第三話 心を許した相手にはお優しいのよ
その数日後、ローゼリアは令嬢たちの茶会に招かれた。
笑われても構わない。せめてアルベルトに恥をかかせないよう、婚約者として社交を果たさなければならない。
そう自分に言い聞かせて参加した茶会で、アルベルトの幼馴染だという侯爵令嬢が、ローゼリアの隣に腰掛けた。
「ローゼリア様は、アルベルト様にずいぶん大切にされているのでしょうね」
「え……?」
「だって、お二人は婚約者ですもの」
令嬢は扇で口元を隠し、親しげに目を細めた。
「アルベルト様は、お会いになる日をいつも楽しみにしていると伺っておりますわ」
「そう、なのですか?」
「あら。ご本人から聞いていらっしゃらないの?」
ローゼリアは答えられなかった。
「けれど、ローゼリア様とのお茶会は、いつもすぐに終わってしまうのでしょう?お忙しい方ですもの。仕方がありませんわね」
胸を細い針で刺されたように痛んだ。
令嬢の声が、ひどく遠く聞こえる。
「わたくしは幼い頃から存じ上げておりますから、なんでも話してくださるの。昨日もオルティス侯爵邸でお会いしましたのよ」
「……昨日?」
昨日は、ローゼリアが腹痛を起こし、アルベルトが早めに帰った日だった。
「ええ。昔から、つらいことがあると、わたくしには打ち明けてくださるのです。あの方は本当に、心を許した相手にはお優しいのよ」
それ以上は聞けなかった。
紅茶をひと口飲んだものの、味はしなかった。
アルベルトには、会うのを楽しみにしている相手がいる。
自分との茶会を早々に終え、その女性に会っていた。
彼女になら、悩みも弱音も打ち明けられる。きっとアルベルトは、愛想もなく体調ばかり崩す婚約者について相談していたのだろう。
そう考えれば、すべて辻褄が合った。
ローゼリアは、公爵家の娘として生まれた自分を、初めて恨んだ。
もし自分が彼よりも低い身分だったなら、アルベルトは迷わず婚約を断れたかもしれない。
王命でなければ、好きな女性を選べたかもしれない。
自分が彼を愛しているという理由だけで、これ以上縛りつけてはいけない。
その夜、ローゼリアは一睡もできなかった。
枕元には、アルベルトから贈られた花を乾燥させ、丁寧にしおりにして挟んだ本が置かれていた。
初めてもらった手紙も、勧められた本も、次に会う日に着けようと選んだ髪飾りも、すべて大切だった。
彼を手放したくない。
けれど、本当に愛しているのなら、彼が望む相手と幸せになることを願うべきだ。
何度そう言い聞かせても、涙は止まらなかった。
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