復讐者
「菩提……」
雅が私の顔を見るなり呟いた。
「え、菩提ってもしかして、私達のリーダーの人ですか?」
すると、駆け足で一人の少女が駆け寄ってきて、私の顔をしげしげと見つめた。経歴書によればこの茶髪の少女は——、
「桑原 香織だな。そうだ。私が菩提 結。新チーム払暁のリーダーを務める」
「あ、あの。本当に菩提さん、ですか?」
次におずおずと声をかけて来たのは亜麻色の髪の気弱そうな少女。
「流森 透だな。それでどう言う意味だ? 私が菩提かどうか、と言うのは」
「ご、ごめんなさい。実は私、半年前に菩提さんと榎本さんにアラクネから助けて頂いた者で、覚えていませんか? ほら、この子! ヒーちゃんの事、抱えて運んでくれましたよね」
透がそう言って、褐色の少女の腕を引き摺り私の前に突きつけた。戸惑った様に目を泳がせサイドテールを揺らす少女の顔を、私は凝視する。
「ふむ、君は國領 陽夏だな。なるほど、陽夏だからヒーちゃんか」
「いや、そこなのナ。ぶっちゃけ陽夏もあんまり覚えてないし。良いって言ったんだけどナ」
「駄目だよヒーちゃん。ちゃんとお礼は言わなきゃ。ただ、正直私も戸惑ってます。だって半年前の菩提さんは、もっと、こう」
透は形の無い粘土を捏ねくり回すかの様に手をウネウネと彷徨わせた。
「もっと、暑苦しかった」
「そ、そうです……って、違います! もっと、柔らかくて、フワフワしてて、丁度桑原さんみたいな!」
「え、アタシ?」
そんな透に雅が助け舟を出そうとしたが、どうやら二人の感想は違っていたらしい。私はますます過去の自分が分からなくなった。
「大丈夫よ、香織さん。貴女は暑苦しくなんて無いんだから」
「あ、ありがとう! 凛ちゃん」
「ふむ、そちらの君は二階堂 凛か」
「初めまして、菩提さん。仰る通りアタクシが二階堂 凛で御座います。以後、お見知り置きを」
凛は長い金髪をフワリと翻し上品な身のこなしで一礼した。佇まいだけで育ちの良さが窺える。
「わあ、凛ちゃん綺麗だなぁ」
「ありがとう香織さん。チューしとく?」
「え!? またまたぁ、凛ちゃんったら冗談上手いんだから」
「ガチだったのだけれど、ガチのチュー待ち三秒前だったのだけれど」
どうやら凛は、香織のことが好きな様だ。ふと、雅達三人に視線をやると気まずそうに明後日の方を向いていた。
「よろしい。名前が分かったところで、まずは扱う幻器の紹介と簡単な所信を表明してもらおうか。まずは雅」
「……私の扱う幻器は双戟旗と言う旗だ。下位スキルは身体強化、自分の身体能力を十倍にする。上位スキルは感覚遮断、私が選んだ数名を十分間痛みや疲れを感じない体にする」
幻器には、変身と言う第一形態。そして、同化と言う第二形態が存在する。形態を進める度に、身体能力が強化される。
その上、変身時には下位スキルが、同化時には下位スキルと上位スキルの両方を使う事が出来た。
「私の所信は、黎明にいた頃から変わらない。召喚士に奪われた土地と人民を取り戻し日本に平和という朝日を取り戻す事。払暁という名の文字通りに」
雅は後頭部で括り、一筋に垂らした黒髪を揺らして拳を握った。
「ふむ、よろしい。では次、透」
「え、は、はい。私ですね」
「いきなり名前呼びかよ」
どうやら私の呼び方に違和感を覚えたのか透は戸惑い、陽夏が渋い顔をした。
「ああ、全員名前の方が音が短い。戦闘中、伝達を行う上でその方が呼び易い」
「むぅ、じゃ、じゃあリーダーの事は結で、ムスッとしてるからムス姉って呼ぶぞ! 良いのかぁ?」
「陽夏……」
「ナ、ナんだよ」
「君はあだ名を付けるのが上手だな。特徴をよく捉えている」
私達は少ない情報からでも相手を評価し、戦術に組み込まねばならない。召喚士を倒す為の時間が私や雅には余りにも足りていない。
「じゃあムス姉って呼んじゃうからな!」
「ああ、良かったら陽夏以外もそう呼んでくれ。呼称において分かりやすさは重要だ。それと、私も君達を名前で呼ぶ。異論は?」
「「「「「……」」」」」
「無いようだな。それでは気を取り直して、透」
陽夏は依然として不満そうだったが、他の四人は拘り無げに頭を振った。
「はい! 私の幻器は強撃のアスラ・布石のタストラと言って、二丁拳銃です。下位スキルは弾薬庫、際限なく弾丸を補充出来ます。上位スキルは未来予知、五秒先の未来を見る事が出来ます。ただ使えるのは三回までです」
私が再び振ると、透は両手を合わせ、モジモジと肩を縮めて語る。
「私の所信は……絶対に皆んなを守る事。以上です」
しかし、その言葉を口にする時だけはキッパリと強い意志を瞳に宿らせていた。
「よろしい。次、香織。頼む」
「はい! 私の幻器はニーベスベルグ、リストバンドです! 殴ったところに雷を落とせます。下位スキル雷鳥は何度でも打てて、威力はそこそこ。上位スキル神鳴は一回しか打てないけど、滅茶苦茶凄いです! 私の所信は、所信……う〜んと、私の名前は桑原 香織、歳は十四歳、血液型はO型、それから、それから……」
「待て、桑原、何の話をしている?」
見かねた雅が香織を制止した。
「え、え〜と、別に所信が何なのか分からないとかでは無く〜。一応、自己紹介してみました」
「香織、一応で上官の命令に背くな。所信が何か分からないなら凛に聞け。後、私の血液型もO型だ」
「あ、やっぱり! 初めて会った時から私とムス姉、似てると思ってました!」
「「「「何処が!?」」」」
香織の言葉に四人が口を揃えて異を唱えた。私もそう思う。一体この香織と言う少女にはどんな世界が見えているのだろうか……。
「よろしくは無いが、ひとまずよろしい。次、陽夏、君の番だ」
「う、透、所信って何だ?」
「もう、ヒーちゃんまで。取り敢えず目標とか成し遂げたい事を言えば良いんだよ」
「サンキュー、透! えっとだナ、まず陽夏の幻器は破封烈印。手帳の中にいっぱいシールがあって、それを貼ると十秒後に爆発する。下位スキルはその爆弾シールを無限に供給してくれる火薬庫って言うんだ」
陽夏は上機嫌に語る。
「んで、上位スキルはシールを貼った物体そのものを爆弾に変えるって言う、爆裂だ。こっちは五枚しか出せなかったり変化させる物体の大きさに上限があったりするけど、威力はかなりのもんだったナ。それから、陽夏の所信は……」
そこで一度言葉を止めると陽夏の纏う雰囲気が変わった。
「陽夏の目標は、幻獣共をこの爆弾でグチャグチャの肉塊にしてやる事だナ。以上!」




