酒呑童子戦・急
最初に反応を示したのはバフォメットだった。ピクリと肩を揺らし、山羊の頭を擡げる。
「グオォォォン!!」
その吠え声と共に、右手に炎を宿し戦闘態勢をとった。
「さて、お目覚めか。夢と間違える程の苦しみを与えてやろう」
「酒呑童子……」
「ヒーちゃんっ」
「皆んな、酒呑童子は陽夏が殺る。だけど一人だけじゃ、ちょっとだけしんどいから、さ。透、手伝ってくれるか?」
陽夏は鬼から視線を切ると肩越しに透を顧みた。
「うん! 戦おう一緒に」
「よし、ならバフォメットは私と香織、凛で相手する。終わり次第、助けに行くから無茶はするなよ」
酒呑童子とバフォメットが迫る。水面の上を滑る様に、一同は戦いに突入していった。
「来い、雑魚ども」
酒呑童子は髪を抜き地面に撒く。すると、一本一本が小さな鬼となり両手で地面を叩き鳴らした。
が、透の銃撃が誕生を上回る速度で眷属達を消していった。
それと同時に眷属の影から繰り出される鬼の攻撃をいなす。
「クク、躱すのだけは上手だな。呪符:邪烈陣」
鬼は紙切れを侍らせて透の銃弾を防ぐ。
一方で陽夏はそばの大きな瓦礫を爆弾に変えつつ、透を誘導した。呪符を持ってしても陽夏の上位スキルは防ぎきれない。
酒呑童子はそれを嫌厭する内に、かつて捕虜が捕えられていたショッピングモールへと追い立てられた。異様に荒らされた入り口のホールで、ますます眷属の動きは活性化する。
しかし、閉ざされた空間での戦闘は透にとっても得意分野だった。
眷属の数は一定して十を超えず、透との戦闘に没頭した鬼は陽夏の姿を捉えきれなくなる。
「ハッハッ、人間の割にやるな。だが!」
鬼は透に肉薄し、拳を突き出す。少女は手首を撃ち抜き攻撃をやり過ごすが、そのままの勢いで繰り出された頭突きで後ずさった。
「くっ」
呻吟を漏らしながら透は口の端に笑みを浮かべる。
「タァッ!」
鬼の視界の端から陽夏が現れ、工具売り場から取ってきたスコップで酒呑童子を殴る。その衝撃でよろけた鬼はエレベーターの中に入り込んだ。
「起爆!」
エレベーターの下が揺れたかと思うと、急上昇し鉄の箱はあっという間にショッピングモールの天井を突き抜け、上空へと飛び上がる。
「ケケケ、これは通用しないと知っているはずだがなぁ」
酒呑童子は余裕を崩さず、嘲笑を浮かべつつ新しく呪符を唱える。一方でショッピングモールの屋上駐車場へ向かった二人は頭上を見上げた。
呪符には短文ながら詠唱が必要。そして、その詠唱から対応する攻撃の種類が分かる。
結から渡されたノートの内容を陽夏は脳裏に浮かべた。
高所から落ちた際に唱えたのが地皆在。スキルの攻撃を受ける際に唱えたのが邪烈陣。
一文字目が攻撃のジャンル、二文字目が一文字目を強調するモノ、とすれば三文字目は何を意味するか。それは、意思が介入するか否か。生物が意思を持って攻撃する場合は陣、そうで無い場合は在と唱える。
「ヒーちゃん、もう少し右。あ、行き過ぎ一歩左」
駐車場でシャベルを構えた陽夏は、透の指示に従いながら位置を調節する。
「呪符:地皆在」
降ってくる鬼がその様子に気付いた頃には詠唱は間に合わなかった。刹那、陽夏と酒呑童子は視線をぶつけ合わせる。
「お前に殺された人達の恨み、受け取れ! 酒呑童子!!」
陽夏は勢いよくスコップを振り上げた。鬼の首に垂直に構えられたスチール製の先端が易々と喰い込む。
振り抜かれた斬撃を、赤黒い液体がなぞった。
かつて第八地区に地獄を生み出した幻獣。酒呑童子は、その一撃で以て、現代での戦闘能力の一切を失った。




