表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しのダンジョン配信者が妹になった義理の姉妹の話  作者: マグローK


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/24

第15話 お義姉ちゃんとして

 入れ違うようにして朔ちゃんが配信に出かけたあと、わたしは1人、自分の部屋で戦利品の円盤を取り出した。


「……これって、ほんとに何だったっけ?」


 無機質な見た目なのに、なぜか懐かしくて、愛嬌すら感じる不思議な物体。


 指先でそっとなでていると――


「ブン」


 突然、小さな起動音がして、薄青い光が円盤の下側から床に向かって投影された。


「わっ!」


 光の先に、人の足のような影が浮かび上がる。


 驚いて手を放すと、円盤は小さく跳ね、その動きに合わせてホログラムの足もぴょこぴょこと揺れ動いた。


 ……これ、ホログラム? やっぱりそういう類のやつだ。


 やがて、円盤が起き上がり小法師のように安定すると、その姿全体が見えてきた。


「人……?」


 眠たげな顔。白い、ゆったりとしたローブのような布。足元まである長い白髪に、涼しげな青い目。

 男の子? 女の子? いや、どっちとも言えない、中性的な雰囲気をまとった子。


 まるで、そこに実在するかのように、すっとわたしの部屋に現れた。


「久しぶり! ……って思ったけど、どうやら違う子みたいだね。それじゃあ、初めまして」


 笑顔を浮かべて、その子はぺこりと頭を下げた。


「ボクはアメノミヤ・ルツェ《探索者のメンタル支援システム》さ」


「は、初めまして……えっ、アメノミヤ!?」


「そうだよ? え、なに? ボク、なにかやらかしちゃった?」


「う、ううん! なんでもない、ちょっと思い出しただけで……」


「ふーん、そっかぁ」


 虚弱そうな外見とは裏腹に、どこか飄々とした口ぶり。

 でも、触れようとすると、スッと逃げようとするところが小動物っぽい。抵抗できないのに、逃げようとする仕草がなんだか可愛い。


 この子……ルツェちゃんは、アメノミヤの補助システム。

 スキルの足りない探索者をサポートするために作られた、マジックアイテムの一種。

 使用者の魔力を燃料にして動く、擬似スキルのような存在だ。


「でも安心した。初対面だと、だいたいの子はボクを受け入れるのに時間がかかるんだけど……キミは平気みたいだね」


「……わたしは、あなたを知ってるから。……正確には、“あなたと同じような子”を、だけど」


「なるほどなるほど。それは納得。じゃあさ、悩みは? キミの悩み。ボクはそれを解決するためにいるんだ。新たなご主人様のためにね」


「……そう、だよね」


 悩みなんて、山ほどある。


 いままでなら気にしないでいられたことも、朔ちゃんの“お義姉ちゃん”としては、無視できなくなった。

 あの渡辺さんでさえ、わたしへの接し方に悩んでくれていた。


 だからこそ、わたしも――もう、「わからない」で逃げちゃダメだ。


 “悩み”として、ちゃんと向き合わなきゃ。


「わたしはっ……!」


 *


 朔ちゃんに、配信へ出たいと頼み込んだ。

 事故で映り込んだ、あのときのこと――きちんと説明して、ケリをつけるために。


 わたしはようやく、カメラの前に立つ覚悟を決めた。


 今日までの配信でもコメント欄では、朔ちゃんのファンたちが不安がる様子をちらほら見せていた。

 でも朔ちゃんは、絶対にその話題を深掘りしようとしなかった。


 優しさなんだと、わかってた。


 でも、もういつまでも、そのままではいられない。

 背中を押してくれたルツェちゃんのおかげで、わたしはこの場に立てた。


「……いいの? ワタシが説明するべきことなのに」


 Saku――じゃなくて、“朔ちゃん本人”の顔で、わたしの目を見てくれる。


 優しい目だった。


「いいの。……わたしから話をさせて」


 まっすぐ見つめて、言葉に込めた想いはちゃんと伝わったと思う。


 朔ちゃんは黙って、こくりとうなずいてくれた。


 カメラのランプが灯る。


 配信が始まる。


「今日は、以前の配信に映り込んだ女の子についてお話ししたいと思います。あれは完全にワタシの不手際でした。そして、彼女を巻き込んでしまいました……。でも、本人が“自分の言葉で話したい”と言ってくれたので、今日は来てもらいました」


 カメラが、わたしに向けられる。


 心臓が飛び跳ねるみたいに鼓動して、顔が耳まで熱くなる。

 頭の中がぼうっとして、息がうまく吸えない。


 体中が熱い。


 ――朔ちゃんは、こんな状態でも、いつもあんなにクールに配信してるんだ。

 なんだか、ちょっとだけ近づけた気がして。


 うれしかった。


「……お、お義姉ちゃん……?」


 朔ちゃんに呼ばれて、我に返る。


 笑ってたの、バレちゃったかもしれない。


「わたしは……Sakuの義理の姉です。探索者としての力もなく、何の役にも立てませんでした。それでもダンジョンに同行して迷惑をかけました。それが……あのとき映っていたわたしです。でも、もう――そんなことはしません」


 瞬間、モンスターにいち早く気づいた朔ちゃんが走り出す。


 ……きっと、わたしの話が中断されないようにって、守ろうとしたんだ。


 でも、それじゃダメなんだ。


 わたしは――“お義姉ちゃん”だから。

 守られてばかりじゃ、いられない。


 だから、わたしも走り出す。


 背後から追尾してくるカメラの赤いランプ。

 緊張で手のひらに汗がにじむ。でも、止まらない。


 エスメラルダさんの教えを思い出して、前方のモンスターに向かって剣を構える。


 現れたのは、大型犬サイズの、黒い毛並みに赤い目のモンスター。

 低く唸るような声。爪が、石床を引っかく音。

 ゾクッとするほど獰猛な気配。


 でも、大丈夫。朔ちゃんとなら――!


 アイコンタクトで、すぐに動きが合った。

 息を合わせて、同時に斬りかかる。

 わたしの剣と、朔ちゃんの刃が交差するようにモンスターを切り裂いて――


 霧のように、その体は消えていった。


:まるで本物の姉妹みたいだ


「……ふふっ」


 流れたコメントに、思わず笑みがこぼれた。


 ようやく、朔ちゃんの隣に――わたしは立てた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ