第13話 もっと甘えて義妹ちゃん
最近、朔ちゃんの元気がない。
配信のときはいつも通り――いや、むしろ前より堂々として見えるくらい。
でも、その裏で配信が終わると、ほとんど話してくれない。
……なんか、ちょっとだけ、避けられてるような気さえする。
あの日、エスメラルダさんに会ったあの日から――朔ちゃんの様子は、どこか変わってしまった。
「……」
今日は久しぶりに、リビングでふたりきり。
夜は今でも一緒のベッドで寝てるけど、何か話す前に朔ちゃんは寝ちゃって、こっちはずっと気を張ってる感じ。
まるで、わたしだけが意識してるみたいで、ちょっと切ない。
オタクの一方的な感情って言われたら、それまでなんだけど。
でも、初日は――あんなに近かったのに。
「……」
前みたいにアニメも見ず、テレビは無機質なニュース番組。
クーラーの風が、今日はやけに冷たく感じる。
「朔ちゃんさ。なにかあったの?」
唐突に切り出すと、朔ちゃんの肩がピクッと跳ねた。
大げさに手を振りながら、無理やり笑顔を作って振り返ってくる。
「う、ううんっ! 別に、なんにもないよ? お義姉ちゃん変なこと言うなぁ」
明らかに不自然なテンション。
挙動も不審すぎるし、目も合わない。
……短い期間だけど、わたしだって姉をやってきた。
朔ちゃんが何かを隠してることくらい、わかる。
「急になんともないのに聞いてくるから、びっくりしたよ」
その割には饒舌すぎる言い訳。
わたしはじっと黙って、続きの言葉を待つ。
すると、朔ちゃんは困ったように目を泳がせて、微妙な苦笑いを浮かべた。
「……ワタシって、そんなにわかりやすい?」
「朔ちゃんって、普段はけっこうわかりやすいよ?」
「やっぱり、お義姉ちゃんは人をよく見てるんだね」
「朔ちゃんだから目を離さないようにしてるの。みんなにはしてないよ?」
その言葉に、朔ちゃんはくちびるをぎゅっと結び、手をきゅっと握りしめた。
そして――ふっと、ため息をつく。
「……そんなふうに言われるから、勘違いしちゃうんだよ」
「なんて?」
「ううん」
朔ちゃんは首を横に振る。
でも、ぽつりとこぼれた言葉が、胸に引っかかる。
「ワタシが、お義姉ちゃんと一緒にいるのって……お義姉ちゃんにとって、迷惑なんじゃないかなって」
「え? なにそれ? どうして? 普通逆じゃん!」
「だって……ワタシ、ダンジョンの外じゃ無力だし。いつも頼ってばっかで……」
朔ちゃんは視線を落とし、小さな声で自分を責めるように言った。
その姿は、あのクールでかっこいい、最強無比のSakuじゃない。
そして、ビビリで臆病な朔ちゃんでもない。
まるで、弱った子猫みたいに――か細くて、心細くて。
だけど、ようやく見えてきた。
朔ちゃんの“本音”。
「……なぁんだ。そんなことで避けてたの?」
「避けてたっていうか……うん」
「じゃあ、そんなの気にする必要ないよ!」
わたしは朔ちゃんの手を取った。
ひんやりとした手。
ダンジョンでは強いのに、こんなにも冷たくて柔らかい。
ビクッと震えるのが伝わってきて、朔ちゃんがようやく顔を上げる。
大きく目を見開いて、迷うような、困ったような瞳で、わたしを見つめてきた。
「……でも、それって甘えだし、弱さでしょ?」
「うん。だから――甘えてよ。弱さも見せてよ。朔ちゃんは、人間なんだから」
わたしの想いは、ただの押しつけかもしれない。
でも、今だけは言わなきゃいけないって、思った。
「わたしは、朔ちゃんのお姉ちゃんで――Sakuのファンなんだよ? 迷惑とか、考えたこともないよ」
「でも……」
「朔ちゃんのこと、好きなんだよ」
朔ちゃんの瞳を、まっすぐ見つめる。
「わたしは、朔ちゃんが好き。Sakuが好き。だから――もっと、わたしに迷惑かけて?」
「……いいの?」
「いいの。だって、わたしも迷惑かけてるし。お互いさま、でしょ?」
にっこり微笑むと――朔ちゃんも、困ったような笑顔を浮かべてくれた。
久しぶりに見る、安心した顔。
「……また、甘えちゃったな」
上目づかいで、ぽつりとつぶやいたその言葉に。
――思わず、胸がドキッとした。
やっぱり朔ちゃんはこうでなくっちゃ。




