その力、なんのためにあるの? もし篝が、ただの炎上屋じゃなくて――本物の殺人鬼だったら。あの日、あの時、優を守れたの?」


 言葉が鋭く刺さる。


 でもその鋭さは、責めるためじゃない。


 ……目を覚ませって、そう言ってる。


 わたしも思い出していた。

 篝は、殺そうとしてたわけじゃない。ただの“配信者”だったから、命を落とさずにすんだ。


 ――でも、それはたまたま。


 もし、あのとき本当に命の危険があったら。

 わたしは今ここにいない。


「……あ」


 朔ちゃんの肩が、小さく震える。


 迷うように目を泳がせて、それでも――わたしの腕からそっと離れて、拳を握りしめた。


「ワタシが……守るんだ。お義姉ちゃんは、ワタシが守るはずだった……!」


 震える声。でも、確かな意志。


 その言葉に、エスメラルダさんはふっと笑った。


「そう。……そうよね」


 やわらかく微笑んで、くるりと背を向ける。


「え、え、ちょ、エスメラルダさん? どこ行くんですか?」


「――あとは、そこの銀の円盤にでも任せようかしら」


 そう言って指差したのは、部屋の隅に置かれた――アメノミヤ。


 彼女は最初から、全部わかっていたんだと思う。


 ここまでになるとは思ってなかったかもしれない。

 でも、それでも“備えて”いた。


 ……さすが、わたしたちの“お姉さま”だなって、そう思った。

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