本当に愛している人
土曜日、子供を父に預けて、母と歌舞伎に出かけた。
母は、父に子供の面倒を見させることに抵抗を感じていたが、私が押し切った。
母は、少しでも父の負担が軽減されるよう、昼ごはんの用意をして出かけた。
「たまには、ご飯の支度や、洗濯物の片付けもお願いしたらいいのに。」
「お父さんは、いつも仕事で大変なんだから、1人で孫の面倒を見させるなんて、申し訳ないでしょ。」
母は常に、夫ファーストである。
母が行ったことのないような、おしゃれな店でランチをとり、歌舞伎を鑑賞する。
母も、楽しんでくれたと思うが、歌舞伎が終わると、晩御飯の心配をし、スーパーに寄って、早々に帰宅した。
「お父さん、今日は、すみません。」
帰宅した母の開口一番は、父に対する謝罪だった。
私は、父に話す。
「ずっと、家族のために頑張ってきたお母さんを、たまには家事から解放して、自分の時間を楽しんでもらいたいと思ったんだけど、お父さんに対して、申し訳ないって言うばかりだった。」
「そうか。」
父は、母の献身をどう考えているのだろうか。
「歌舞伎は、楽しかったか?」
父は、母に尋ねた。
「はい、今度、時間があれば、一緒に行ってみませんか。」
母は答える。
母は、家事から解放されることより、子育てが終わり、父と2人で夫婦の時間が過ごしたいことに気づく。
昔から、母は、父のことを一番に考え、尊敬をしていた。
家事で、父を支えられることを幸せと思う女性だった。
そんな母に、1人の時間を楽しむという願望はない。
夫婦でこれから、いろんなことを楽しみたいと願っていたことに気づく。
歌舞伎に共に向かうのは、私ではなかった。
私が、家に居て、2人を送り出すべきであった。
「今度、2人で相撲を見に行けば?幕前の催しも面白いし、朝から、1日ゆっくり見てみれば?
プレゼントするから。」
母は、とても喜んだ。
「紗羅、本当に相手を愛してたら、相手のためだけの人生が、幸せって感じると思うんだ。
何かをして欲しいとかも思わないの。
不満が出るってことは、本当に愛した人じゃなかったのかも。
2人でなんでも楽しみたいと思う相手と結婚していないとしたら、自分の選択が間違ってたってことだから、我慢は必要かもしれないよ。」




