酒呑童子戦・序
「さて、次はいよいよ酒呑童子だ。陽夏、透、奴に関して何か知っている事は無いか?」
翌日。例の荒れ寺に戻って回復も兼ねて一晩明かすと、私は早速そう切り出した。
「陽夏は、知らないナ。アイツが戦ってる所は見た事ない。透はどうだ?」
「うん。私は見た事ある。八岐大蛇と同じく防御力にモノを言わせてジリジリ削っていくタイプです。攻撃は酒呑童子自身の体術と、後は自分の髪の毛から眷属を生み出せる位でしょうか」
「うむ、それと、防御においては自分の体に符呪を施し特定の攻撃への耐性を高めるらしい」
私は記憶を探り酒呑童子に関する資料を掬い上げる。
「加えて、その符呪は属性を細かに設定すればする程効果も上がっていく。例えば同じ物理的な攻撃でも、爆発、斬撃、刺突と言った具合にな」
「けれど、そもそも酒呑童子は物理という概念を知っているのかしら?」
「どういう事だ? 二階堂」
正座で背中をピンと張った凛は自分の金髪を弄びながら話を続けた。
「この時代の日本では物理学と言う概念は浸透してない訳じゃない? まして、相手は幻獣。とすると、私達の思いもよらない区分けをしている可能性もあるわ。電気を知らなきゃ香織さんの雷鳥を刺突と捉えたり、或いは不思議な攻撃として一括りにしてるかも知れない」
「ゲームで言うところの魔法攻撃と物理攻撃みたいな区分けになってるかもって事ですか?」
「ええ、他にも私の飛閃と流森さんの銃撃を同じ飛び道具として捉えたりとか、ね」
私は凛の見解を聞き考え込む。
呪符への対策として複数人による同時攻撃を考えていたが、それだけだと組み合わせ次第で効果が見込めないかも知れない。とは言え酒呑童子の価値観など私達に知る由もない。
酒呑童子には八岐大蛇の様な再生能力はない筈だが、チマチマと削っていたら体力の限界を先に迎えるのはこっちの方だろう。
「と、すればだ。発想を転換して区分けのしようがない単純な攻撃で攻めていこう。物理攻撃という大枠で防がれてはしまうが、符呪を前提とすればそれが最大効率だろうしな」
「単純な攻撃?」
「うむ。高い所から落としたり、木や岩で押し潰したりと言った様なスキルが介在しない攻撃だ。後は肉弾戦だな。今回の切り札は雅。君だ」
半ば察していたのか、雅は食い気味に頷いた。
十分間しか使えないが、身体強化された雅なら、酒呑童子の体術にも引けを取らない筈。
私達は大まかに方針を決定すると、まず瞬間移動で丹波国に跳んだ。酒呑童子は大江山の奥地に住むと言う。
人気のない入山口に数歩踏み込むだけで夥しい数の視線を感じた。恐らくは酒呑童子が生み出した眷属達だろう。彼らは列をなす事で道を作り、私達を奥へ、奥へと誘った。
「菩提さん。私たち……」
「うむ。誘われているな。余程自信があるのか、はたまた退屈していたのか」
私は肩越しに背後の陽夏を瞥見した。怒りを抑え込む為だろうか、眉間に皺を寄せている。暫く進むと、まるで花の様に手折られた幹が無残な傷跡を晒していた。
「来たか。未来の人間達」
桜の刺青が彫られた背中を向けて、鬼は呟いた。声を聞いて陽夏の呼吸が荒くなる。
「初めましてだな。私は菩提 結だ。貴様を殺しに来た」
「ケケケ、召喚士の野郎から聞いてるぜ。俺様の極楽を潰したふざけた奴らだな」
「……酒呑童子。陽夏を覚えているか?」
堪えきれないと言った様に陽夏は歩み出て声高に尋ねた。透が心配そうに肩を抑えたが、陽夏は乱暴に手を振り払う。
「ケケケ、この俺様が一々人間如きの面を覚えていると思うのか?」
「……」
「とは言え、玩具の面なら話は別だあ。よーく覚えてるよ國領 陽夏ぁ!!」
「グ、ク、酒呑童子ッ——」
「怒りを御せ。それは言葉では無く、奴を殴る拳に乗せろ。陽夏!」
陽夏は飄々とした鬼を睨み付ける。私の言葉で何とか踏み留まってくれたが、もう限界だろう。
「私も君ほどじゃ無いが長生きしてる。しかし、鬼と言うのは特別のんびり育つらしい。まだ、玩具にご執心とは」
「……何だと?」
「お陰で山に入ってから乳臭くて鼻が曲がりそうだったんだ。これも攻撃の内なら大したモノだな」
「ケケケ、この天下の酒呑童子様をコケにするたあ良い根性してるぜ。良いだろう、ゴミども。お前達を嬲り、犯し、限界まで苦しめた後、最初に陽夏、お前を殺し、最後に斧使い。お前を殺す」
酒呑童子は額に青筋を浮かばせると、瞬時に姿を消した。
「散開!」
私が鋭く指示を飛ばすと鬼の攻撃は空を切り、無人の地面を放射状にひび割れさせた。
「雑魚ども! かかれ!」




