結婚の理由
実家に戻って、3ヶ月が過ぎた。
実家に戻った私は、自分に掛ける時間が持て、独身の頃のように、身なりに気を使う余裕もできた。
仕事は、旧姓で再開した。
表向きは、子育てが落ち着いて、仕事を再開したことになっている。
業界のパーティーに、父の代理で、同じく建築事務所を開く兄と出席する。
兄も、見た目がいい。
皆が、私たち兄妹に振り返る。
「義姉さんは、兄さんの見た目に惹かれたのかな?」
「それはないね。
オレには興味がなかったから、オレの見た目は関係ないね。
お前の旦那は、お前の見た目だな。」
「そうね。
身なりに構わなくなったら、興味が他に行ったって感じかな。」
「いい車を乗り回すやつだから、そんなヤツだと思ってたよ。」
「私は、外見だけなのかな。」
「外見しか興味がなかったんだろうな。」
「兄さんは、大丈夫?」
「オレが惚れて結婚したからな。
彼女は、仕事を思いっきりできればそれで良かったから、仕事の邪魔にならない結婚生活に不満はない。」
「義姉さんは、兄さんをちゃんと愛してるの?」
「心の支えにはなってると思うよ。
彼女も、仕事では気を張ってるからね。
オレは、彼女が仕事に集中できるよう支えて、そのオレに彼女は感謝して、それがオレたち夫婦の形かな。」
「仕事してる義姉さん、素敵だもんね。
頼りにされてるんだ。」
私は、夫と結婚することで、仕事上の面倒くさい誘いから逃れたかった。
夫が、大手建設会社の息子だったのも、相手としてちょうどよかった。
インテリアコーディネーターとして働く上で、家事や子育ての経験がないことにハンディを感じていたから、その経験もしたかった。
しかし、専業主婦を望んだ夫は、私のキャリアには、興味がなかった。
パーティーには、夫も出席していた。
兄が私から離れると、夫が近づいて来た。
別居はオープンにしていないため自然に振る舞う。
「そろそろ、戻って来ない?」
夫は言う。
今の私は、夫の好きだった見た目に戻っている。
独身の頃のように、私を見つめる。
浮気相手と別れたとは言わない。
私も聞かない。
「もう少し、時間が欲しい。」
夫は、落胆する。
「私、仕事を続けていきたい。」
「どうして?お金なら、十分に渡してるし、仕事と家事の両立は大変だろ。」
夫に、家事をする考えはない。
夫は私に、夫のためだけの人生を望んでいる。
私が家を出て、家事の大変さを口にしないのは、浮気相手に身の回りの世話をさせているのだろうか。
「私、インテリアコーディネーターの仕事が本当に好きだから、これからも続けようと思うの。」
「僕は、男社会の中で、自分の妻に働いて欲しくはない。」
夫の独占欲は、変わらない。
私のキャリアへの尊重もない。
夫は、家を守る妻よりも、見た目のいい自分の妻を自慢することに喜びを感じる人だ。
子育てで、身なりに気を使わなくなってから、業界のパーティーに私を伴うことは無くなった。
夫が、これまでの家事や子育てに感謝を示してくれていれば、私の心は違ったのかもしれないが、私が昔のようにオシャレをするようになって、戻って欲しいと思っている。
「紗羅、旦那がどうして自分と結婚したか知ってる?
ちゃんと、1人の人間として見てくれていたのか。
旦那が自分自身のために結婚を望んだのか。
結婚当初のままの妻を望んでいるのか。
そして紗羅も、どうして旦那と結婚したのかわかってる?
ホントに旦那じゃないといけなかった?」




