第15話 オークションへの準備〜ほとんど国家規模のものになるような〜
「いやぁ、またお会いできて光栄ですよ。アリーシャさん」
「ごめんなさいね、あの時は貴方が商会のトップだなんて知らなくて」
「僕もまた会えて嬉しいです、リグさん! いや、アルトラムさん!」
「いやだなぁ、リグでいいよ。僕たちの仲じゃないか」
王都に戻って3日後、私とロイドはフェリグ商会の一番いい応接室に通されていた。そう、私の倉庫にあった素材の取引である。
と、その取引の前に少し思い出話を。ロイドはリグと旅の途中で一緒にお風呂へ入るなど特別仲良くしていたため、再会の喜びからか楽しそうに話をしていた。
「さて、思い出話はまた今度するとして……アリーシャさんが持ってきてくれた素材のことなんだけど」
「ええ、トライスはとんでもない品々と言ってはいたわね。本職のお眼鏡には適ったかしら?」
「そうだね、正直な事を言おう。フェリグ商会としては買い取れても今日までに持ち込まれた分までかな」
「あら……まだ屋敷にあるのに。やっぱり素人保管では価値がなくなってしまったかしら」
フェリグ商会に全量買い取ってもらえない、となると他の商会にも話をつけなくてはならない。一手間かかるが仕方ないだろう。
「そうね、別の商会に話をしないと。そうだわ、リグ、話を通しておいてもらえないかしら?」
「ん? ちょっと待って。アリーシャさん、何か勘違いしてないかい?」
「え? 状態が悪いから買い取れないんでしょう? だったら在庫処分として他のところに売らないと」
「違う違う! 物が良すぎるんだ。こんなのがまだ山のようにあるんなら僕の商会が破産してしまうよ。すまないね」
何やら申し訳なさそうにリグが謝ってきた。聞けばどこの商会に行っても同じことになるし、そもそも適正価格を提示するかどうかも怪しいらしい。
「僕はアリーシャさんと縁があるし、目的も分かるからどうしてもというならある程度即金で買うことも厭わないけど……今ある分全部ならこの商会王都本部の地下金庫を3つ開けないと金貨が足りないんだからね」
「あら、それは凄いわね」
「本当に分かってるのかい? 小さな荷馬車1台分で商会の現預金が3割消し飛ぶんだよ?」
「すみません、そのあたりにはまだ疎いもので……」
「トライスの言う通りの人だね……王国の公式金貨箱、分かるかい?」
「ええ、それなら。1箱1000枚入る金貨箱でしょう?」
「それが3000箱分だよ。今回の分でね」
「ええっ!? リグさん、それって!」
「は?」
1箱1000枚、それが3000箱、つまり金貨300万枚である。ロイドも驚きのあまり飛び上がった。あんな小さな荷馬車の量で? いや、何かの間違いなのでは?
「とにかく、それくらいとんでもない金額なんだ。分かってほしい」
「ええ、まぁ、なんとなくは。で、どうしたらいいんですか?」
「切り替えが早いね。方法はシンプル、オークションだ。それも国王主催のものだよ」
「なるほど、オークションですか」
「ああ。事情もあるし商会としての手数料は1割でいい。ただ、王国側の手数料がね」
「手数料、ね」
「学園長さんに相談してみませんか?」
そうだ、ロイドの言う通り学園長経由でなら陛下に直接進言してもらえる。手数料も何とかしてくれるかもしれない。
「ありがとう、リグ。色々教えてくれて」
「なーに、慈悲深い代官様のお手伝いができて僕も嬉しいよ」
慈悲深いとはなんだ、慈悲深いとは。そんなことをした覚えはないのだが。
まあいい、学園に戻って……そうだ。
「そういえばリグに見てもらいたい物があるんだったわ」
「へぇ、フェリグ商会への直接売り込みかい?」
「そんなのじゃないけど……これよ」
「わぁ、綺麗な花ですね」
トランクケースからガラス筒に入れた一輪の青い花を取り出す。せっかく持ってきたのに忘れては意味がない。
するとリグの表情がみるみる変わっていく。
「なっ!? この花をどこで!?」
「もちろんダンジョンよ。倉庫の整理をしていたら見つけてね。トライスに見せてもらったフェリグ商会の紋章に同じ花があったから何か知っているかと思って」
「知っているも何も! これは僕を拾ってくれた先代の父の更に父、それより前のフェリグ商会立ち上げの昔話に出てくる花だ!」
聞くところによれば、フェリグ商会は創業者が「夢に出てきたこの美しい花をいつか必ず見つけ出す」と決意し作り上げたものらしく、今でも一族で探し続けていたようだ。
「なるほど、ね」
「正直、どんなお宝よりお宝だよ。去年死んだ先代に見せてあげたかった……」
「それなら墓前に供えてあげなさい。私には使い道のないものだし」
「そんな、いいのか!? 代金がいるな……聖金貨を、いや使い勝手が悪いな……そうだ、現預金の地下金庫を開けられるだけ開けて……」
「馬鹿言わないで。さっき3割消し飛ぶからってオークションにしたのに。商会を潰したら先代に失礼よ」
「そ、そうだな。すまない。しかし、どうしたら……」
さっきまで冷静だったリグが動揺している。よほど重要なのだろう。なら、そうだ、こうしよう。
「これから色々と資金の取引があるわ。貴方の商会を銀行と帳簿代わりにしてお金を借りたりなんかの面倒事をやってもらうのでどうかしら?」
「わ、分かった。ずいぶんとアリーシャさんには借りを作ってしまうね。商会として、私個人として貴女にずっとついていく覚悟だ」
「そんな、いいのよ。じゃ、今度こそ行くから。またね」
「リグさん! また今度!」
学園長に話をしなくては。
その前に少しロイドと出店にでも寄ろう。休憩も必要だ。
――翌日
「おお、アリーシャ、久しぶりだね」
「いらっしゃい、アリーシャさん」
「いえ、こちらこそ、陛下、王妃様」
学園長にリグ商会でのことを話すと直接陛下とお話した方がいいと言われ、すぐさま非公式会談が設けられた。
昨日の今日なのだが、お二人のスケジュールなどは大丈夫なのだろうか?
「さて、オークションの件だが王国としても手数料は1割でいい。飛び地の領民のために使ってやってくれ」
「開催頻度も特例で増やすし、私の主催でもオークションを開催するわ」
「すみません、ありがとうございます」
オークションの懸念材料はかなりあっさりと払拭された。だが少し別で気になることがある。
「あの、陛下と王妃様はなぜ私の両隣に?」
「それはだね……」
「だって……」
お二人は私を密着して挟むようにしてソファに座っている。人払いしているからいいがこんなところを見られたら大変だ。
「報告にあったアリーシャの父親の言い草があまりにも許せなくてね」
「本当に、本当に聞いたときは私も胸が締め付けられるようで……」
「は、はぁ」
「何かしてやれることはないかと考えた。だけどもこの身は王、できないことばかりだったんだ。それが悔しい」
「だからせめて、こうやってそばにいてあげられれば、って思ったの」
「そ、そうですか」
そんな2人して涙ながらに語られても私にはよく分からない。陛下なんて報告を聞いた瞬間私の父親を殴りにいこうと飛び出したし、王妃様も私を探して迎えにいこうとしたそうだ。
子を持つ親として私の父親も母親も許せないし、私を抱き締めないといけないと思ったそうだが、親とはそういうものなのか?
「とにかく、今はダグライル伯爵に徹底した監視をつけるくらいしかできない。許してくれ」
「いえそんな、それだけで十分ですよ」
「今は王室付きメイドのアヤとメアにも手を出してこないよう見張っておきますから安心して」
「ありがとうございます、王妃様」
本当にそれだけで十分だ。むしろあまりに厚遇なのでは、とも思う。
そうして会談は終了となったが、またしても王妃様に大量のお菓子を頂いてしまった。
――王城、中庭
「2人はここにいる、って聞いたけど」
王城の中庭で人を探す。陛下がアグラルとテオドリックに是非会ってやってくれと言っていたので指定されたこの場所に来たわけだ。
「誰もいないわね。あら、ちょうどテーブルが」
中庭に置かれたテーブルの椅子に腰掛ける。少し来るのが早かったのかもしれない。王妃様からもらったお菓子を食べて待つとしよう。
――ザワザワ……
「いい風ね」
中庭を吹き抜ける風は柔らかく、しかしどこか夏の熱と水面の清々しさが僅かに混じるような……
「フレイムクロス・剛断!!」
「烈剣・水斬!!」
――キィン!
「遅いわよ、大将軍に大団長?」
左右からの2つの属性の挟撃を、義手ブレードと剣で受け止める。なるほど、そういうことか。
「はっはっは! 防がれてしまったか!」
「全く敵わんな」
「いえ、直前まで分かりませんでしたよ?」
「そうか! 直前にはバレていたか!」
「恐ろしい洞察力だ……すまない、ご同席しても?」
「ええ、いいわよ」
アグラル大将軍とテオドリック大団長が席に着き、いいところにメイドが現れたのでお茶にすることにして、何ということはない話が始まった。
どうやら2人は私にリベンジしたかったらしい。だからレベルまで上げて新技を編み出し、人払いもして私に挑みかかってきた。
「いやぁ、普通に話すのでもよかったのだがどうしても手合わせをしたくてな!」
「不意打ちは褒められたものではないが、アリーシャ嬢がどう反応するか、興味が抑えられなくてな」
「なるほどね。でもレベル80なんて凄いじゃない」
「ライネスには負けられんからな! あいつもレベルだけなら将軍クラスの65だ、うかうかしておれん!」
「フィリーネもレベル60、いつまでクロスボウの矢を斬り落としてやれるか……」
「あら、あの2人そこまで上がっていたのね」
どうやらダンジョンでのボス討伐で大量に経験値を稼いだらしい。確認していなかったから驚いた。
「三馬鹿もレベル40だ。王子はともかく俺の息子とルードヴィルの息子まで」
「一体どんな鍛錬を?」
「そうね、こういうのだけど」
説明したらあり得ないくらい驚かれてしまった。効率的にやっているだけなのに。
というか大将軍が三馬鹿と言っていいのか。私でも飲み込んだのだが。
「恐ろしいレベリングだな……」
「直属の部下にやらせたら辞職しますな。ああ、そうだ、陛下からオークションのことを聞き及んでいる。そこで……」
2人からオークションについて、大将軍主催のものと大団長主催のものも開催すると言われた。ありがたいがこの国のトップばかりのオークションだ。
あれ、そういえば……
「ルードヴィル大臣はどうなさるのです?」
「ああ、ラリーか? あいつはやらんと言っていた。頭の硬いやつだ」
「あやつは昔からああでしてな。全く気に入らん……」
トップ内でも意見の違いはあるらしい。大きい組織なのだからそれもそうか。
さて、そろそろお開きだ。
オークションでいい値がつくといいのだけれど。
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