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新リーダー

 

 「なあ、菩提。ドレイクという幻獣は、そんなに危険なのか?」


 雅は息を切らしてその場に座り込むと気紛れに尋ねた。


 「……ドレイク自体はそうでも無い。ただ、奴に寄生している進促虫(エンカレッジ)と言う虫が厄介だ。その虫は寄生した宿主が最も強いと思う存在を模倣して、体を食い破り這い出てくる。龍族は皆んな、自分自身が最も強いと思っているから、必然進促虫はドレイクの姿で現れる。そして、二体のドレイクが争うと大抵の場合、」


 その時、私の説明を遮る様に巨大な爆発が地面を揺らした。陽夏のスキル全てを合わせても足りない程の規模だった。


 「今ので、第六地区と第七地区は壊滅だろうな。生き残った者もいない。さっきの幻獣の大群は攻めて来たんじゃない。逃げて来たんだ。あの爆発から」


 「それなら、そう言ってくれれば……」


 「聞いたと思うか? 特に香織と陽夏は。まあ、何にせよ私が皆んなを傷付けたのは事実だ。言い訳するつもりもない。早く穿と救急班を呼んでくれ」


 雅は見たこともないほど渋い顔で頷くと無線のスイッチを入れる。淡々と連絡を伝える雅の横顔を私は見つめていた。




 その後、私は他の五人と隔離され、拘束着を着せられてベッドに寝かされた。左腕の欠損は幻器の修復能力で回復出来るはずだが、今の所没収されているので使えない。


 「結……起きてる?」


 部屋の外からノックの音がし私の返事を待たずに穿が入って来た。


 「ねえ、何があったの? 嘘なんでしょ? あなたが皆んなにあんなことする訳」


 「穿……」


 「そ、そうよ。きっと敵に操られてたのね。今からでも上に、」


 「穿」


 私が嗜めると穿は肩を振るわせて瞳を潤ませた。


 「なら、どうして!? 訓練にアスレチックやゲームを使ったのは皆んなが少しでも楽しめる様にしたかったからでしょ? そんな人が幾ら皆んなの為だからって腕や足を折るなんて……」


 「あの状況で、私が五人を食い止める為にはそうするしか無かった。それだけだ」


 私が拘束されてから何人かの職員が来て私を取り調べ、精神科医やカウンセラーが鑑定に来た。それでも、分かる事が少なかったからなのか、聴取人として穿が来た。

 しかし、幾ら相手が変わろうと私は既に真実の全てを話している。これ以上、他に話すこともない。


 払暁を第六、第七地区へ行かせない為。そして、五人を私から切り離し精神的成長を図る為。それが真意の全てだった。


 「それよりも、皆んなの様子はどうだ?」


 「あなたがそれを聞くの? ……怪我はもう治ってる。けど、凄く落ち込んでるわ。いつもと余り変わらないのは雅くらいね」


 「分かった。それと悪いんだが三世を呼んでくれないか? 面会が無理なら電話でも良い」


 私が頼むと、穿は少し待つ様に言い置いて部屋を出た。しばらくして固定電話の子機を持って戻って来る。


 「会話の内容は録音されて、後で確認されるから、これ以上自分の立場を悪くする様な事は……」


 「分かってる。もしもし?」


 「聞こえている、である。その状況で我輩にかけて来ると言う事は余程の要件であろう。早速話すが良い」


 流石の察しの良さに私は感謝しつつ、じっとりと汗ばんだ手で電話の子機を持ち直した。


 「前回の任務から持ち帰った八岐大蛇の素体。今、どうなっている?」


 「粗方研究が済み。幻器として形になった所である。てっきり貴公が使う物と思っていたので、調整は折りを見ておこなうつもりだったが……」


 「なら、それは香織に調整してやってくれ。今までに居たどんな幻器使いより親和性が高い香織であれば複数の幻器を同時に起動出来るかもしれない」


 そばで穿が息を呑む気配がした。


 「幻器の同時使用であるか。理論上は可能であるが、暴走の可能性は最終同化と比べても指数関数的に上がっていくのである」


 「そうか。あくまでも理想の話だ。調整を頼む」


 「了解した……それと、今貴公の獅子独楽は我輩の手元にあるのだが、これもキッチリと調整しておくのである。貴公の注文通りに」


 私は短く例を言って、電話を切った。


 「それで穿、私はいつまでここに居れば良いのかな?」


 「十六歳の誕生日を迎える迄、ね。そして、それ以降は一般的な事件と同じよ。まず、逮捕されて四十八時間留置所で拘置されて、必要であれば更に勾留。検察に書類送致されて、起訴か、略式起訴か、不起訴か。功績に関してはちゃんと考慮されるはずだけど……。ねえ、結。皆んなとは話したく無いの?」


 「ふむ? まあ、皆んなが望むのであれば頼む。考え難いと思うが」


 穿は暫く押し黙っていたが、アラームが鳴ると何も言わないままに退室していった。

 それからは、来客も無く。私は拍子抜けする程穏やかな日々を送った。

 数日後、雅と穿が私の元へやって来た。


 「久しぶりだな。二人とも」


 「菩提。今日は相談があって来たんだ」


 「相談?」


 雅と穿はベッドの側のスツールを引いて腰を下ろした。私は相変わらず体を拘束されているので目線だけを動かす。


 「払暁の、新しいリーダーを誰にするかについて、だ」


 「それなら、私は凛を推す。どうしても断られる様なら次点で透かな」


 「理由は?」


 私が話し辛そうに身じろぎすると穿が上半身だけ拘束を解いてくれた。


 「すまない……さて、理由だな。あの二人は私達の中でも特に劣等感が強い。だから、他人と自分を比べる癖が染み付いている。そう言う人間は他人をよく見る。払暁は、雅が背中で率い、リーダーが皆んなの背中を押し上げる。そう言うチームであるべきだ」


 「なるほど。しかし、お前のおかげでその二人どころか全員が自信を失くしている。責任を取って、菩提が説得をしてくれ」


 「ふむ。しかし、二人は私に会いたくないんじゃないのか?」


 尋ねると穿が首を横に振った。


 「この前の面会から帰ってすぐに、あなたに会いたいか聞いたら。今朝、連絡があってもう一度話したいって事だったわ。実を言うともう皆んな部屋の外で待ってるのよ」 


 「そうか」


 私は目を伏せた。少し嬉しいと思ってしまった自分が恥ずかしい。そんな感情を表に出してはならない。少なくとも今はまだ。


 「あなたはどう?」


 「うむ。もちろん会おう。穿、すまないがそこの段ボールから私のノートを取ってくれ。六冊ある筈だ」


 「え〜と、これで良いの?」


 私は礼を言ってノートを受け取ると、パラパラと素早く目を通し、内容を確認した。


 「菩提。それは?」


 「これは、君達の観察日誌だ」


 「んぁ?」


 私は間抜けな声を出す雅に、ノートを二冊手渡す。


 「要するに君達五人全員について記したノートだ。時間に余裕がある時にでも読んでおきなさい。さて、まずは凛と香織を呼んでくれ」


 呆けている雅を引きずり穿が退室すると、入れ替わる様に私の指定した二人が入って来た。


 「ムス姉……」


 香織も凛も真っ先に私の左腕を見た。


 「……治してないの?」


 凛は眉をひそめた。当てつけとでも思ったのだろうか?


 「幻器が手元に無くてね。まあ、もう私が戦うこともないだろうし、どうでも良いことだ」


 「ムス姉。ムス姉は、私達の事を想って、ああしたんだよね?」


 「うむ。まあ、そうだが。とは言え君達は骨を折られたんだ。それで済まされては、たまった物じゃ無いだろう?」


 それには香織も何も返さなかった。


 「さて、その話は戦いが終わった後にでも置いておくとして、まずは次の話だ。香織。君はまだ話し合いで解決する方法を探しているのか?」


 「……河太郎さんとは話し合えました。条件付きだけど、協力するって約束してくれた。もしかしたら、召喚士とだって」


 「召喚士の言い分は十分聞いただろう。あれを人と思うな」


 私はにべもなく言い捨てる。しかし、香織は食い下がった。


 「もしかしたら、もっと他に理由があるのかもしれない。もっと、ちゃんと話し合えば……!」


 「希望的観測、と言うか、最早まるっきり君の希望でしか無いな……言葉と言うのは曖昧な物だ。君にとって、育ててくれた先生の言葉が大切なのは分かる。ただ、それに囚われ過ぎるな」


 「あ、アタシは囚われてなんか」


 「囚われているとも。優しい人などと言っても解釈はいくらでもしようがある。先生がどんなつもりで言ったか分からないから、君は最も極端な解釈を採用した。それなら、先生に失望される事は無いだろう、と」


 香織は言葉を詰まらせた。


 「それで、全て上手く回るなら良い。でも、実際はそうじゃ無い。出来もしない事をやろうとするな、目の前の出来る事に確実に手を付けなさい」


 私はそう言って二人を手招きした。おっかなびっくりこちらに歩み寄る少女達にノートを渡す。ただし、香織には凛のノート、凛には香織のノートを。


 「あべこべじゃ無い?」


 「いいや、それで合っている。それと凛。君には払暁のリーダーを務めて貰いたい」


 「無理よ。私なんかには」


 「君が自分を信じられないのは、当然だ。君は人の良いところを掻き集めて、対して自分はこの程度とか思ってしまうタイプだろう」


 凛は、一瞬、息を止めたようだった。だが、すぐに虚勢を張りなおし、ツンと鼻先を持ち上げた。


 「その特性を自覚し、上手く扱えば君は私以上のリーダーになれる。まあ、今すぐに答えを出せとは言わない。考えておいてくれ」


 金髪の少女は何も言わずにノートを受け取り踵を返した。それを追って部屋を出ていく香織の背に陽夏と透を呼んでくる様に頼む。


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