第17話 オークション後編〜守られる、ってどういう気持ちなんですか?〜
――翌日、夜
「アリーシャさん、その節はありがとうございました」
「いいのよ。フィリーネさんがちゃんと動けた証拠だわ」
またしても連夜開催のオークション。今回はテオドリック騎士団大団長の主催だ。
「私からも感謝する。効率的に鍛える、というのは難しい」
「あのダンジョンでフィリーネさんがレベリングできたのは大団長がフィリーネさんを予め鍛えてくれていたからよ」
「偶然ですな。まぁ、最初の少数派遣の後にフィリーネから直接レベリングをして欲しいと言われたのには驚いたが」
「あの時は私も焦っていて……大将軍と大団長のお手を煩わせるわけにはいかなかったんですが、どうしても」
「なるほどね」
それにしても、何故ここにフィリーネがいるのか。それはテオドリックがフィリーネの義理の父にあたるかららしい。親族として観覧席にいるようだ。
聞けば、フィリーネは幼い頃に両親を亡くしており、テオドリックが引き取る形で面倒を見ていたという。騎士団に入ったのも彼の推薦があってのことだったそうだ。
「フィリーネ、このオークションでは滅多にお目にかかれないような品々が出る。しっかり見て目を鍛えなさい」
「はい。大団長」
オークションが始まると、フィリーネはオペラグラスを使わずに品を見始めた。
あんなに遠くの物が本当に見えているのだろうか?
「フィリーネさん? 貴女、見えるの?」
「ええ。これでも目はいい方なんです」
「じゃあ、あの琥珀に入っているのは何か分かる?」
「あれは蜂ですね。翅がもげています」
「凄いわね。メスの蜂よ。正解だわ」
なるほど、かなりいい目をしている。クロスボウの正確な射撃にも頷けるというものだ。
「アリーシャ様だって裸眼で見えているじゃありませんか」
「私のは義眼よ。生身でそれなら驚異的だわ」
「そう、ですかね」
「アリーシャ嬢……」
少し辛気臭くなってしまった。せっかくなのだから少し分かってきたオークションを楽しみたい。
「ふーむ、ミラージュトータスの皮が金貨10000枚。作られる鎧や魔法具を考えれば安いとも思いかねんな」
「そうなのね。よく汚れが落ちるからウエス代わりにちょうどいいのよ、アレ」
「雑巾にするんですか!? アレを!?」
「幻影の鎧や不可視のマントを作るのに使う素材なんだがな……」
相変わらず私の言うことには驚かれてしまう。いや、半分呆れられてもいるような。
と、新しい品が出てきた。またそれなりに大きなガラスケースに入っているのだろう。
「えっ、あれって……」
「クロスボウじゃない」
フィリーネが見つめる先には光と闇を纏ったクロスボウがあった。その目は今までのどれよりも輝いていて、手にしたいという欲求が見て取れるくらいだ。
「わぁ……」
確かにクロスボウ使いとなれば、SSSランクと言われたあれが欲しいと思うのも不思議ではないだろう。
「……欲しいか、フィリーネ」
「えっ! あ、それは……」
黙っていたテオドリックが静かに口を開いた。
その胸元に付いている勲章を外しながら。
「……いいえ、未熟な私にあのクロスボウはまだ使えません。だから、大丈夫です」
「そうか」
そのまま、クロスボウは別の参加者によって聖金貨100枚で落札された。
フィリーネはこれでよかったのだろうか。
――しばらく後
「さて、帰りましょうか。大団長、アリーシャさん」
「ええ、そうね」
オークションが終わり、会場の観覧席を立ち去ることにした。今はあの熱狂が嘘のように静かだ。
「フィリーネ、少し待て」
「は、はい、大団長」
テオドリックがフィリーネを呼び止めた。
すると懐から鍔のない短刀のような物を取り出した。
「これを持っておけ。護身の役には立つだろう。私が18の頃から使っていたものだ。ランクのない安物だが許せ」
「えっ!?」
「お前の心意気に何か贈り物をしたかっただけだ。受け取ってくれ」
「……はい! ありがとうございます、大団長! いえ、お父様!」
「そうか……そうか、お父様、か」
テオドリックは嬉しそうな、懐かしむような、どこか照れくさそうな顔をしていた。
――翌日、王城大広間
「ふう、疲れるわね」
「ですね。こんなに人が多いと」
私とロイドは連日連夜開催されたオークションの労いにと、王城での立食会に招かれていた。
まぁ立食会という名の社交の場だ。非常に疲れるが貴族社会ではどうしてもこういう形は必要らしい。
「色んな貴族やら豪商やらが話しかけてきてあしらうだけでも大変ね」
「仕方ないよ。オークションであんなに目立ったらねぇ」
「はぁ」
商売人にはフェリグ商会を通してくれといえば大体引き下がるし、貴族の中でいやに接触してくるのは反王政派の者たちだ。
王政派の人間は陛下から釘を刺されているらしく過剰な接触はしてこない。
「ロイドもよかったら色んな子に話しかけてみたら? 親に連れられて来ている同じくらいの歳の子もいるわよ?」
「うーん……僕はアリーシャさんと一緒がいいです。それに、王政派のエメラルニア家の人間が近くにいたら声も少しは掛けにくいはずです」
「それはそうね。ありがとう、ロイド」
「いえ! 僕でいいならいくらでも!」
そう言って胸を張るロイド。確かにロイドもレベル55、謁見の時のフィリーネと同じくらいだ。実際に強くなっているのだろう。
「ん? これはアリーシャ様、それにロイドも」
「あら、ライネスじゃない。今日はエメラルニア家長男として参加しているの?」
「ええまあ。流石に陛下主催の立食会、家督の継承をロイドに譲るとはいえ長男が出ないというわけにもいかず」
「大変ね……って、ロイドがエメラルニア家を継ぐの?」
「実は、そうなんです」
ライネスが言うには自分に魔法の才能がなかったこと、ロイドの魔法が極めて優秀で王国に有益であること、そして何より自分は騎士団勤めの方が性に合っているから、ということらしい。
「色々あるのね。ロイドもライネスも」
「家のことをロイドに押し付けるようにも思えるのが心残りですけどね」
「押し付けるだなんて。僕は騎士団で活躍する兄さんがカッコいいって思ってるんだ。だから大丈夫だよ!」
「そうか、ロイドは優しいなぁ」
ロイドの頭を撫でるライネスの表情は柔らかい。やはりこの兄弟は特別仲がいいようだ。
と、楽器の演奏が聞こえる。これは……
「どうやらダンスの時間のようだね。立食会といってもあるものか」
「ダンス、ね」
少しは学んだこともあるが実際やったことはない。社交の場にほぼ出たことのない私にそんな機会もなかったわけで。
「兄さん! アリーシャさんと一緒に踊ってきたらどうですか?」
「え?」
「アリーシャさんも、ほら!」
「わわっ」
ロイドに手を取られ、ライネスの手を握らされた。
「実践あるのみですよ、アリーシャさん!」
「ロイド……」
「本当は僕がいきたいですけど、僕はまだ習ってませんし。だから兄さんを貸しますね!」
「おいおい、ロイド」
「いつか絶対僕がアリーシャさんをリードしますから! 今は兄さんと楽しんで!」
ロイドに背中を押され、私たちはダンスの輪に入った。
「ロイドのやつ……アリーシャ様、不慣れでしょうが大丈夫です。足を踏んでも構いませんから」
「そ、そう……砕かないようにだけ気をつけるわね」
その後、自分がどう踊ったかはあまり覚えていない。
ただ、ロイドの言葉だけがずっと、頭に残っていた気がする。
――王城、とある一室
「アリーシャ、ここ数日のオークションはどうだったかな?」
「ええ、学ぶことも多かったですよ、陛下」
立食会の後、私は陛下と王妃様に呼ばれまたしても非公式会談、いや、お茶会をしていた。
「オークションはまだまだ開催する予定よ。私たちが絡まないオークションもフェリグ商会が主催で何とかしてくれると言っていたわ」
「なるほど。お世話をおかけします」
フェリグ商会も全力らしい。あんなに人が集まるオークションの主催なんて、大変だろうに。
「ところでアリーシャちゃん、何か考え事をしているようね」
「あっ……ええ、少々疑問がありまして」
「なんだい? 言ってみるといい。答えられることなら答えよう」
陛下と王妃様は優しい目を向けてくれている。
なら、そうね……
「守られる、ってどんな気持ちなんですか?」
ロイドの言葉に湧いた疑問。
『いつかリードしたい』
それは立食会のときに私を反王政派から実質守っていたロイドから出た言葉だ。
「ロイドが私をいつかリードしたいと言ったんです。彼は弱くても私を守っていた。でも私には分からないんです。守られる気持ちも、リードされる気持ちも」
「アリーシャ……」
「分からないんです。頼りになるとか、強いとかそういうことでもない気がして」
「……アリーシャちゃん、それはね、そばにいてくれて温かいと思えたなら、守ってもらえているのと一緒なのよ。いえ、それこそが始まりよ。一番最初の、本当に小さな温もりだけれど」
王妃様の言葉は柔らかく、だが力強かった。
そこに得も言われぬ説得力があった。
「なる……ほど。なら、ロイドはそうかもしれません」
「自覚するには時間がかかると思う。でも焦ることはないのよ。貴女と、ロイド君で見つけていけばいいの」
「はい……」
しばらく、沈黙が流れた。
だが、決して悪い沈黙ではなかった。
――30分後
「じゃあそろそろお開きにしようか」
「ええ。陛下、王妃様、ありがとうございました」
あれからもう少し話をして今日は解散ということになった。夜にもなってきているし、学園に帰らなくては。
「あっ、そうだ。そろそろ騎馬大会じゃないか」
「ですね。陛下もご観覧に?」
「うん。エルネと一緒に行く予定だ」
「一大行事ですね」
「まあね。そういえば学園に預けていた暴れ馬はどうしているかな……?」
「暴れ馬ですか?」
「ええ、珍しいからと陛下に献上されたのだけれど、物凄く暴れるから腕のいい調教師がいる学園に預けているのよ」
「とんでもない馬でね。近づくのも一苦労だった。もし乗りこなせるなら自分の馬にして構わないよ」
「私、騎馬はあまり得意ではないのですが」
ん? そんな馬、学園にいただろうか?
素直に言う事を聞く大人しい子ばかりだったように思うけれど。
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