受け取ってくれないか?
「ごちそうさま~。おいしかった~。」
パティスリーを出ると美玲が笑顔で言った。そんなこんなで美玲は8個も平らげ、まだ余裕の笑顔である。俺は4個でもう腹いっぱいなのに。
笑顔が見られたのはいいが、腹が重い。しかし、胸はもっと重い。これからが本題だからな。
パティスリーで色々と話したかったけど、ケーキに夢中になっていることや、回りの目が気になったので、当たり障りのない会話でとどめておいた。さて、俺の本題はこれから。
また自転車に二人乗りをして近くの公園まで移動した。ベンチに座らせてから、近くの自販機でペットボトルのお茶を二本買い、一本を手渡してから隣に座る。
「これ、受け取ってくれないか?」
美玲のほうに向き直って、そっと第二ボタンを外して差し出すと、ためらいがちに俺を上目遣いに見た。
「だって、これって…。」
「ずっと受け取ってほしかったんだ。やり直したくて。」
「でも…。私、これから受験生よ?」
「だから何?」
「何って、受験でバタバタするじゃないの。それに、コウキはこれから大学生でしょ?私のことがジャマになるんじゃない?」
「どうしてジャマになるわけ?」
むしろ、俺のことがジャマにならないといいが、と心配しているが。受験は断る口実か?
「遊びに行ったりできないよ?」
「いいよ。受験が終わるまでは、待つから。そんなに会えないことも覚悟してるし。だから、もう一度、俺と付き合ってください。」
「………。」
美玲は無言で俺を見る。やっぱり俺って嫌われているんだろうか?
「俺じゃダメなの?」
「よくわからない。でも、留学のときも、浮気されるのがイヤで心配だから別れたんだもの。コウキ、優しいから流されちゃいそうだもの。」
そんなことを心配していたのか。これって脈ありか?
「心配するな。俺はモテない。それに、受験が終わるまでは学校の帰りにでもこうして会えるだけで充分だから。」
また美玲は黙りこむ。
「だから、もう一度、側に居させてほしいんだ。勉強の邪魔をしないようにするから!」
「あのね、本当のこと、言うね。最初にコウキに付き合ってって言われたとき、彼氏彼女っていうのに憧れていて、それで付き合ってみることにしたの。でも、私はコウキにレンアイしていたかどうか、わからないの。今もわからないの。」
好きのバランスは、俺ばっかり大きかったんだ。そうかな、とは思っていたけど、改めて言われるとショックだった。
「それでも、いいから。側に居させてほしい。だから…!」
美玲の手を取って手のひらにボタンを乗せて、手を包みこむ。強引に受け取らせたくて、そのまま強く手を握った。すると美玲の手がすっと小さくなるのを感じた。
「大学で浮気したら許さないんだからね。」
手を見ると美玲がボタンを握り締めて、いたずらっぽく笑っている。
まだ肌寒い春の夕方、俺の長い片想いにも、春の足音が聞こえてきた。




