雅と凛
「さあ、今度こそ永劫の眠りにつくといい」
雅は再び自分と対面した、しかし、彼女に迷いはもう無い。
——私は決めたんだ。皆んなとは向き合わない。
「ふ、無責任な。我ながら見下げ果てたぞ」
——それが、どうした。私は前だけを見る。背中の事は凛に任せる。
やはり、強烈な引力が雅の膝をガクガクと笑わせる。しかし、旗を支えにもせず少女は堪える。
「追い抜かれたらどうする? そうなれば貴様の存在価値は無に帰することになる」
——そんな事には絶対にならない。
「どうしてそんな事が言える?」
——それは、私が榎本 雅。即ち、最強の幻器使いだからだ!
叫びと同時に雅の黒瞳を光が刺した。
「アタクシは香織さんが大好き。寂しさを埋めてくれるから」
——ええ、そうよ。父さんに愛されたかった……その寂しさを埋めたかった。でも、今となってはどうでもいい事よ。
「嘘ね。気にしないふりしても、私には分かる」
——勿論、気にしているわ。愛されなかった悲しさは残り続ける。けど、父さんが私を愛さなかったのは、たまたま起きた事。そんな事を気にしていたって仕方がないわ。
夢の中の凛は右手で髪を振り払い、自信を顔に滲ませて腕を組んだ。
「なら、香織さんに裏切られる可能性だってあるんじゃなくて? その時も気にしないでいられる?」
——香織さんはアタクシを裏切ったりしないわ。
「何を根拠にそんな事が言えるの?」
——ふふ。根拠なんて無いわ。でも、アタクシは信じている。
夢の中の凛は勝利を確信して、豊満な胸を鯱張らせた。
「父さんの時だってそうだった。一方的に信頼を向けていたから裏切られて……」
——何を勘違いしているの? アタクシが信じるのはアタクシ自身よ。香織さんが魅力的と言ってくれたから、その言葉を信じて、自分を信じる。
「信じて、信じる? マヌケな言い回しね。アタクシらしくもない」
——あら、ご存知なかった? アタクシってお茶目な一面もあるのよ。ふふ、可愛いでしょ?
凛は屈託なく笑い、人差し指で頬を支えた。夢の中の凛は目を丸くして姿を消す。そして、色濃い暗幕が払われた。




