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死闘

 

 「結!」


 私が拘束着に身を包みベッドから茫洋と天井を眺めていると穿が部屋に駆け込んできた。

 穿は私の身を起こし急いで拘束着のベルトを外す。


 「穿、何があった」


 「透の幻器から生体反応が消えて、陽夏の幻器が暴走したって報告があったの。何かが起こってる。こんな所に閉じ込めておいて虫がいいのは分かってる。でも、結……」


 「座標を教えてくれ、跳んで行く」


 穿が幾つかの数字を読み上げた。


 「報告が上がってから十分以上経ってる。結、お願い。皆んなを助けて」


 私は何も返さずに獅子独楽と同化した。凛に斬られた左腕が再生する。


 「行ってくる」


 私は第八地区の情景をイメージし、戦地に向かった。


 瞬時に切り替わった景色の中で最初に映ったのは敵らしき者に凛と陽夏の胴体が両断される所だった。


 「タァッ!!」


 雅が双戟旗を敵に突き刺し、相手の体を蹴りつけて距離を取ると、すぐさま旗が爆発した。

 私はその場を蹴り、墜落する雅の体を受け止める。


 「雅! 一体何があった?」


 「菩提、か。来てくれたのか」


 雅の体はあちこちから血が噴き出て、体がブヨブヨとしている。皮の下に血が溜まっているのか。

 雅は血を吐きながらも端的に状況を伝えてくれた。


 「遅くなって済まない。」


 「謝るのは、私の方だ。ずっと菩提、お前の事を同期で、ライバルで、親友だと思ってた。お前はいつも私に気持ちを示してくれていたのに、私は何もしなかった」


 「雅……」


 爆発で焼け焦げ、毛羽だった雅の右手を私は握る。


 「でも、端から、いつかなんて無かったんだ。その時、その時が大切な一瞬で、なのに私はそれを捨て続けて来た。ただ、だからこそせめて最期くらいは正直でありたい。結……私はずっとお前の事を名前で呼びたかった」


 私は何も言えなかった。どこか気の晴れた様な顔の雅を見ても、私には何も思い出せない。


 「お前が帰って来てから、ずっと思っていた、もっと早く呼べていれば、何かが違っていたかもしれないって。遅くなって悪かった。結」


 「雅……ちゃん……」


 それでも、私は雅の思い描く菩提 結として見送ってやりたかった。頬の筋肉を力ませてみたが、ルークにして見せた様な自然さは無いだろう。


 「はは、下手くそな笑顔だな。その顔、戦いを終わらせて、皆んなで見たかった……本当に、済まない。結、後は、頼、む」


 「安心して、休んでいなさい。君達の戦いを無駄にはさせない。払暁の名に懸けて」


 弱々しい息遣いの雅を寝かせて、私は斧を手に持ち立ち上がる。


 ——全ては君の責任だ。菩提 結。


 突然、耳元に聞き覚えのある声がした。


 「……」


 ——あの時、何故凛に腕を切らせた? 言い訳したかったんだろう? 皆んなを傷付けたことに。仕事に手は抜かないとルークに誓ったはずなのに。


 それは、私の声だった。出してもいないのに分身が現れ、私の耳に囁き掛けているのだ。


 「……」


 ——何故、払暁を離れた? 君の獅子独楽があれば全滅は防げたかもしれない。何故三世を切り捨てなかった? 召喚士の罠である可能性は懸念して居たはずだが?


 私にはその現象に心当たりがあった。私の感情の揺れを感じ取り幻器にされた幻獣が活性化している。つまりは、暴走の兆候だ。


 「……」


 ——全ては君の責任。皆んなを導くなどと先達の面をして結局はこのザマだ。


 「言いたい事はそれだけか?」


 ——何?


 獅子も学ばない奴だ。私とは曲がりなりにも二百年の付き合いだろうに。


 「くだらん。誰にも未来などわかりはしない。だからこそ、その時点で最善を尽くす事が重要なのだ。そして私は選択において妥協した覚えは無い。例え、それで望んだ結果を得られなかったとして、誰に恥じることもない」


 失ってばかりの人生だった。それでも、積み重ねられた想い出を私は一つたりとも溢すつもりはない。


 ——酷い言い草だ。仲間たちに悪いと思わないのか?


 「私の友は、人の真剣をそしったりしない……検討外れの揺さぶりに回す余力があるのなら、一滴残らず貰い受けよう」


 ——馬鹿な。仲間を殺されて感情にさざなみ一つ立っていないだと……?


 「制限解除(リミットオフ)」


 私は分身の声に耳を貸さず、幻器の力を引き出した。耳と尻尾が生え、体が軽く感じられる。


 私の視線の先で進促虫、バアルはユラユラと体を揺らしていた。背後に浮かぶ銅鏡にあしらわれた宝玉が八つ一気に輝きを取り戻した。


 なるほど。あれの回復を待っていたから、今まで仕掛けて来なかった訳か。


 「フッ!」


 私は地を蹴りバアルに向かって駆け出した。間合いを残り三歩まで詰めた所で、魔人は剣戟を解き放つ。私は分身を出し、それを足場に宙へ飛び上がり、魔人の背中に向かって斧を投げた。


 不意を突かれ三つの宝玉から輝きが消える。バアルはすかさず振り返り手に持つ直刀で斧を受け止めた。しかし、当然斧の回転は止まらない。


 ようやくバアルが斧を弾き飛ばすと私はそれを回収する。


 左手に握り込んだ礫を投げつけ魔人の正面から詰め寄る。宝玉が残り一つになったのを確認し、私は目の前に分身を出しバアルの背後に跳んだ。


 魔人は入れ替わりに気付かず、私に無防備な背中を晒している。


 「塵は塵に(ヴォルブビート)」


 バアルが受け止めきれなかった衝撃波が瓦礫を砂に変えた。

 これで、しばらく無効化は気にせずに戦える。


 「待たせたな。私の友をもてなしてくれた分、じっくりとお返ししよう。虫ケラ」




 「シッ!」


 私は鋭く息を吐き、バアルの右肩から斬り下ろす。雅から伝えられた通り、かなりの防御力だが皆んなが与えたダメージが再生している訳じゃない。傷の深い所を狙えば、十分に勝機はある。


 「カァッ!」


 バアルは剣を振り回すが、私は分身を足掛かりにしてどんな態勢からでも、攻撃範囲から脱出出来た。


 戦えば戦うほどに感じる相性の良さ。

 熱した針が心臓を刺す様な感覚を押し殺し、私はバアルに攻撃を叩き込む。


 奴の攻撃の対応し難い点は二つ。


 一つは、八度の内七度の攻撃が不可視である事。


 一つは、防御に手が足りない事。


 しかし、一方で当然の弱点もある。それが能動的な攻撃である以上、認識に誤解が生じれば意味がないという事。


 そして、分身と瞬間移動はそれを行うのに最適なスキルだった。


 バアルが剣を振りかざす。私は分身を使って攻撃を躱す。にも関わらず、魔人は気付くと私に追い縋り右腕を斬り飛ばした。


 「……読まれた? 戦う内に私の戦い方を学んでいるのか」


 「ケケケ」


 「雅以上の身体能力、香織以上の幻器との親和性、凛以上の感知能力、透以上の空間把握能力、陽夏以上の瞬発力。もう少し時間が経てば手が付けられなかったかもしれないが」


 私は言い置くと分身を出した。二人でバアルに迫り私は奴の背後に跳ぶ。


 「ケケッ」


 バアルはさっきの私の攻撃からの学びを生かし踵を返すと直刀を振り上げた。既に斬り落とされた右肩から頭までを削ぎ落とされる。


 「掛かったな」


 バアルの後ろに立つ分身は斧を持つ私の右手を持って構えた。そして、斬り上げ魔人の手を切断する。


 「ハァッ!!」


 私は余った左手で地面に吸い込まれる直刀を掴み、バアルの首に目掛けて薙ぎ払った。

 剣は喉に刻まれた傷跡からスンナリと入り、頭と胴を斬り隔てて滑らかに刀身を晒す。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 地面に倒れたバアルの頭と心臓に何度か剣を刺し込み完璧に破壊してから直刀を手放した。


 カランカランという渇いた金属音が、異様に大きく響き渡った。


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