八岐大蛇戦・破
「良い感じだ。この調子で後二回のチャンスをモノにしなさい」
透が最後の一本に銃弾を撃ち込むが、切断には至らない。体勢を回復した凛が再び斬撃を放つも、やはり位置が割れていると防ぐか躱されてしまう。
「はぁ、はぁ、しぶとい奴め。何度でも投げてやらぁ!」
河太郎は既に息を切らせている。当然だ。自分の何倍もの図体を何度も投げているのだから。
陽夏はシールを貼り付けた石くれを投げつけ、中距離から、透も遠距離から銃弾を浴びせ、少しでも隙を作ろうと試行錯誤している。雅は動きが鈍り始めた河太郎の援護に回っていた。
私は凜と並走し戦況を眺めつつも、胸に安堵を覚える。先のバジリスク戦と比べて皆んなの動きは格段に良くなった。
個々人のパフォーマンスだけではない。それぞれの動きを予測し、いるべき位置、取るべき行動を言われずとも理解している。研ぎ澄まされた練度は河太郎と言う異分子を受け入れて尚、健在だった。
後は精神面だけだ。それさえ克服すれば、最終同化さえ使いこなせれば、召喚士にも届き得る。瞬発力と継戦能力を兼ね備えた、私の思い描く払暁ならば。
「おりゃぁ!!」
またしても、河太郎が八岐大蛇を投げた。陽夏が爆発で土煙を起こし、雅が旗を振り回し拡散させる。私は八岐大蛇の死角を見極め、凜と共に跳んだ。
「飛閃!」
都合八つ。斬撃が首に喰い込み、そして、弾かれる。
「嘘っ!」
攻撃を防いだ直後、八岐大蛇の首が一本急速に腐り、爛れて、地面に降り注いだ。
なるほど。首一本を犠牲にして、あらゆる攻撃を無効化する能力か。私は素早く現象に辺りをつけ、放心している凛を連れてその場を飛び退った。
瞬間移動の残り回数は一度きり。飛閃は雷鳥の様に技名を叫ばないと使用できない以上、攻撃のタイミングはどうしても読まれる。つまり、今と同じ事を後、最低でも七回は繰り返さなければ奴は倒せない。
私達は八岐大蛇から距離を取り土煙が晴れるのを待つ。しかし、突然透が悲鳴を上げた。
「菩提さん! や、八岐大蛇が河童を食べてます! ……そんな、腐った筈の首が」
未来予知を使っているのだろう。十秒ほどして土煙が晴れると、水面が仄かに赤く染まり、八岐大蛇は以前同様、八本の首を擡げていた。
「く、クソォッ! よりにもよって、アッシの目の前で!」
「おい、河太郎。お前さっきから変だぞ。陽夏に何か隠してんのか?」
河太郎は同胞を喰われたショックで地面に拳を打ち付けた。そして、いよいよ違和感を呑み込めなかったのか、陽夏が底冷えする様な厳格な声音で言及する。
他の面々の表情にも、絶望の色が滲み始めた。
まずいな。撤退すべきか? 飛閃以外で八岐大蛇を殺し切れる技があるとすれば、神鳴か物質変化、それと、塵は塵にか。
「皆んな! 後、一度だけ試したい事がある! それで駄目なら撤退だ!」
陽夏と河太郎を除いた四人から了承が返るのを聞いて、私は再び行動を始めた。
「香織、私が合図したら奴に神鳴を喰らわせてやれ」
「分かりました」
香織を呼び寄せ簡単に指示を伝えて、別れる。雅が撹乱して河太郎が八岐大蛇を投げ飛ばし、私と跳んだ凛が斬撃を放った。
「飛閃!」
全ての首にカマイタチが迫り、やはり、弾かれる。伴って首が一本腐り落ちる。
「今だ、香織!」
「轟け! 神鳴!」
極太の光線が八岐大蛇の威容を呑み込んだ。音と衝撃波が広がり、光の中から現れた奴は身体中が焦げ、再生が始まっている。
どうやら連続して無効化は使えないらしい。
「陽夏! 岩を削り出して、爆弾に変えろ。透、香織と凛は援護、雅はスキルを」
雅の下位スキル身体強化は負担が大きすぎて上位スキルの感覚遮断と組み合わせないと使えない。しかし、それ故に効果は大きい。
「分かった」
雅は私の指示を聞き届けて旗を地面に突き刺した。旗印がはためき、私達の体から疲れと痛みが消えていく。
視界の端からは淡々と陽夏が爆発を起こして崖から岩を削り出していた。不規則に爆発音が響く。一方で八岐大蛇は腐った首を回復しようと河童を食べに向かった。しかし、奴の尻尾を河太郎が掴んで引く。
「これ以上、喰わせてたまるかい!!」
盛大に暴れるが、八岐大蛇は拘束を抜け出せず私は奴に斧を投げつける。回転する斧は進み続け、二本の首を斬り落とした。続けて三本めの首に迫る斧を頭突きで弾く。
「ムス姉、爆弾出来たぞ!」
「よし、雅、私が合図したらその岩を八岐大蛇に投げつけろ」
「な! 戸建ての家くらいある岩だぞ」
明後日の方向に飛んでいった斧の元へ駆け寄りつつも私は雅に叫ぶ。
「それがどうした、今の君なら出来る。自分を信じろ!」
「クソ、河太郎、デカいものを投げ飛ばすコツとか無いのか!?」
「ああ? 臍の下に力を集めて、ケツの穴キュッと締めて、大声出せば投げれねえものなんか無え!!」
「分かった。ケツと臍だな!」
私は斧を回収し、八岐大蛇に向けて振るう。
「塵は塵に」
自身に迫る衝撃波を感じ取ったのか、八岐大蛇は首を腐らせ事なきを経た。しかし——、
「雅、今だ!」
「ググ、ドッセーイ!!」
陽夏によって爆弾と化した巨岩が空を舞い八岐大蛇のすぐ真上に迫る。その時、私が指示を出すまでもなく陽夏は起爆した。
最高火力の爆発は、首どころか八岐大蛇の上半身を消し飛ばした。
残された下半身がその場に頽れる。
「はぁ、はぁ、よ、ようやく」
河太郎は居ても立ってもいられず泉に浮かべられた同族の元へ向かおうとした。しかし、そこに陽夏が立ち塞がる。
「お前、やっぱりアイツらの仲間なんだろ?」
「……」
「陽夏を騙してたんだろ?」
「陽夏ちゃん……」
香織が河太郎と陽夏の間に立ち、表情を曇らせた。
「昨日の夜、四人が寺を出てったのは知ってた。香織。お前達まで陽夏に嘘をついた」
「陽夏ちゃん、ごめんなさい。でも、私達はただ」
「けど、そんな事はどうでも良い。お前らが幾ら陽夏に嘘を吐こうが陽夏は仲間は信じる。仲間は、ナ」
陽夏は最後の言葉に力を込め、香織を透かして河太郎に視線を送った。
「よしてくれ。アッシは一族を助けてくれた恩人と戦いたくねえ」
「黙れ。陽夏にとって、幻獣は皆んな敵だ! 陽夏達から大切なモノを奪っていく。忘れたとは言わせないぞ」
「確かに、アッシも一族の為に未来の人間を大勢殺した。だけど、アッシらにして見れば召喚士、つまりは人間が先に襲って来たんだ。主だってちょっと頭が堅いだけで、本当なら根は良い奴だった。そいつを人間が狂わせた。でも、だからってアッシはお前さんらを憎んじゃいない」
河太郎の主張に陽夏はわずかにたじろいだ。
「陽夏、河太郎は完璧に味方とは言えない。それは認める。けれども、敵とも言えない。君が一番倒したいのは、酒呑童子、そして召喚士の筈。河太郎達をここで殺すのは得策とは言えない」
「ヒーちゃん、やめよう? 少なくとも河太郎さん達は第八地区にいなかった。河童を許せないと思う人はいるかも知れない。でも、それは私達じゃ無い」
続いて私と透が説得を試みる。陽夏はしばらく黙っていたが、踵を返すと泉への道を開けた。
「陽夏達はこれからもっと強い奴と戦わなきゃ行けない。今は雑魚に構ってる場合じゃナい」
「恩に着る。人間の戦士達……約束は決して違えねえ」
そう言って河太郎は去っていく私達の背中に頭を下げた。




