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バジリスク戦・一

 「コホン、さてと少し話が脱線し過ぎたな。話題を戻すと、明日からの予定についてだ。まず、次に相手する幻獣はバジリスクと言う。視界に収めた物を石化させる魔眼が厄介だが。もう一つ厄介なのが奴の位置だ」


 「ああ、ここから内陸に百キロ進んだ所、らしい。菩提の瞬間移動が無いと変身したとしても三日は掛かる」


 「うへぇ」


 うんざりと陽夏が机に突っ伏した。


 「移動に関しては、瞬間移動を使えば良い。ただ、同化のインターバルで討伐前に一日、向こうで野営しないといけない」


 幻器を使って変身した場合ならインターバルは必要無い。しかし、同化する場合はそれが生じる。二十四時間が経たないと同化どころか変身さえ出来ない。


 「なるほど、それじゃあ明日移動して明後日、戦うと言うことね」


 「うむ、現代から持って来た水は全て持って行くこと。それから、今日は少し早いが休みなさい。腹が減っている者には私が何か作るので遠慮せず言ってくれ。何か質問は?」


 「菩提。今回は人狼の時みたいに作戦は無いのか?」


 雅がすかさず手を挙げた。


 「うむ、無いな。と言うより今回私は極力介入しないので、五人だけで戦ってみてくれ」


 「アタシ達だけで……?」


 「自分達で作戦を立て、協力してバジリスクを倒してもらう。勿論、危なくなれば助けに入るが、それを当てにするな」


 「ふ〜ん、腕がなるナ」


 透と凛が不安そうに顔を見合わせた。


 「心配しなくとも、バジリスクの詳細については事前に説明する。それに、雅は一度現代で奴と戦っているから、何かあれば聞くといい。それで、他に質問がある者?」


 今度は誰も手を挙げなかった。私は手を叩いて「それでは解散」とだけ命じて部屋に戻った。


 それから、香織や陽夏に頼まれて軽食を何度か作ったが、概ね充分な休息を取る事が出来た。


 翌日、私達は最低限の荷物を持ちバジリスクのねぐら付近に移動して野営を敷いた。現代のキャンプ用品を中世に馴染む様にカムフラージュして持って来ていたので、それを使った。


 「おお! ボタン一つでエアーベッドにナる奴。凄い高いのに!」


 キャンプ用品を見てテンションが上がったのは、意外にも陽夏だった。


 「もう、ヒーちゃんったら、初日は野営なんてって文句言ってたのに……」


 「陽夏はキャンプ用品を見るのが好きナの!」


 その後私は明日戦う事になるバジリスクについて四人に説明した。雅を含めた五人が作戦について話し始めると、瞬く間に日は沈んでいった。

 念の為に交代で見張を立てながら眠りにつき、私達は再びバジリスクの住む洞窟に踏み込む。


 「さて、戦う前に髪を結う。まずは凛、こっちに来なさい」


 「髪を……?」


 「うむ、昨日も話したがバジリスクの視界に体の一部でも映ってしまえば石化してしまう。長髪の者は髪を纏めておいた方が動きやすい」


 私は凛、陽夏、雅の髪をヘアゴムで纏めた。


 「さあ、次は透だ。来なさい」


 「へ、あ〜、私は大丈夫です。髪ならほら、服の中に入れちゃいますから」


 「いや、無理があるナ!」


 私が透を呼ぶと両手を振って拒んだ。私は透に近づき彼女の頬に手を当てる。


 「ぼ、菩提さん?」


 「……怯えているのか?」


 手を添えてみると、透の頬は汗ばんでいる割に冷たく、僅かに震えている。


 「な、何のことですか?」


 「おい、ムス姉」


 陽夏が透を心配して声を上げたが、構わずに私は言葉を続けた。


 「大丈夫だ。全てうまく行く。私はその為に二百年を生きて来た」


 「あの、菩提さん。もしかして……」


 「さあ、落ち着いたなら私の髪を結ってくれ、透。念の為にな」


 透は私にだけ聞こえる様に声量を絞って囁きかける。が、私はそれを聞かずに透に背を向けた。


 「……ありがとう、ございます。菩提さん」


 「うむ」


 私と透のやり取りを見守っていた四人がほっとした様にため息を吐いた。


 その後、バジリスクのネグラまで進み、私と他の五人は途中で別れた。私は一昨日偵察で使った高台に、五人はネグラに通じる道を進んで行った。


 私は高台から寝息を立てるバジリスクを見下ろす。


 ここからはネグラの入り口も窺い見る事が出来た。明るい空間の向こうで、パックリと開いた闇の奥に、人影がチラリと揺れる。


 作戦の最終確認をしているのか、バジリスクに仕掛けるまで、数分の間をおいてから、五人は一斉に飛び出て来た。


 上からだと五人の立てた作戦は一目瞭然だった。まず雅が、バジリスクの視線を引き、透と凛が尾の蛇を相手取る。そして、陽夏と香織が側面から攻撃を加える。


 オーソドックスな戦法だが、バジリスクに対しては極めて有効だった。しかし、当然ながらバジリスクは視界を広く取り一人でも多くの敵を石化させようとする。


 「駆けろ、雷鳥!」


 香織がバジリスクの横っ腹を殴り、雷の鳥を走らせた。電気は羽毛を焦がしたものの、その衝撃は皮膚の下の分厚い脂肪によって完全に受け流されている。


 更には攻撃から離脱への流れが遅れて香織はバジリスクの視界に入ってしまった。既に石化している雅も含めて、勢いが完全に死んでいる。すると、バジリスクは背後を振り返り石化の解かれた雅と香織を尾の蛇に襲わせた。


 一方で、今度は陽夏が石化の餌食となる。雅は香織を庇い、うまく凌いでいるが、凛と透の位置が被ってしまい陣形の立て直しに時間がかかった。


 一回だけであれば戦闘に影響を及ぼさなかったかもしれないが、そのミスは二度三度と折り重なる。


 石化し、陣形を立て直す度に、時間はバジリスクに有利した。戦闘が始まってたったの十分で策は完璧に破られていた。


 常に誰か二人が石化され、残った三人は尾の蛇を相手どり、側面を攻撃出来るものが居ない。


 作戦には何の問題もなかった。ただ、それを実行する為の練度が足りていない。


 雅は双戟旗を振り回し、尾の蛇を叩き落とす。が、吹き飛ばされる途中で急制動を掛け、蛇はうねりながら香織と凛を狙った。


 当然二人も簡単に攻撃を受けたりはしないが、変則的な動きを読み切れず自由に動けない。


 「二階堂! コイツは私が引き受ける。お前は側面へ!」


 「分かってる! だけどタイミングが合わないのよ!」


 「ハァァ、駆けろ、雷鳥!」


 どうにか陣形を回復しようとするが、まるで息が合っていない。


 その時、バジリスクがようやく私に気付いたのか、こちらに視線を走らせた。私は身を低くし視界に入らない様に観察を続ける。すると、石化が解けた透が苦戦する三人の元へ走っていった。


 透は持ち前の洞察力で三人の動きを推測し、ぎこちなかった歯車の潤滑油の役割を果たした。そうして、ようやく陣形を回復できそうと言う段になって、バジリスクは再び踵を返す。


 凛と雅が石化され、反対に石化から解放された陽夏を尾の蛇が襲う。近接戦に対応してるとはお世辞にも言えない破封烈印では、蛇の攻撃を捌けない。

 透も雅達と合流した影響で陽夏の援護が間に合わない。


 「緊急ワードを! ヒーちゃん!」


 透が咄嗟にそう叫んだ。しかし、陽夏は口をグッと引き結び、両腕を交差して構える。


 「駄目! 蛇には猛毒が!」


 透の悲痛な叫びと共に蛇の毒牙が陽夏に迫る。


 「グッ! ……? あれ?」


 「全く、バジリスク如きに苦戦するとは、先が思いやられるな」


 私は陽夏を小脇に抱え、透のそばに移動した。


 「ムス姉、助けてくれたのか?」


 「見れば分かるだろう……皆んな! ここからは私が指揮を取る!」

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