再戦の狼煙
「香織さん。一つだけアタクシのお願い聞いてくれるかしら?」
結との面会後、凛は寮に戻って自室に香織を招いていた。
「うん、何? 凛ちゃん」
結に言われた言葉でしばらく上の空だった香織が、ようやくハッキリと凛を見返す。
「アタクシと接吻して欲しいの。今ここで」
「え! いやいや、でもアタシ達女の子同士だしって、凛ちゃんからしたらアタシは男の子に見えるのかもしれないけど……」
「そういう事じゃ無いわ。ただ、して欲しいの。香織さんがしたく無いのなら、無理にとは言わないわ」
香織は顔から火を吹き、身振り手振りを交えて言い逃れようとした。しかし、いつになく真剣な凛の表情から香織は口をもごもごとする。
「アタシは、うん、ごめんなさい凛ちゃん。やっぱり、それは出来ないよ」
「……どうして?」
「だって凛ちゃんは、きっと凛ちゃんが思ってる程アタシの事好きじゃ無いと思うから」
凛は言葉の意味を取りかねて、目を丸くした。
「あ! 凛ちゃんがアタシの事嫌ってるって言いたいわけじゃ無いよ。だけど、凛ちゃんがアタシに言ってくれる言葉の通りにアタシを想ってくれてるって訳じゃ無いと思うの」
「ええ、香織さんの言う通りだと思うわ。アタクシはただ、絶対の愛情が欲しかっただけ。裏切られる余地のない絶対の信頼が」
「アタシ達は出会えたから友達になれた。だけど、それは、必ずしもアタシじゃないといけなかった訳じゃなくて、他の誰でも良かった。……でも、別にそれが悪い事だってアタシは思わないよ」
香織は次の言葉を慎重に選ぶ為、ゆっくりと喋る。
「だってそれは、凛ちゃんならアタシ以外の人とでもこんな風になれたってだけのことだから。凛ちゃんはとっても優しくて、人の事をよく見てて、一緒にいると凄く居心地が良い。アタシには勿体無いくらいの友達だもん」
「……ありがとう。そんなに褒めてもらえて嬉しいわ。ねえ、香織さん。貴女はアタクシの友達が必ずしも自分じゃなくて良いと言ったけれど、今ここにいるのは紛れも無い貴女よ。だから聞かせて。香織さん、貴女はアタクシの事、好き?」
「アタシ、ね? 施設にいた時ずっと年長で皆んなのお姉さんだったの。だけど、凛ちゃんに出会えて誰かの妹になるのってこんな感じなんだって、ずっと思ってた。だからね、もう二度と絶対に失いたく無い。大切な家族。大切なお姉ちゃんを」
凛の頬を熱い涙が伝い落ちた。
「香織さん。ありがとう。アタクシも絶対に貴女を守ってみせるわ。そして、貴女が愛してくれる私自身も!」
凛は香織の肩を引き寄せ強く抱きしめた。
「皆んな、揃ってるわね?」
「どうしたんだ? ウガ姉、こんな朝早くに」
明くる日、穿によって食堂に集められた雅達五人は話を聞きながら朝食をとっていた。
「深夜ごろに召喚士から挑戦状が届いたの。これなんだけど」
穿は懐から紙を取り出しテーブルに置いた。
『やっほー。元気してた? この前約束していたプレゼントの用意が整ったんだ。払暁のみんなに渡したいから旧第八地区に来てくれるかな? もし来てくれなかったら、そっちの前線基地に送っちゃうから。すっぽかしたら駄目だよ〜』
「プレゼント……?」
「ペランケン博士を助け出した時に言ってたじゃ無いですか。究極の破滅をプレゼントするって」
穿は天井を凝視して唸り声を出した。
「第八地区だけでなく、第七、第六地区までが放棄された今、攻撃に使われる幻獣は今までに無いほど強力になるだろうな」
「それなら、尚更アタシ達が戦わなきゃ。ですよね雅さん!」
雅は声を上げずに目を瞑ったまま、ただ頷いた。
「皆んなの幻器の調整は終わってるから、ここで渡してそのまま出撃してもらうわ。ペランケン博士?」
すると、ホタホタと揺れながら歩くペンギンが五つの幻器を運んだ。
「諸君。済まない、八岐大蛇から作った幻器。その名も龍神祭器の調整だけは間に合わなかったのである。しかし、それを終わらせたら必ず届けに行く」
「そんな、何も博士が直接来なくたって良いじゃ無い。それに、アタクシ達なら大丈夫。どんな幻獣が相手でも直ぐに倒してみせるわ」
「そう言うわけにはいかないのである。助けてもらった恩もある上、我輩も仲間である貴公らの為に出来る限りのことをしたいのである」
ペンギンはキッパリと首を横に振った。六人の少女はそれ以上は何も言わなかった。
幻器を身に付け、朝食を済ませて五人は戦地に向かう。
旧第八地区の虫食いだらけの巨壁を潜ると、そこには二つの敵影があった。
「あれは、バフォメットと酒呑童子……!」
何の因果か二度にわたる遠征任務で敗北を喫した二体。
「ヒーちゃん」
「……」
「よう、久しぶりだな。おや、あのムカつく斧使いはいねぇのか?」
酒呑童子は陽気に声を上げると手を振った。五人は何も答えない。
「まあ良い。さあ、それじゃあまずは午睡の時間だ。くれぐれもこんな所で躓いてくれるなよ?」
その言葉と同時にバフォメットは宙に浮き、五人に近づいた。




