第18話 巨躯の黒馬と騎馬大会〜ダエグから貰った槍、なかなかいいわね〜
「今日の王都も賑やかでしたね!」
「そうね。活気があっていいことよ」
立食会の数日後、学園が休みの日に私はロイドと王都へ出かけていた。たまには散歩もいいだろうという判断である。
「我も今の王都が見られて嬉しかったぞ。あの小さかった町がここまでとはな」
「それはもう、数千年も経てばね」
白銀龍ダエグが感慨深そうにうんうんと頷く。私の中でしっかりと休めたのか人型の実体を出せるようになり、王都を一緒に歩いていた。
「まだこのように小さな男子の姿であるが土を踏みしめられるというのは良いな」
「回復すれば大きくなれるんですよね?」
「そうだな。アリーシャの特異な魔力を考えればそう長くかかるまい」
ロイドよりも一回り小さいダエグはそう言うが龍の感覚としての長さだとするとだいぶとかかりそうだ。
「ん? 2人とも、何か声がしない?」
「声、ですか?」
「お主にも聞こえておるのか?」
ダエグには聞こえているらしいこの声は私を呼んでいる。頭の中に語りかけてくるなんて魔力的に繋がっているダエグくらいのものなのだが。
とにかくも、声のする方へ行ってみよう。
――学園内、馬屋
「ここは、馬屋?」
「わわわっ、大きな馬が暴れてます!」
「ほう、あやつ……」
――バキッッッッ!!
――ドドドドドドド!!
あっ、馬繋棒が壊れてこちらに走ってきた。
私に一直線? ニンジンなんて持っていないけど。
「主! おお、我が主よ! 再びお会い出来るのを心待ちにしておりました!」
「えっ、貴方喋れるの?」
向かってきた馬は私の前で膝を曲げ、ひれ伏したような姿だ。たしかこの馬は……
「貴方、あの時の馬ね。魔力を流して頭を直接制御したのは謝るわ」
「いえ! それによって私は頭に天啓が走り、喋れるようになったのです! 主に初めて見つめられたあの感動をお伝えできるなんて!」
「見つめた? アリーシャさん、何したんですか?」
「急いでいたから速そうな馬を探してたの。そうしたらずいぶん元気が有り余っていそうなこの子と目があったのよ」
「それは目で威圧したんじゃ……」
威圧とは酷い。動物には優しくしようとなるべく敵意のないように目を合わせただけなのだ。
「ふむ、この艷やかな黒毛に強靭な巨躯。アリーシャよ、この馬に黒龍ウルの残滓を感じるぞ。話せるのはそれもあるだろう」
「黒龍ウル? 貴方、何か知っているの?」
「いえ、私は一介の馬に過ぎません! 詳しいことは存ぜず……申し訳ない!」
「黒龍ウルは我の旧友だ。長らく会っておらんがな」
ダエグによると、この王国の創建より遥か前に互いに別の地を平定しよう、ということでウルとは別れたらしい。話のスケールが大きすぎる。
「ウルのやつ、今はどこで何をしているのやら」
「久しぶりに会いたくなったのかしら?」
「そうだな、もう何千年と会っていないのだ。少々寂しくもある」
「一緒に来いというなら行くけど」
「はは、居候の身でお主の仕事の邪魔はせんよ。いつか、で構わぬ」
「その時は是非、私をお使い下さい! どこへなりともこの脚でお連れいたしましょう!」
「ええ、お願いするわ。えーっと……」
そうだ。この馬に名前をつけないと。
――10日後
「乗り心地は如何ですか、我が主よ!」
「ええ、ニール、悪くないわ。鞍がないとは思えないくらい」
「ご満足頂けて何よりです!」
黒馬との出会いから10日、私は彼にニールと名付け、学園の上級ダンジョンに潜っていた。
目的は言わずもがなレベリングだ。今は走力の確認のため草原エリアを全力疾走している。
「貴方のレベリングの基本が走ることだったのは都合がいいわね」
「はい! 速度にも持久力にも自信がありますので!」
「一応見てはいるけれど疲れたら言いなさい。魔力を分けるわ」
「はっ!」
ニールとは義肢と手綱を通して魔力が循環するように繋がっている。だから移動の指示などは魔力で直接出せるのだ。
手綱はなくても乗れるが安定感の向上と、循環の効率化のために持っている。
レベリングで思い出したが何とあの3人組は自分たちで別の上級ダンジョンに潜っているらしい。近しい学生が噂していた。
それになんと態度が大きく変わってグレイドとジェイスは私のことを「アリーシャさん」と呼んでいるそうだ。頭でも打ったのか? ウィルは何やら不安そうにしているらしいし。
「お主には驚くぞ。手綱に魔力回路を仕込むとはな」
「素材が耐えられるか心配だったわ……」
はじめにニールについていた手綱の素材はロイドによるとかなり上等な品だったらしい。
だが魔力回路の書き込みに耐えられないだろうからと、魔力インクは500倍に薄めた方がいいと言われた。
「よし、お主の騎馬も上達してきた。鞍なしでこれなら十分すぎるくらいだ。次を教えてやろう」
「助かるわ、ダエグ」
「まず馬上の戦闘で剣や斧は役に立たん。槍を使え」
「槍ね。使ったことはないのだけれど騎馬大会に間に合うかしら」
「我が槍を授けよう。概念魔力武装というものだ。頭にイメージを流す。使い方は自然と分かるはずだ」
「ずいぶん大雑把ね。まぁいいわ」
頭に意識を集中する。見えてきたのは2振りの槍。なるほど、これをイメージして……
――ヒュオオオ……
両手を広げ、左右に槍をイメージする。光が集まり、それが徐々に大きくなって槍を形作っていき……
――キィン!
「見事だ! 右手の赤き槍は轟槍ガングネーア、左手の茨の槍はエスピノドラド! 同時に顕現させたのは人間はお主ただ一人よ!」
「あらそう。で? どう使えばいいの?」
「もっと驚いてもよいと思うぞ……全くお主は」
呆れるダエグに槍の使い方を教えてもらう。どうやら基本の使い方は本当に基本らしく普通の槍術、強いて言えば馬上の戦闘に特化したそれのもののようだ。
「基本の飲み込みが早いな。その槍は投げても手元に戻り、慣れれば瞬時に出し入れもできる。そちらを練習するのがいいかもしれん」
「流石は主です! 負けていられません! それに、私も何か掴めそうです!」
ニールにも更に熱が入ったようだ。
このまま練習すれば月末の騎馬大会でもそれなりの成績は残せるかもしれない。
――月末
「騎馬大会優勝はアリーシャ・ダグライルさんです!」
「本当にいいのかしらね……あら陛下、こんにちは」
「アリーシャの優勝で文句はないけど、あれはなんだい? 地獄の前触れかい?」
表彰台に立って、さっきまでのことを思い出す。
事の発端はニールだ。レベリングで黒い雷を纏えるようになったニールは私の登場を印象的なものにしたいと言ってきた。
断るのも可哀想だったし、ニールの提案通りにやったのだがそれがマズかった。
「雷を纏う巨躯の黒馬を駆って戦場に現れ、左手に金色の茨を携え、右手で天に掲げた赤き槍から魔力を放つ姿は絵にはなるけど絶望の象徴みたいになるわね……」
「王妃様までそんなこと言わないで下さい」
2人してあんまりだ。
ロイドがカッコいいと言ってくれただけまだ幾分かマシである。
後は優勝トロフィーと隠し優勝賞品のオリハルコンの小さな欠片をもらって、そのまま表彰台から降りた。
これは嬉しい。少ないが義肢の改造に使えそうだ。ロイドと一緒にやってみよう。
さて、オークションの方はどうなっただろうか?
学内でも噂が時々流れてくるあたり相当な気がする。
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