第14話 義妹の隣に立ちたくて
わたしは今、ダンジョンにいる。
ひとりで来た。朔ちゃんはいない。
――お姉さまと待ち合わせ中。
目的はただひとつ。
朔ちゃんの力になれるよう、わたし自身がもっと強くなるため。
たぶん、わたしがちゃんと隣に立てていないから。
だからあの子、無理してひとりで背負おうとしてるんだ。
だったら――
わたしが強くなればいい。
そうすれば、対等に並べるはずだから。
「お待たせ」
軽やかに現れたその人は、探索のプロにして、わたしの頼れるお姉さま――エスメラルダさん。
わたしみたいな素人の呼び出しに、まるでお茶会にでも行くかのような優雅な登場。
「来てくださりありがとうございます」
「当然でしょ? 大切な妹の頼みだもの。それより……」
エスメラルダさんは、わたしの服装に気づくと、ふっと微笑んだ。
「いいじゃない。さっそく着てくれてるのね。似合ってるわよ」
「あ、ありがとうございます」
黒を基調にしたゴシックドレス。
お姉さまがわたしのために発注してくれた、おそろいの装備。
武器の雰囲気まで合わせてくれて、もう至れり尽くせり。
ほんと、心の広い探索の大先輩。
「でも……ほんとにいいんですか? わたしみたいな素人が、こんな立派な装備を使っちゃって」
「いいのよ。使わなければ、ただの“物”でしょ? 道具っていうのは、使ってこそ意味があるんだから」
「エスメラルダさん……」
正直ちょっと……というか、かなり恥ずかしい。
普段こんな格好しないし、コスプレ気分だ。
でも、ある程度のグレードを超える装備には、魔法的な補正効果があるらしく――身につけるだけで、力が湧いてくる。
……今まで使ってたのなんて、ほとんど運動着だったし。
「そういえば」
周囲を見回してから、お姉さまが言う。
「Sakuはいないのね?」
「はい。朔ちゃんには内緒なんです。知られずに、隣に立てるくらい強くなりたくて」
「……そう」
遠くを眺めるような視線で、エスメラルダさんがわたしを見た。
「ほんとうに、うらやましいわ。Sakuには、あなたみたいなお姉さんがいるんだもの」
「えっ、なに言ってるんですか? エスメラルダさんみたいな素敵なお姉さまがいてくださるじゃないですか」
「んー、それはまた別というか……」
ちょっと困ったような笑みで、エスメラルダさんは肩をすくめた。
朔ちゃんにとって、わたしは「姉」で、でもわたしのお姉さまは朔ちゃんにとってもお姉さまのはずだ。
「ま、とにかく」
エスメラルダさんがくるりと背を向ける。
「さっそく、探索に出発しましょうか」
「よろしくお願いしますっ!」
*
エスメラルダさんに背中を守ってもらいながら、わたしはダンジョンを進んでいく。
斬る、刺す、絞める――
出てきた“一発ウサギ”たちを、なんとか撃破し上層は問題なく突破。
そして、次のエリア、中層へと足を踏み入れる。
「うわ……!」
思わず声が出た。
今までの“いかにもダンジョン”な空間とは違っていた。
そこは、地下とは思えない――草原のような世界。
広がる緑、天井から差し込む淡い光。
まるで、地上に戻ったかのような錯覚すら覚える。
以前、お姉さまに見せてもらった幻覚と、どこか似てる。
あれはこのエリアをもとにしていたのかも。
「自然系……とはよく言ったものね」
さすが慣れた様子のエスメラルダさん。
特に驚くでもなく、でもその眼差しは真剣だった。
わたしはというと――その横顔に見惚れて、気づくのが遅れた。
――視界の端で、何かがムチのようにしなる。
「っ……!」
気づいた時には、もう遅かった。
右手首が、しっとりとしたツタのようなもので絡め取られていた。
「えっ、ちょっ……!」
じわじわと締めつけられてくる感覚に、反射的に左足を跳ね上げる。
足の拘束は、ギリギリで回避!
「すごいわね……この状況で、ちゃんと見えてるなんて」
――視野の広さは、わたしの強み。
授業でも、そう言われてきた。
でも、普段だったら見えても体が反応できない。
今日は装備と、エスメラルダさんのおかげ。
擬態していた植物の中から、花の形をしたモンスターが姿を現す。
ギザギザの歯を真ん中に備えた、異様な口。
……うえ、あれ絶対、食べにくるやつ。
右手首のツタがわずかに緩む。
「今だ!」
力を込めて、ツタをふりほどく。
そのまま――一気に駆け出す!
ギザ歯モンスターとの距離を詰め、すれ違いざまに、剣を振り抜いた。
斬撃が決まると同時に、「ブチッ、ブチチ……!」
音を立てて枯れ落ちるツタ。
モンスター本体も茶色く変色して、砂のように崩れて消えていった。
「は、はぁ……っ」
戦闘終了。
息を切らしながら、わたしはその場にしゃがみ込む。
層が変わるとこんなに危険が増えるなんて……。
自然と手が震えていた。
ふっとモンスターのいた場所へ視線を落とすと、ツタの下には――なにか、箱のようなもの。
お姉さまのサムズアップを確認してから、わたしはその箱に手をかけて慎重に開けてみた。
中にあったのは――銀色の、フリスビーみたいな円盤。
「これ……どこかで見たような……?」
学校の授業で似たものを見たような気がするけど、思い出せない。
「エスメラルダさん、これ……」
「持って帰っていいわよ。優も、もう立派な探索者なんだから」
「えっ、いいんですか!?」
「だって今の戦闘、優の手柄でしょ?」
「でもあれは、お姉さまのくれた装備があったから……」
「何を使おうと、成果は成果よ。それに、悪いなんて思わなくていいの」
にっこり微笑むエスメラルダさんに、わたしはうなずいて、
その円盤を、大事にバッグにしまった。




