最後の寄り道。
「おい。コウキ、昼メシ行かね?」
卒業式も、最後のホームルームも終わって、本当に卒業したんだな、としみじみしていると昇降口のところで大樹に声をかけられた。
「夕方までなら時間あるだろ?」
「ああ。俺はいいけど、お前んとこ、パーティーじゃねーの?」
俺が夕方に約束があるのを知って気を遣ってくれたのか?大樹ならまた例によって自宅のパーティールームで集まることもできるだろう。
「さすがに受験がまだ残ってるから、そんな気になれないよ。」
「そうか。」
「だからってワケじゃないけど、昼メシ行かね?制服で寄り道するの最後だぜ?」
「そうだな。行くか?ところでお前んとこ、運転手さん大丈夫なのか?」
「今日は自転車で来たんだ。何しろ最後だからな。」
大樹との寄り道は、運転手さんの車に一緒に乗せてもらうことが多い。運転手さんはこういう時はたいてい、懇意にしている銀行の駐車場で待ってくれている。何せ江川家である。近隣を牛耳っていると言っても過言ではない。だからこそ、ボディーガードを兼ねた運転手付きの登下校をしているが、たまには自転車で登校する。本当は自転車通学のほうが好きなのだが、安全面から、大樹の親がそれを許さなかったのだ。事故の心配よりも誘拐の心配である。我が家とは無縁の心配である。
行き先は江川家御用達の焼肉屋である。昼間から制服で焼肉。普段なら匂いがつくからとお袋にキレられそうだが、今日は最終日なのでそれも大丈夫だろう。
江川家御用達とはいえ、カジュアルなランクの店である。とはいっても普通に考えると、そこそこにグレードが高い。そして、大樹は顔パスである。予約をしていないのにいきなり個室に案内されるのもいつものことだ。
「校門のところ、相変わらずすごかったな。」
「そうだな。」
例年のことだが、校門のところには在校生に混ざってあちこちの女子高生が押し寄せている。第二ボタンをもらいに来ているらしいのだが、学校はいいのか?そんなことにご縁のない俺たちは、羨ましい気持ちも半分、それを尻目に学校を出てきたのだ。
「コウキは今日、渡すんだろ?」
「おう。受け取ってもらえといいんだけどな。」
「まあそう心配すんなよ。」
大樹がスタッフさんに耳打ちをするとジョッキのビールが出てきた。私服のときなら今までにもここでビールを飲んだこともあったが、制服で来たときには絶対に出てこなかった。
「おいおい。いくら個室といってもこれはマズいだろ。」
「大丈夫だよ。それよりコウキ、緊張しすぎ。卒業祝いと激励ってことで!乾杯!」
大樹はグラスを高く上げるとクイっとジョッキの半分ほどを飲んでしまった。
「ま、いっか。」
そう言ってジョッキを傾けると大樹が満足そうにニカッとした。




