↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/48

払暁戦


 戦いをどうにか切り抜け、各々が感情に浸っている。しかし、そんな時香織が声を上げた。


 「あっちって、確か第六地区……」


 香織の指さす方向に巨大なドラゴンが降り立った。

 あれは、確か龍型の幻獣、ドレイク。龍には珍しく群れをなすタイプで、一体一体の強さは然程でもない。


 「あそこにはまだ捕まっている人がいるんじゃ……」


 「そんな、早く助けに行かないと!」


 香織は地を蹴って飛び出した。矢のように宙を舞う香織に私は足で追いつき、襟を掴んで元いた場所へ投げ飛ばす。


 「きゃあ! な、何!?」


 「ちょっと、菩提さん。アタクシの香織さんに……」


 「皆んな、今すぐ穿の車に戻れ。撤退する」


 私は厳然とそう言い放った。


 「しかし、菩提。捕まっている人々を見捨てる訳にはいかない」


 「そうだぞ! きっと皆んな助けを待ってる、早く行かないと」


 「駄目だ。ただでさえ訓練を切り上げて駆けつけた、疲労も限界だろう。これ以上の戦闘は危険だ」


 私は素っ気なく返した。そこから先へは絶対に通さないと言う意思表示に代わって斧で地面を突く。


 「でも、だからって見捨てる訳にはいきません。アタシ、行きます」


 「……どうやら、いくら言っても無駄なようだな」


 「はい!」


 「そうか。それなら、私を殺せ」


 私を除いた五人が言葉を失った。


 「何を黙っている。当然の事だろう」


 「ちょっと、菩提さん。今は冗談を言ってる場合じゃ……」


 「冗談のつもりはない」


 雅が一歩進み出て、私の赤い瞳を覗き込んだ。


 「私達を何としても阻むつもりか」


 「いいや? そんなつもりは無い。いいかね? 君達は幻器を託された言わば選ばれた戦士だ。当然その肩にはこの国の民、一億二千万人の意思と希望が乗っている。そして、私はそんな君達のリーダーなのだ」


 雅の黒い瞳に映る私が揺れた。ここで折れる訳には行かない。私はルークに誓った筈だ、決して半端な仕事はしないと。


 「言うまでも無くその職責は重い。私の意思は全国民の意思、言わば化身だ。君達がそれに背くのは自由だが、その為には相応の筋を通さなければならない。即ち意思の化身たる私を、殺す事。かと言って、それを君達に言ったところで私を殺そうとはしないだろう。だから、宣言する。私より先に進んだものあらば、問答無用で、手足を折る」


 「関係無い! いくらムス姉の命令でも、これだけは聞けません! 何と言われても私は行きます!」


 「あ、香織さん」


 改めて香織が飛び出した。踵を返し追い縋ると、今度はその体を地面に叩きつけ、右腕に手を掛ける。


 「恨んでくれて構わない。ただ君に譲れないものがあるように、私にも譲れないものがあるのだ」


 そして、私は香織の腕を構造上あり得ない角度に曲げた。


 「キャアァァァッ!」


 痛みで香織が悲鳴を上げる。私は構わずに左腕を持ち、同じように折った。


 「飛閃ッ!!」


 続いて右脚に手を掛けた時、カマイタチが私の左腕を斬り離した。


 「酷い、本当に腕を折るなんて!」


 私は分身を出し、分かたれた左腕を凛の顔面目掛けて蹴らせた。そして彼女が怯んだ隙に瓦礫の山に投げ飛ばす。


 「ぐ、し、信じてたのに……貴女まで私を裏切るの……?」


 「信じる? それが何になる。相手の愛情や信頼が本物かどうかなど確かめようも無い」


 言葉を紡ぎながら同じように凛の腕を折る。


 「ぐ、ああぁっ」


 「君が自分を信じない限り、仮に香織が百%の愛情を向けたとしても、君はそれを疑うだろう。その度に依存する相手を移り渡ったとして君に一体何が残るんだ?」


 凛の左脚を折ったところで、背後に三つの気配が降り立った。


 「そこまでだ、菩提!」


 三人は四肢を折られた二人を見て、次に私の顔を見つめた。動揺、失望、疑問。それらの感情が入り混じった複雑な表情をしている。


 「ど、どうしてここまでするんですか!? 一体、何を考えてるんですか!」


 透が私に銃口を向けた。しかし、その手は震えている。私は平板な歩調で透に近付いた。


 三人は構えたまま私の様子を伺う。


 「私は確かに君に、全てうまくいくと言った。しかし、君の恐怖、負い目を戦闘に持ち込むな。それで一番後悔するのは自分自身だ」


 直後、私は透の腹に膝蹴りを叩き込み、首を掴んで地面に叩きつける。


 「うぐっ、かはっ」


 「このっ……」


 陽夏が飛び出し、私を殴ろうと拳を構えたが近接戦では私に一日の長がある。攻撃を躱し、地面に押し倒して右腕の骨を折った。


 「何度言えば分かる。責務を果たせ。復讐くらい、そのついでに済ませなさい」


 「ガアッッ」


 「やめろ、菩提! もう、やめてくれ……」


 雅は依然、旗の先端を私に向けたまま動けずにいた。懇願するばかりで腰は引けている。


 「はあ、この程度か。少しは強くなったと思っていたが、バジリスクと戦った時から何も変わっちゃいない」


 「こんな事をして、ただじゃ済まないぞ。どんな罰を受ける事になるか」


 「関係無い。私は常に最善を尽くしているだけ。その後に自分がどうなるかの思案など、どうでも良い事だ」


 私は眦を吊り上げて斧を向けた。


 「さて、君はどうするのかな? 第六地区へ向かわないのなら話はここで終わりだ。帰投するが」


 「そんな訳には行かない。かつてお前は言った。払暁は守る為に戦っていると、私もそう信じている。だから、例えどんな理由であれ、仲間を傷付けるようなやり方は認めない。私はお前を倒す!」


 「そうか、ならば全力で来い。私も君にだけは手加減しない」


 私は脚を大きく開き姿勢を低くして、最下段から斧を振り上げた。

 砂が巻き上げられ雅の視界を阻む。雅は旗を振り回して、砂埃を払った。

 刹那の隙に私は斬られた左腕を介して分身に斧を持たせ、その場を離れた。


 分身が正体がバレないよう立ち回る間に、気絶している透の幻器を拾い上げる。


 「ハァッ! な、攻撃が……分身か!」


 自分が対峙する者の正体に気付いた雅の横っ腹を私は背後から蹴り飛ばした。


 「フッ!」「ぐっ、」


 凛と同様に瓦礫に突っ込んだ雅に私は語りかける。


 「雅。この銃に何発弾が入っているか分かるか?」


 「何?」


 私は、透の幻器の片方。強撃のアスラをちらつかせた。


 「普通に考えれば弾倉の数。つまり、六発。などと考えているのだろうな。それが君の弱さだ」


 「何が言いたい?」


 「周囲からカリスマとしてある事を期待されている。その視線を君は自覚し、期待を裏切る事を恐れ、仲間を見ない。だから、弾の数も分からない。教えてやろう。透はいつもこうして敵に自分の武器を奪われる事を考慮して、非戦闘時は各銃に一発ずつしか弾をこめていない」


 私はおもむろに引き金を引く。破裂音と共に弾丸が雅の足元に食い込んだ。続けて私は凛の幻器、一角太刀の下に駆け寄り、拾い上げる素振りと共に銃身を雅に投げる。雅はそれを旗で難なく跳ね除けた。


 しかし、私は雅の背後に飛んでいった銃身の元に跳び、もう一度引き金を引く。すると、二度目の破裂音と共に鉛の弾丸が雅の耳を掠めた。


 「……一発なんじゃ無かったのか?」


 「1発ずつ、と言っただろう。もう片方から抜いた弾を詰め替えただけだ。駆け引きじゃ、君に勝ち目は無い。打って来なさい」


 「感覚遮断(シャットアウト)、身体強化(リィンフォース)!」


 雅が旗を地面に突き刺すが、斬り落とされた左腕の疼きは消えない。


 「行くぞ、菩提!」


 雅は旗を持ち直し、大上段に掲げて振り下ろす。幾ら最終同化しているとは言え酒呑童子と打ち合った膂力には敵わない。私の迎撃は木の葉のように吹き飛ばされたが、分身を支点にして無理矢理振り戻す。


 「雅、退くな! そのまま君の力を押し付けろ!」


 私の叱咤に応じる様に、更に威力を増した攻撃が私の斧を打つ。もう一度分身を使って打ち合いを続けた。

 まだだ、ここで押し負ける訳には行かない。


 「君はリーダー向きじゃ無い」


 「私はリーダーになりたいなんて言ってない!」


 「君が望むと望まざるとに関わらず、皆んなは君を中心として見る!」


 ますます威力が増していく雅の攻撃に、私は何とか喰らいつく。


 「私は、リーダーなんか御免だ!」


 「ならば、他の答えを用意しろ! リーダーでなければ君は払暁の何になるんだ!? 仲間を見たく無いのなら、見なくて良い所に立てば良いだろう!」


 「私は、私はぁっ!!」


 ついに私の迎撃が間に合わない速度で、雅の一撃が私の腹を打ち抜いた。


 「ぐっ、ぐはっ」


 私は呻きながらその場に倒れる。


 「私は皆んなの前に立つ。そして、強さで全てを圧倒してやる。敵も、味方も、召喚士も、払暁も」


 「はぁ、はぁ」


  ようやくだ。ようやく一人完成した。


 戦場の空は黒煙で埋まり、燃える様な夕焼けが煙の影を濃くした。


 この空もこれで見納めかな。


 他の四人に対しても、私から出来る事はもう無い。私は目に映る景色を心に刻みつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。