第11話 ワタシ以外と仲良くするなんて
お義姉ちゃんが、エスメラルダさんと――楽しそうに話してる。
まるでピクニックにでも来たみたいな、のんびりした雰囲気の中で。
優雅に、穏やかに、まるでワタシなんて最初からいなかったみたいに。
ワタシは、ちょっと離れた場所からその様子を見つめていた。
「……」
べつに、エスメラルダさんのことが嫌いってわけじゃない。
むしろ、配信の外でも色々教えてもらったり、助け合ったりしてるし。
お互い“独り”を抱えてる者同士、なんとなく波長も合ってた。はず、だったのに。
なのに――。
お義姉ちゃんとあんなふうに楽しそうにしてるのを見ると、胸がざわざわする。
もやもやして、落ち着かなくて、ちょっとだけ痛い。
「エスメラルダさんみたいに、一人でも戦える探索者になるには、どうしたらいいんですか?」
「ふふっ。焦らなくても大丈夫よ。私だって、優くらいの頃は、ほとんど何もできなかったんだから」
「でも、エスメラルダさんって、わたしと同じ歳のときにはもう配信してましたよね?」
「よく知ってるのね。でも、知ってるならわかるでしょ? その頃なんて、今のここと同じか、それ以下のランクだったわ」
「でも……!」
「しかも、私には師匠もいなかったしね」
お義姉ちゃんは、目をキラキラさせながらエスメラルダさんの話を聞いている。
その顔が、ワタシと話してるときより――楽しそうに見えて。
胸がぎゅっと苦しくなった。
……こんな感情、いままでなかったはずなのに。
でも思い返せば、ワタシが勝手に舞い上がってただけなんだ。
お義姉ちゃんは“ワタシにだけ”優しいって、どこかで信じてた。
でも、ちがう。あの人は、“みんな”に優しい。
……それこそ、優をいじめていた渡辺さんにすら。
「……ワタシだって、同じこと教えられるのに」
思わず漏れたその言葉に、自分でもハッとした。
……けど、遅かった。
エスメラルダさんがピクッと反応して、ワタシの方をじっと見てくる。
同時に、お義姉ちゃんの動きがピタリと止まった。
――幻影操術。
「なっ……!」
突然の拘束に、ワタシは思わず柄に手を伸ばして身構える。
今のところ実害はないけど、これは最上級の停止技。
それを、お義姉ちゃんに――?
「エスメラルダさん。……何のつもりですか?」
「Saku。どうしてあなた、自分が“姉”だって言わなかったの?」
「え……? い、いきなり何の話ですか? ごまかさないでください」
「そっちこそ、ごまかさないで答えて。どうして、優の“妹”という立場に甘んじてるの? ねぇ、教えてくれない?」
――なにそれ。意味がわからない。
でも、エスメラルダさんの目が真剣すぎて、言い返す気力が一瞬で抜けた。
なんなの、そのまっすぐすぎる目。こんなの……ずるい。
「……生まれた日が、後だったから」
「……それだけ? たったそれだけで“妹”になるって、認めたの?」
「他に何があるっていうんですかっ」
気づいたら、ムキになって叫んでた。
けど、エスメラルダさんはため息をひとつついて、落ち着いたままワタシを見つめ返してくる。
「……本当は、“妹”なら、お義姉ちゃんに甘えられるって、そう思ったんじゃない?」
「う……!」
「図星ね」
「……」
「誰かが先に信じてくれるのを、じっと待ってるのよね。Sakuって。あなたのお義姉ちゃんと違って」
「…………っ」
――反論できない。
ぜんぶ、そのとおりだったから。
……悔しい。
でも、それ以上に――情けなくて、苦しくて。
ワタシは、ただ拳を握りしめることしかできなかった。
「責めてるわけじゃないわ。ただ……お互い、難儀な性格よね」
エスメラルダさんは、ちょっと寂しそうに笑って、夕方色の空を見上げる。
――幻影が、少しずつ、終わりに近づいていく。




