菩提 結
「雅、結!」
魔人を倒し、私は方々に散らばり倒れていた払暁の面々を雅のそばに集めた。その後すぐに、穿や救護班の面々が駆けつけてきた。
穿は雅の体を抱き上げ、何度も名前を呼んだ。
「済まない。大口を叩いておいて私は間に合わなかった、穿」
「許さない、許さないわ。私の恨み言を聞かない内に貴女まで死んだりしたら。絶対に許さない」
穿はキッと私を睨みつけたが普段の様な凄みは感じなかった。
「おい! 皆んなこっちだ。一人まだ息がある!」
救護班の一人が上擦った声を上げる。
「誰だ!?」
私はすかさず誰何を飛ばした。
「……桑原 香織です! しかし、出血が酷すぎる輸血パックが足りない」
「……そんな」
「ならば、私の血を使え。私と香織は同じO型の筈だ」
私は香織達と初めて顔合わせした日の会話を思い出した。あの日の約束を何一つとして守れなかった。だと言うのに今の私に出来る事は、最早、大して残ってもいない。
「結、な、何を言ってるの!?」
「見れば分かるだろう。私はもう長くない、幻器との最終同化で生命力が強化されたのか、まだ動けはするが。それが切れれば、どんな処置も意味を成さないだろう。どうせ死ぬのなら私の血で香織を助けてくれ」
「そ、そんなの許可出来るわけないでしょ! 諦めちゃ駄目。きっと二人とも助かる。だから、だから……」
穿は瞳いっぱいに涙を溜める。
確かに穿の言う通り、二人ともが助かる可能性も無いとは言えない。幻器の修復機能を使えば、或いは。しかし、私には言わなくてはならない事がある……払暁の一員として。
「それを試して、二人とも助からなかったら誰が召喚士と戦う?」
「ッ、同じ事じゃない! どのみち払暁は壊滅。今から幻器使いを揃えるまで召喚士が待ってくれるわけない! なら、それなら、私は二人が助かる可能性に賭けたいの……!」
不気味な程軽い頭を振って私は口を開く。
「穿、皆んなも、顔を上げなさい……何を負けた気になっている。私達の戦いはまだ終わっていない」
「無理よ、いくら結でも……」
「例え一人でも勝つ為に出来ることがあるなら、その全てをして来た。今回だって今までと同じ筈だ。打ちのめされ、絶望して、それでも立ち上がったから、今がある。その連続を、ここで絶やすな! 最前線に立つ者として、自分のすべき事から目を逸らすな!!」
私は信じる。一つずつ絶望を積み重ねた先には必ず希望が待っていると。
「……っ。どうして、どうして皆んな私を置いていくの? 雅まで私を置いて行ったの。結だけでも私と一緒にいてよ!」
穿が震える声で叫んだ。
「穿。私が現代に戻ってからすぐの事だ。私が穿と雅を憎んでいるかと聞いたな」
「……」
「あの時、私が答えをはぐらかしたのは、分からなかったからだ。昔の自分の気持ちが。でも、だからと言って適当を言いたくないと思った」
「うん」
灰色の雲から、砂埃を巻き込んだ雨粒が無数に落ちてくる。
「少なくとも、君達に対して誠実でありたいと言う気持ち程度は残っていたらしい……二百年後のそんな残り滓なんかで悪いが、その気持ちに免じて、穿も私達の出した結果と向き合って欲しい」
「そ、そんなの——」
雨は、私の荒い息遣いを溶かし込む程に激しく降っている。それでも、指先から、産毛の一本からさえも力を集約して私は舌を動かした。
「不満はあるが、後悔はしていない。だから私達は胸を張って、これを出来る限り最良の結果と呼べるんだ。そして、君にはまだ出来る事がある。私達と共に、今しばらく戦ってくれないか。穿」
「……分かった」
救護班が私に集まり体を支えると担架に寝かせた。彼らは私と香織の腕に針を刺してパックを経由して血を移す。
「まあ、こんなものかな私の人生……穿、私が死んだら……」
「アルプス山脈から遺灰を撒くんでしょ? 分かってるから」
「そっか、なら、良い」
私は嘆息を一つ吐く。肩から力を抜く事が出来たのは百何年ぶりだろうか。
いよいよルークやハンスにも会える、な。
雅達には何と言って紹介しようか……。
ああ、そうだ…………まずは、ルークが生まれた時の話を……………………。
それから、雅達の事も、二人に………………………………。
お母さんの、大切な友達…………………………………………ふふ、皆ん
な………………………………………………………………………………………………………………………………。




