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桑原 香織
「優しい人になりなさい」
あの日の出来事が香織の目の前で繰り返された。その言葉の通りになる為に少女は生きてきた。
「言葉に囚われすぎるな」
しかし、結はそんな香織の生き方を否定した。
——アタシは……
「無駄だよ。アタシには分からない。どうしたらいいか、なんて」
——アタシは、優しい人だって言ってもらえなきゃ駄目なんだと思ってた。
夢の中の香織は戸惑った様に声を絞り出す。
——だから、いつだって数が少ない方、不利な方に同情した。でも、そうじゃ無かったんだ。
「……」
——アタシは、アタシが優しくしたい人に、大好きな人に、優しくしても良かったんだ。
香織は胸の前で手を握った。
——アタシは払暁の皆んなが大好き。凛ちゃん、陽夏ちゃん、透ちゃん、雅さん、ベンちゃん、そして、ムス姉が。だから、皆んなが幸せに生きていける様にアタシは戦う。先生がくれた言葉は、とっくにアタシのモノになってたんだね。
夢の中の香織が手を掲げると闇の中に長方形の光が浮かび上がった。
香織は光の中に飛び込む。
「……負けないで」
暗闇を飛び出す瞬間、耳朶に触れた言葉に、少女は小さく顎を引いた。




