次の任務へ……
私が席を立つと六人は戸惑いがちに目配せしたが、香織が頷いた。
「さて、そう固くならなくても良い。何個か質問をするだけだから」
「は、はい」
「まず一つ目の質問だ、本日の訓練のMVPは誰だと思う? 具体的には私以外で最もチームの勝利に貢献したと思う人物だ」
私は呼吸を整えて切り出した。
「そうですね。やっぱり透ちゃんかなあ? 全然攻撃も当たらなかったので……」
「ふむ、二つ目だ。訓練を通して自分の中で反省点はあるか?」
「う〜ん、指示通りに動けない時とか他の人と息を合わせるのが余り上手くいかなかったと思います」
香織は控えめに指を遊ばせながら答える。
「分かった。最後の質問だ。ラーメンは美味かったか?」
「え? は、はい。ムス姉ほどでは無いと思いますけど、美味しく感じました」
話を聞き終え次に陽夏を呼んで来てもらうように言いつけて香織を返した。
それから、私は残りの四人にも同じように質問した。
陽夏の場合、一つ目の質問は、
「そうだなあ。やっぱ、透だろ! 体力もあんまり無いのにすっごく頑張ってたぞ」
二つ目の質問は、
「陽夏の幻器は、下手すると香織より接近しないと行けないのに陽夏はあんまり接近戦が得意じゃ無いから。それを治したいな」
三つ目の質問は、
「ああ、美味かったぞ。塩加減もピッタリだったナ」
透の場合、一つ目の質問は、
「二階堂さん、でしょうか。私が敵の時こちらを狙いつつもずっと菩提さんの様子を見ていました。怖くなるほどの集中力でした」
二つ目の質問は、
「自分への攻撃を捌くのに手一杯で、チームメイトを気にかける事が出来ませんでした」
三つ目の質問は、
「普段はあんまりコッテリした物は食べないんですが、このお店のラーメンは美味しかったです」
凛の場合、一つ目の質問は、
「國領さん、かしら? しょうがない事だけどルール的に國領さんは攻撃を封じられていた様なものだから。戦いづらそうだったわ。運動量も増えてただろうしね」
二つ目の質問は、
「やっぱり國領さんと組んだ時に、もっとサポートしてあげられれば良かったと思うわ」
三つ目の質問は、
「そうね。普通くらいかしら、良い塩梅の味だったわ」
雅の場合、一つ目の質問は、
「流森、だろうか。一度も攻撃を当てられなかった」
二つ目の質問は、
「流森や、菩提の得点二倍に気を取られすぎた事だ。もっと、堅実にポイントを取りに行っても良かったと、今になっては思う」
三つ目の質問は、
「そうだな。そこそこかな。姉さんと時々来るから馴染みのある味だし、特別美味いとまでは思わなかった」
私はそれぞれの回答を端的にまとめて、ノートを閉じた。
質問を終え、ラーメン屋から私達は久しぶりに寮に戻った。バフォメット戦以来、ずっと病室にいたので玄関には薄らと埃が溜まっている。
その日は流石に疲労で全員が早々に自室へ戻り休んだ。
それから残った六日間、同じ様に実戦訓練を重ねチーム全体の練度はかなり上がった様に感じた。
「結。一ヶ月経ったけど、次の任務行けそう?」
「うむ。首尾は上々だ。皆んなを集めてくれ。今回は故あって事前に討伐目標を伝えておきたい」
私が穿に頼むと、寮中にフライパンを叩く金属音が鳴り響きモノの十分で食堂に全員揃った。
「さて、早速次の任務の概要について話す。前回私達は中世ヨーロッパに跳んだわけだが、今回は近世の日本に跳ぶ」
陽夏の肩がグッと震えた。私はそれを黙殺し話を続ける。
「そして、今回戦う予定の幻獣も前回同様、三種類だ。一つが人型の幻獣、河童。一つが龍型の幻獣、八岐大蛇」
「うわあ、すっごい強そうな名前だね、凛ちゃん」
「ええ、そうね香織さん」
凛は既に何かを察しているのか漫然と頷いた。
「一つが、これも人型の幻獣……酒呑童子」
「菩提!」「菩提さん!」
雅と透が一斉に声を上げた。陽夏は私から仇の名前を聞いて俯いている。
「結。説明してくれる? 三種の討伐目標の選定基準を」
「うむ。河童については少し前のムリミュドーイと同じ理由だ。三世奪還の際に召喚士が使役していたので攻撃に転用される可能性がある。八岐大蛇は私が知る限り最上位の幻獣だから、早めに倒しておきたい」
「それで、酒呑童子は?」
意外にも凛が神経質そうに口を挟んで来た。
「他とそこまで変わらない。しかし、第八地区が解放されて以来、奴は明確に浮いた駒だ。むしろ、今まで攻撃に参加しなかった事が奇跡と言っても良い」
「……でも、ヒーちゃんにとっては」
「当然、それを考慮した上での決定だ。但し、勝ち目の無い戦いに挑む趣味はない。酒呑童子を目前にして正気を保っていられる自信が無いのなら、事前に申告してくれ」
陽夏は俯いたまましばらく黙り込んでいた。私は特に急かしもせず辛抱強く待つ。いくら私でも酷な事を聞いている自覚はある。
「……ムス姉は、陽夏が戦えると思ったから提案してきたんだろ?」
私は短く首肯した。
「正直なところ暴走せずにいられる自信はない。でも、それ以上に陽夏はアイツを殺したい。一刻も早く。だから、陽夏から頼む。アイツと戦わせてくれ」
「陽夏。戦う動機に貴賎はない。私怨だろうが、利他主義だろうが重要なのは結果だ。だがな、破封烈印を持っている限り、君は國領 陽夏と言う一人の人間である前に、払暁の一員だ。責務を果たせ。私から言うべき事はそれだけだ」
陽夏は答えずに、ただ沈黙した。彼女の胸の内は私には分からない。いずれにせよ陽夏にとっての答えを導き出せるのは陽夏だけだ。そして、この件に限っては答えは戦いの中にしか無い。
「出立は明日の正午だ。皆んな、準備を済ませておきなさい」




