第21話 初めての激怒、白銀龍の想いと制裁
――3週間後
「そろそろ来ると思ったのになかなか来ないわね」
飛び地の復興を始めてしばらく経ち、騎士団やフェリグ商会の馬車も来るようになったが、まだアヤとメア、ロイドは来ていない。
「資材搬入を優先しておるのかもしれんな」
「そうね。3人ならそれくらいのことは考えるか」
「今日にも伝書鳩を飛ばしておきますよ」
代官の屋敷の執務室でダエグ、トライスからそう言われるが、まあその通りとも言えるだろう。
「そういえば、ダエグ、貴方かなり大きくなったわね」
「そうだな。これならばそれなりには戦えよう」
トライスと同じくらいの大きさの好青年になったダエグは飛び地の復興も手伝ってくれている。龍だけあって力もあり、助けられている。
――コンコンコン
「あら? どうぞ、入って」
「失礼します。アリーシャ様宛に至急の書簡が届いたのでお持ちしました」
「何かしら? ありがとう、貴女は下がっていいわ」
「では」
メイドから渡された書簡を確認してみる。差出人は……陛下? さっそく中身を……
「……やってくれたわね、あの両親は」
「どうされましたか?」
「何があった?」
「見てごらんなさい」
ダエグとトライスに書簡を見せる。
どうやら、両親は数日前に行方をくらまし、それと同時にアヤとメア、ロイドも消えたようだ。
そして、王都の北にある放棄された屋敷から異様な魔力が漏れ始めたのも数日前のことらしい。
「つまり、両親が3人をさらって、何かしら良くないことをやっている、ってことよ」
「考えられるのは……やはり悪魔召喚ですか」
「だろうな。アリーシャよ、今すぐ行くべきであろう」
「言われなくても。トライス、しばらく任せるわ」
「はい。くれぐれもお気をつけて」
王都の北の廃棄された屋敷は飛び地とは反対側だ。通常ならかなり時間がかかるが、私にはニールがいる。
だが、のんびりはしていられない。あの両親のことだ、急がなくては。
――12時間後、王都北の門
「以上が、この先の状況でして……」
「なるほどね」
ニールを駆り、夜になった頃、私は王都に着いた。このまま進めれば良かったのだが、門番曰く、急に異常な魔力を纏った魔物が現れ、騎士団も兵士も対応に当たっているという。
「これは間違いないわね」
「でしょうね、我が主よ。しかし私にお任せ下さい! そのような魔物如き、一匹たりとも怯むことなくお連れ致しましょう!」
「貴方走りっぱなしなのよ? 流石に厳しくないかしら?」
「いえ、我が主より魔力を頂いておりますから全く平気です! この身の黒雷にて邪魔する者は灰にしてくれましょう!」
「ふふ、頼もしいわね」
「それと……我が主よ、少し言いにくいのですが、魔力に少し乱れのようなものがありました。お体の方は大丈夫なのですか?」
「特になんともない、とは思うけど」
ニールに任せれば安々と突破できそうだ。しかし、魔力の乱れか。書簡を読んだときに何か少し乱れたような気もするがそれこそ気のせいだろう。
「とにかく、今は行くしかないわね。頼んだわ、ニール」
「はっ!」
黒雷を纏ったニールと共に門から全速力で飛び出す。確かに魔物が湧いているが、ニールを恐れて近寄らないか、近寄ったとしても本当に雷で灰になっていく。
あっという間に平原の中央まで来た。
「あれは……ニール、見えるかしら?」
「はっ、あれはワイバーンのようです。私では雷でも分が悪いですね……」
「こっちに向かって一直線ね。少しだけ速度を落としてそのまま走って。打ち落とすわ」
数が数だ。魔力鋼弾では対処できない。ならばこういうのはどうだろう?
「金色の棘よ、無尽となりて敵を貫け」
――ヒュオン……
左手にエスピノドラドを召喚し、形をイメージして天へと投げる。
――ドドドドドドドドド!!
無数の棘がワイバーンを次々と地面へと縫い付けていく。なかなか上手くいったのではないだろうか?
「ほう、アリーシャよ、使い方が上手くなったな」
「ええ、ダエグに教えてもらった通りね」
「しかしかなり大きいのが森への入り道を塞いでいるな。どうする?」
「それなら、こうね。ニール、あの大きなワイバーンに向かって突っ込んで」
「はっ! 我が主、信じております!」
――キィン……
ニールの速度、そこにガングネーアの斬れ味を乗せれば……
――スパァァァン!!
ワイバーンの頭から尻尾にかけて、走り抜けざまにバッサリと斬ってしまう。そのまま2つに割れて崩れてしまった。
「見事! 真っ二つとは恐れ入るぞ、アリーシャよ」
「これで王都への被害は防げそうね。先を急ぎましょう」
「私の足にお任せ下さい!」
あまり大きな魔物の反応もない。このまま廃棄された屋敷へと向かおう。
――30分後
「なるほど、これは最悪ね」
「ああ、良くない魔力が満ちている」
道中に出てきた魔物を蹴散らしながら、私は廃棄された屋敷へとたどり着いた。ニールには念のため退路の確保をしてもらっている。
今まさにその屋敷へ入ったわけだが、状況は非常によくないだろう。
「ダエグ、この魔力、どこからだと思う?」
「恐らく地下からだ。この魔力は奴のものと見て間違いない」
「ええ。悪魔の魔力ね。分かりやすくて助かるわ」
この屋敷、かなり広いものだが、悪魔の魔力が異質すぎてどこから漏れているのかが丸わかりである。たどっていくのは容易いが……
「アリーシャよ、お主、気分が悪いとか、そういうことはないか?」
「まあ気色の悪い魔力とは思うわね。それ以外は、別段なんとも……」
「そうか? いやなに、少し魔力と脈に乱れがあるように思えてな」
「そうかしら……確かに私が肉体の一部を奪われたときに感じた魔力だから多少は何かあるのかもしれないわ」
自分の首に指を押し当てて脈を測ってみる。確かに少し早い気もするが誤差だとは思う。
そんなことより、この魔力の出てくる場所が見えてきた。
「この扉の先ね」
「ああ。一段と濃いな」
「開けるわよ」
――ギィィィ……
「うっ……これは……」
「酷いものだな」
扉の先に見えたのは怪しげな光を放つ魔法陣と、その真ん中に横たわる血みどろで剣の突き刺さった女の死体。
「あれは母親だわ……まさか、あの父親は」
――ゴゴゴゴ……
「やぁ、アリーシャ、そろそろ来る頃だと思っていたよ」
石壁が動き、奥から男が出てきた。こいつは間違いなく……
「こんな所、来たくはなかったんですが」
「来たくなくてもお前は来ざるを得ない。なぜなら……」
「はっ! ロイド、アヤ、メア!」
父親の後ろには椅子に縛られたロイドとアヤとメアがいた。分かっていたが、やはりか。
「最初は妻だけで悪魔を召喚しようとしたんだ。でも足りなくてねぇ。ハズレで出てきたシャドウリーパーたちに3人をさらわせたのさ」
「……なぜ、なぜ3人を巻き込んだ?」
「お前から全てを奪うためさ! お前は私から全てを奪った! だから全て奪ってもう一度悪魔の生贄にしてやるんだ! 行け! シャドウリーパー!」
父親がシャドウリーパーに命令して私に攻撃してくる。正直シャドウリーパーなど相手にするまでもないのだがなぜか無性に斬り伏せたくなった。
――ズダンッ!
「そんな、そんなことのために……?」
「そうとも! 生贄の失敗作のお前に奪われてたまるか!」
――ガキンッ!
「本当にそんなことで……?」
「当たり前だ! くっ、シャドウリーパー何をしている!」
――ベキィッ!
――ドガァッ!
「……」
「あ、悪魔の分身体のシャドウリーパーが……! く、来るな、シャドウリーパー! 私を守れ!」
――ドガガガガガガ!!
――シュウウウウ……
「……」
「ぜ、全滅……!? かくなる上は追加召喚……」
「ふざけるな!!」
私の中によく分からないものが湧いてきた。
「な、なにを……」
「最初に私から何もかも奪ったのは貴様の方だ!! それを何が私に奪われたと!? 調子に乗るのもいい加減にしろ!!」
「な、な、な……ぐぇっ!?」
――ドガッシャァ!!
気がついたら私はあいつを壁へ投げ飛ばしていた。
だが、何かが湧いてくる。
そうか、やらなくてはいけない。ここで。決着の時だ。
「もういい……!! ここで、ここで!! 貴様を殺し、全てを終わらせてやる!!」
「ひっ、ひぃぃ!!」
剣を捨て、義手のブレードを展開しながら一気に詰め寄る。この速度なら外さない。
これで、終わりだ……!!
――ガキィィィン!!
「やめるのだ、アリーシャ。その手を引け」
もう一押し。もう一押しで奴を殺せる! なのに……!
「何故止める白銀龍!」
「……その義手の約束を思い出せ。ロイドと共に作るのだろう? その手でアヤとメアの手を引くのだろう? その手にこんな男の穢れた血を浴びせる気か?」
「!!」
約束、そうだ、約束だ。なぜ思い出さなかった?
「そうだ。だから……引いてくれ。いくら龍化した腕でも……お主の全力を受けては……長く……もたんのだ」
「あ、ああ……」
――ガシャン……
「それでいい。強き者よ。お主はこの国の、救済の光だ」
ダエグの言葉の意味はよく分からない。しかし、目のあたりが熱い。それに何か熱いものが頬を伝っている。
これは、なんだろうか?
あ、ロイドとアヤとメアがこっちに来ている?
拘束が解けたのだろうか?
ああ、ダメだ、意識が……
――――
「さて、お主の処遇を考えねばな」
「ひっ、ひぃ!?」
気を失ったアリーシャを3人に任せ、私はこの男をどうするか考えていた。
白銀龍として、この男を野放しにはできない。そして、アリーシャの友人としてもこの男を許すことはできない。
「お主は、我欲のために娘であるアリーシャを悪魔の生贄にし、あまつさえ失敗作と呼び、そしてまたアリーシャから奪おうとした……その罪はあまりに大きい」
「そ、そうだ、私はどうせ死刑だ。何をしたって意味はないぞ……!」
「そうだな、人の世のやり方ならそうだ」
この男をそのまま引き渡せばその通りになる。だが、それでは足りぬ。故に我は、我らしからぬことをする。
「お主には償ってもらう。いくら償おうと償うことのできない罪を、永遠の苦しみと共にな」
「な、そ、それは……一体……!」
「こういうことだ」
――ブチィ!!
――グリュッ!!
「ぎゃあああああああ!!」
「どうした? まだ右目と右足だけだ。お主には四肢の全てと両目を差し出してもらう」
「そ、そ、そんな……」
「お主がアリーシャから奪った分を考えれば足りぬくらいだ。覚悟せよ」
「あああああああああ!!」
両手、左足を同じくして引きちぎり、左目をえぐり出す。なにか喚いているが些細なことだ。
「ああ……あ……」
「仕上げだ。汝、永劫の責苦を味わい、円環にて獄熱に焼き切れ、獄寒に凍て散れ。『極獄・無間大紅蓮』」
「……!! ……!!」
なにか言葉にならない言葉を発している。このままこの男は永遠に苦しみ続けるのだ。そう、永遠に。
「……この男、悪魔に取り憑かれ骨の髄まで邪悪に染まったか。はねた血で我の四肢が穢れ焦げる音がする。だが、構わぬ。アリーシャの語った過去、それに比すれば些事も些事だ」
こんな血をアリーシャに浴びせることがなくてよかった。
アリーシャ、お主にはまだ知らないことが山程ある。
それを温もりと共に知ってゆけ。
穢れくらいは、我が代わりに背負ってやる。
――――
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