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急変


 「駆けろ、雷鳥! わわ、熱い!」


 香織はバフォメットを殴るが、炎で覆った手に受け止められ雷が傍に逸れた。


 「なんだ、今のは」


 「熱レンズ効果ね。光線の焦点がずらされて威力が下がってるんだわ。香織さん、貴女じゃ相性が悪いわ。榎本さんの援護にまわって!」


 「分かった、凛ちゃん」


 雅は旗を振り回し、バフォメットを滅多打ちにする。しかし、次第に持ち手に熱が加わり堪らず後退した。


 「大丈夫、榎本さん?」


 「ああ、とは言えあれだけ殴ったのにダメージが薄い……まさか、私達以外に眠らされている人がいるんじゃ」


 「有り得るわね。香織さん、榎本さん。アタクシが攻撃するから奴の動きをよく見ていて」


 凛は中距離からバフォメットに斬撃を飛ばす。悪魔はヒラリと身を躱すが、ある程度動くと腕を十字に構えて耐え、元いた位置にそれとなく戻った。


 「凛ちゃん。アタシ眠らされた人の居場所、分かったかも。でも、助けに行ったら邪魔されちゃうよね?」


 香織は凛に近寄ると、囁く様に言った。


 「……アタクシが隙を作るわ。チャンスは一回きり、頼むわね」


 香織は無言で頷くと、再び距離を取り様子を伺った。凛は更に斬撃を飛ばしバフォメットの相手を引き受ける。


 「飛閃!」


 バフォメットを瓦礫のそばに誘導すると、凛は悪魔を攻撃すると見せかけ瓦礫を崩した。倒壊に応じて砂埃が舞う。


 「凛ちゃん! 起こしたよ!」


 「飛閃!」


 香織からの報告を聞き取り、凛は更に斬撃を飛ばしバフォメットの両腕を斬り落とす。


 「グオォォォン!!」


 鈍重な咆哮と共に翼を羽ばたかせ、砂埃を払った。


 「香織さん!」


 凛が名前を呼ぶと、砂埃の切れ間から人影が飛び出した。バフォメットは徒手空拳の間合いから飛び退ろうとする。


 「グモッ!?」


 「ふ、読みが甘いな」


 その人影は長柄を突き込み、バフォメットの胸を貫いた。悪魔は暴れて無理にでも槍を引き抜こうとしたが、それを足場に飛び上がった香織が悪魔の額を殴りつけた。


 「駆けろ、雷鳥!」


 あちこちの体毛が燻り、白い煙を上げてバフォメットは気を失った。そんな悪魔の首を凛が斬る。


 「飛閃」


 「あ、れ? アタシ達もしかして、もう勝てちゃったの……?」


 頭が落ち、一拍遅れて体も崩れ落ちた。香織は呆然としつつも信じられないと言った様に自分の頬をつねる。


 「いてて、夢でも無い。それじゃあ、これって……」


 「ああ、桑原。私達は強くなった二ヶ月前より遥かに、な」


 「やった! これなら、きっと召喚士にだって勝てるよね、凛ちゃん!」


 「ええ、当然、策は必要だし。最終同化という最後の課題も残ってるけど。荒唐無稽に思えた目標まで後一歩ね」


 凛は瞳を閉じ、雅は双戟旗を見下ろした。


 「よし、陽夏達の方へ行こう。まだ戦いが続いているなら助けに行かなければ、」


 「お〜い! 雅ぃ! そっちも終わったのか?」


 雅達がショッピングモールの方に足を向けると、丁度二つの人影が三人に手を振った。


 五人は合流を果たすとお互いの戦いについて報告し合い、雅が無線に手を掛けた。


 「あ、雅? ねえ、ペランケン博士はそっちに居る?」


 「え? いや、こっちには居ないが」


 顛末をザックリと報告し終えると出し抜けに穿が尋ねた。雅は荒廃した旧第八地区を見回すと首を横に振る。


 「おかしいわね。三十分くらい前に、龍神祭器を届けに行くって置き手紙を残して、そっちに向かったみたいなんだけど」


 一同はもう一度、今度は念入りに周囲を見回す。すると、ホタホタという足音が不意に耳に入った。


 「み、み、みや、みやび……」


 「あ、ペンちゃん! 見つけた。聞いて、アタシ達ちゃんと勝てたよ!」


 「な、な、な、なかま。たす、け、たい」


 「待て桑原、様子が変だ」


 ペランケンに駆け寄ろうとする香織を雅が呼び止める。


 「た、た、た、た、す、す、す、す、け、け、け、け、け、け、け、け、け、け、け、け」


 ペランケンはカクカクとぎごちなく頭を回し、声を漏らしている。


 「おい! ペン公、大丈夫か!?」


 五人は心配しつつも、近づく事を躊躇う。すると、その細い喉から甲高い悲鳴が上がり、ペランケンはクチバシを勢いよく上に向けた。


 そして、クチバシの奥から突然腕が飛び出した。


 「な!」


 陽夏が驚愕で声を漏らし、他の四人も一様に目を剥いた。

 バキバキとペランケンの頬を割いて、もう片方の腕が這い出る。

 両腕は関節の作りを無視して曲がり、地面に手を突くと、ウェットスーツを脱ぐ様に身を捩り始めた。


 「ぺ、ペンちゃん……!」


 悍ましい光景に香織は涙を浮かべ口に手を当てた。


 「駄目、行っては駄目よ。香織さん。今は出方を伺うの」


 「そ、そんなペンちゃんは仲間なんだよ!?」


 「恐らく、進促虫だと思います。召喚士に誘拐された時、仕込まれてたのかと」


 透は歯を食いしばり、声を落として呟いた。


 そうしている間に、それ、は腰まで這い出て、右足を引き抜く。そして、左足を振り回し、まとわりつくペランケンの死骸を脱ぎ捨てる。


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