第16話 オークション前編〜陛下、王妃様、私は娘じゃないですよ〜
「オークションってこんなに人が集まるんですね」
「そうだよ、アリーシャ。今回のオークションは特に大きいからね」
「主催が国王ともなると外国からもお客さんが来るのよ」
オークション会場上部の観覧席で陛下と王妃様からそのような話を聞く。この短期間で外国にも話が流れていたのか。
「ところでアリーシャちゃん、新しいドレスはどうかしら?」
「ええ、動きやすいですし有事にも対応できそうです。わざわざありがとうございます、王妃様」
「そういう感想なのね……まぁアリーシャちゃんらしいか」
困った様に王妃様が微笑む。このドレスは王妃様が王城の職人に頼んで急遽作らせたものだ。
オークションのドレスコードで必要だったらしく、王妃様からの手紙で聞かれたときに持っていないと答えたらこうなった。
というか王妃様、ちゃん付けとは。
「落ち着いた濃紺がよく似合っているよ。髪色と相まって実に美しい」
「子どもが2人とも男の子だから女の子を着飾らせたりなんてことに憧れていたのよ。若い内にこの人に側室を取れって言っても取らなかったんだから」
「すまないと思ってるよ……」
どうやら陛下と王妃様では王妃様の方が上らしい。頭が上がらないようだ。
と、オークションが始まった。ステージに最初の品が運び込まれる。あれは……
「さあ始まりました! 国王陛下主催オークション! まず一品目はこちらです!」
――バサッ
「おおー!!」
「なんと美しい!」
「遠目にもこの輝きとは!」
「こちらはダンジョン産のSランク、ブルーローズ鉱石です! 鑑定結果は驚異の純度99%! 金貨50枚からスタートです!」
「70枚!」
「85枚!」
「92枚!」
あれよあれよと金額が上がっていく。
こ、こんなものにそんな金貨を払うのか?
「最初から凄い物が出るわね」
「そんなにですか? 王妃様」
「ええ。ブルーローズ鉱石といえば宝飾品にもなり、武具にも使える、価値の幅の広い物よ。私も持ってはいるけどあの純度と大きさには及ばないわね」
「へぇ、魔力の少ないハズレの石ころではないんですね」
「は、ハズレの石ころって、アリーシャちゃん……」
あれはまだ私がダンジョン潜り始めの頃に見つけて使おうとした石だ。魔力を感じたから魔力回路に使えるかと思い大量に集めたが魔力が少なすぎて使えず倉庫に押し込んだままだった。
その後も金額は膨れ上がり、結局金貨200枚で落札された。不思議なものだ。
「こんな調子がずっと続くのか、アリーシャ……」
「恐らくは。なんというか、ごめんなさい」
眉間を抑える陛下から察するにこの後も大量の金貨が飛び交うのだろう。
――数時間後
「さて! ここまでオークション史上最高ともいえる金額ばかりが出ました! 今日はこれで最後です! 大目玉、ミスリル銀の天然インゴット!!」
「何ぃ!?」
「ミスリル銀だって!?」
「しかも天然インゴットよ!?」
「見るだけで一生幸運になれるっていう!?」
「物が物ですので入札は聖金貨のみとなります! 聖金貨100枚から!」
今まで色んな魔石や魔物の素材、魔導具という名のガラクタが出てきたがそのどれの時よりも歓声が大きい。
というか入札が聖金貨のみとは。金貨の50倍の価値がある上に、そもそも儀式やお守りになるといった貨幣価値以上の価値があるものを、そんな数でやり取りするとは。
「て、て、天然インゴットぉ!? あの大きさの!?」
「陛下?」
「はっ、いやすまん。驚きが隠せなかった」
「あら〜、私は夢でも見ているのかしら」
「王妃様、王妃様、現実です現実」
2人の反応も大きかった。後ろに控えていた解説補助役の技師たちも震えている。
「アリーシャ、あれは君にとって……?」
「あれですか? 現状では一番いい素材ですね。3倍精錬して今の義肢の骨格に使ってますよ」
「道理で強力な義肢なわけだ……いや待て、軽く流したが3倍精錬と言ったか!?」
「ええ、そのままだと骨格自体と、魔力回路への強度に満足できなかったので」
「……ねぇ、後ろの名技師の方々、同じ事ができる?」
王妃様の問いかけに、技師たちは実質できないと答えた。やるにしても複雑な魔力回路を用いた巨大な精錬施設が必要で、動かすにも膨大な魔力を使い、その上で2倍が限度とのことだ。
「アリーシャの義肢は国宝をも超える存在だな」
「そうでしょうか? まだ改良の余地はありますよ」
「そうなの……?」
2人して眉間を押さえてしまった。
何か変なことを言っただろうか?
結局、聖金貨150枚での落札だった。
凄いこと? なのだろう。
――翌日、夜
「やぁロイド! 久しぶりだなぁ!」
「アグラル大将軍! お久しぶりです!」
連夜開催のオークション2日目、私はロイドとともに大将軍主催の観覧席に座っていた。
「しかし驚きました。大将軍がロイドの実家と親交があったなんて」
「ん、そうだな。若い頃の戦でロイドのお祖父様に世話になってからよくしてもらっている!」
「大将軍の方が、伯爵のエメラルニア家より立場は上なのに」
「命を助けてもらった恩に立場も何もないからな!」
聞けば、アグラルは若い頃の戦で瀕死の重傷を負ったのだがロイドの祖父、ライオネル・エメラルニアに救われたようだ。
「お、そろそろオークションが始まるぞ」
「今日は武器の素材や武器そのものですよね?」
「らしいわね。また騒がしくなるのかしら」
昨日と同じくオークションが開始され、品が運び込まれる。どの品にもたちまち金額が跳ね上がっていく様子は昨日と一緒である。
「SSランクのレイジングドラゴンの鱗が金貨10000枚か。妥当といえば妥当だが恐ろしいな、あの輝き」
「アリーシャさんは何に使ってるんでしたっけ?」
「あれは細かく粉砕して研磨剤にするのよ。悪くないわね」
「名工でも加工に四苦八苦する強靭なあれを粉砕か。その上研磨剤とはな……恐ろしいのはアリーシャの方かもしれん」
他にも加工材料の話をしていたら一段と大きな布のかかった品が出てきた。
と、布が外された瞬間、アグラルが今までとは違う驚愕の表情を浮かべた。
「あれは!! 俺が亡き妻と探し続けた伝家の双剣の片割れ!!」
「そうなんですか?」
「ああ、俺が持つのは火の剣、あれは水の剣だ。ちょうど妻が得意とした属性と同じだ」
話している間にも凄まじい勢いで金額が上がっていく。あら、昨日と同じく聖金貨まで出てきた。
それでも止まらず、龍金貨まで持ち出された。どこまで行くつもりだ?
「龍金貨3枚! 龍金貨3枚です! 他に誰か入札は?」
流石にそろそろ終わりか。とんでもない貨幣が出てきたものである。
でも大将軍がこれを持てないのは少しもったいない……
「大龍金貨5枚だ!!」
会場に雄叫びのような声が響いた。これには会場も静まり返る。で、声の主はというと……
「だ、大龍金貨5枚? ど、どちらの方ですか?」
「俺だ!! ここにいる!!」
「だ、大将軍!?」
「自らお買い上げに!?」
「わわわっ! こっちに来る!」
アグラルは観覧席から飛び降り、ステージに向かって一直線に進んでいった。
「代金はこれでいいか?」
「た、確かに大龍金貨ですが、これは国王陛下から賜る特等勲章では!?」
「特等だろうがなんだろうが構わん! それより剣に触らせてくれ」
「は、はい、只今!」
ガラスケースが外され、その刀身が空気に触れる。
漏れ出た魔力の影響なのか少し冷え始めたように思う。
「おお……アイリよ。ついに俺は見つけたぞ。ああ、懐かしい、この心地よい冷たさ、お前の魔法を食らったときを思い出すよ……」
アグラルは剣を抱き締め、そのまま跪いた。
その姿は大将軍というには少し頼りない、大きな背中だったように思う。
あまり合理的とは言えないが……アグラルが満足ならそれでいいのかもしれない。
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