第14話 資金問題をどうにかしたい〜あ、倉庫のアイテムが小銭にはなるかも〜
「やぁトライス君、いきなり呼び出してすまないね」
「貴方はいつものことでしょう? 学園長」
今は学園長をしている私の上司の呼び出しで、私は夜の王立学園に来ていた。
「例のあの令嬢……アリーシャさんが代官代理を求めていてね。条件的に君しかいないんだ。引き受けて欲しい」
「どうせもう準備されてるんでしょう? 行きますよ」
「話が早くて助かる。明日には出発して欲しい。乗りやすい馬を用意しておいたから」
相当急ぎのようだ。
ダグライル領の飛び地、やはり状況は良くないのか。
「ああそうだ、アルトラム氏から伝言だよ。淡白だが情のある稀有な代官の少女を支えてやって欲しい、とね」
――――
――飛び地、代官の屋敷
「ふーむ……なるほど。問題は山積みのようだね」
「ええ。私も全体像は把握しきれていません」
「いや、この短期間でここまで情報があるなら良い方だ。目処は立てられると思う」
白銀龍ダエグを体に宿らせた翌日。
彼が少し眠らせて欲しいと言ってなりを潜めた内に学園長に頼んでいた代官代理の人間が来たわけだ。
話をしている限りでは条件に合致する人物と見ていいだろう。
「それにしてもお早い到着でしたね」
「ああ、学園長に急かされてね。それにしても凄い条件だよ、領地経営に明るく誠実で勤勉、領民の目線に立ち、自分に領地経営を教えられる人物、だなんて」
「そうでしょうか? 私は代官としてはズブの素人なのでこの先効率的に飛び地を再建するにはそれがいいかと思っただけですよ」
「思っててもできないよ……」
トライスによれば代官、それも更に代理となれば自分の言うことを聞いていればそれでいいとする者がほとんどらしい。教えてくれなど口が裂けても言わないそうだ。
「とにかく、トライスさんがきてくれたおかげで何とかなりそうです。今はお任せするしかないので申し訳ないですが」
「うん。現段階の情報をまとめるにしてもしばらくかかるしアリーシャさんは御三方のレベリングに注力してもらえば」
「ええ」
「しかし、まとめなくても分かるのは資金の問題だね。どうしたものか」
「やはり資金ですか」
前の代官がかなり着服していたらしいのと、追い出された時に金庫から現金を持っていったため非常に資金繰りが厳しいらしい。
どうしようか。あ、そうだ。
「トライスさん、それでしたら私の私財を売ってしまいましょう。多少足しになるはずです」
「え、いいのかい? しかし、君の大切なものなのでは?」
「そうでもないですよ。あまりお金にはならないと思いますが」
あの屋敷の倉庫、そこにある物を売れば村の一つに当面の食料くらいは届けられるはずだ。
――秘密の倉庫
「こ、これは……!!」
「どうでしょうかね? 小銭にはなると思いますけど」
「こ、小銭なんてとんでもない!! SSランクのピュアマナクリスタルが箱いっぱいにまるで砂利みたいに!? こっちの甲殻はまさかSSランクのレイジングドラゴンの!?」
「そんなに驚きます?」
「こんな素材の数々がショーケースにも入らず路地裏の雑貨屋みたいに押し込まれているなんて……」
雑多とは失礼な。これでも整理した方なのだ。というか路地裏に行くことがあるのか、トライス。
しかし冷静な彼が興奮を隠せないまま私の秘密倉庫の中にある素材を次々と見て回る。あまり不用意に動かないで欲しい。
天井まで棚いっぱいに詰め込んでいて危険だから秘密にしてアヤにも教えなかったのだ。
「ん? この砕けた魔石は……」
「ああ、それですか? 義肢の改造に使おうとしたりして耐えられなかったクズ魔石ですよ。廃棄忘れです」
「こ、これがクズ魔石ぃ!? さっきのレイジングドラゴンのものもあるじゃないですか! それを廃棄!?」
「はい。ダンジョンに捨てるんです。多少養分になって魔物がほんの僅かに強くなりますよ。塵も積もれば、ですね」
「そ、そんなことが」
「後で捨ててきますね。売れないでしょう、こんなの」
「いや売れる! 良い値で売れるから捨てないで!」
「ええ……こんなゴミがですか?」
世の中何にどんな価値がつくか分からないものだ。ゴミにすら価値がつくのかと感心する。そういえばSSランクとか言っていたな。それはなんだろうか?
「魔物ってランク付けとかがあるんですか?」
「ああ、もちろん。SSランクともなれば大型魔物なら大規模災害級だ。王国の主戦力を投入するし、小型魔物なら最高ランクSSS級の冒険者を雇うこともある」
「そうなんですか。ではここにある素材は大体がそんな感じ、と」
「そうなるね。いや、驚きの連続だ。じゃあそろそろ……」
「あ、まだ地下倉庫があるので。ここより何倍か広いですけど」
「へ?」
義肢の改造のためにダンジョンからは魔物以外の素材も集めている。
素材を屋敷に持ち込むためにダンジョン付近の森から地下部分までトンネルで繋いでいたから集められた、というのもある。
「君には驚かされるよ」
「何年もダンジョンに潜っていたらこれくらい普通だと思いますけどね」
「いやいや……」
トライスは呆れ顔だ。王城にならこれくらいの品なんていくらでもありそうなものだけど。
――数時間後
「さて、一通りは見終わったけど、ね」
「そうですね。また問題が出ました」
数時間ほど倉庫を見て回り、代官の屋敷に戻ってきた私たちは出てきた問題について話し合っていた。
「運送の問題、どうしましょう?」
「物が物だからね。騎士団で運ぶにしても、応援を呼ぶにしても時間がかかる」
トライスの鑑定ではどれもこれも貴重品、一部を運ぶにしてもそれなりの護衛と馬車が必要であるとのことだ。
トライスが持ってきたマジックバッグに入れようとしたら物のランクが高すぎるためかほとんど入らずじまいだったのも痛手だ。
「伝書鳩ですぐに応援をもらえるよう学園長と陛下に直接お願いしたよ。ただそれでも1週間はかかるだろうね」
「そうですか。仕方ありませんね。御三方のレベリングをしておきましょう」
「私も領民たちに会いにいきたいが今はあの品々を一品づつ鑑定しながら品出ししないといけないな」
「ええ、そこはお願いします。私もお手伝いするので」
「レベリング指南を8時間もやるのにどうやって時間を確保するんだい?」
「簡単ですよ。レベリング指南の開始時間を後ろにして、午前中に品出しをやればいいんです」
何も難しくはない。睡眠時間を多少削るが経験値増加の装飾品を体力回復効率増加の装飾品に変えて眠ればいいだけだ。それなら短時間睡眠でも十分に寝たことになる。
「無理だけはしないでね……私も同じように動いた方がいいかい?」
「やらなくて大丈夫ですよ。3人組はともかく、トライスさんには万全でいて欲しいので。それより次の問題ですね」
「ああ、売却方法の問題だな」
トライスによると恐らく莫大な金額になるため、どのような方法になろうと大きな商会を通す必要はあるらしい。だがこんな話をいきなりしてもやはり時間がかかるようだ。
「なるべく早く資金は欲しいわね。うーん、あまり高くないものなら買い取りが早い個人の商人なんかが……あっ」
「アリーシャさん、何か心当たりが?」
「ここに来る時リグという行商人のお世話になったんです。飛び地の事情にも詳しかったようだし、話は通しやすいかもしれません」
リグはこの地の領民に良くしてくれていた。なら協力もしてくれるかもしれない。それに、今までのことを考えれば多少こちらが損をしても儲け話に絡んでもらっていいだろう。
その提案を聞くと、トライスは少し考え始めた。
「リグ? もしやその人、護衛もつけずに行商していませんでしたか?」
「そういえば。魔除けと惑わしの結界石があるから大丈夫、とか言っていたような」
「はぁ〜、あの人は……アリーシャさん、その方は王国三大商会の一つであるフェリグ商会のトップ、アルトラム・フェリグ氏ですよ」
「えっ、そうなんですか?」
トライスが言うにはリグはトップでありながら自分の足で現地を回らなければ分からないことがあるといい、時折商会を抜け出して個人的に行商するような人物であるらしい。
更に剣と魔法もかなりの腕らしく自衛がほぼ完璧にできるため、護衛をつける費用を抑えて困窮する村々を助けて回ったりしているそうだ。
「恐らくアルトラム氏は今回の飛び地への騎士団の派遣と3人組の何かがあることを独自ルートで聞きつけて行商に向かったのでしょうね」
「なるほど。じゃあ私の正体もバレていたのでしょう。で、品定めでもされた、と。領民への私の態度はあまり褒められたものじゃなかったかもしれない、と」
困窮する村々の領民たちへは情けをかけるつもりではあるが現状ではどうしようもないということや時間がかかるということを淡々と説明した節がある。
厳しい言葉をかけられても眉一つ動かさず、ただ両親と代官の愚行を断罪し、謝罪するだけの新代官では頼りないと見られてもおかしくはない。
「アルトラム氏は貴方を信用していると思いますよ。学園長から、彼からの伝言で『淡白だが情のある稀有な代官の少女を支えてやって欲しい』とも聞いていますから。改めて私からも申し添えておきますよ」
「ありがとう、トライスさん。貴方が代理でよかった」
さあ、そうと決まれば忙しくなる。3人組には更に効率的にレベリングしてもらうとして、王都へ戻った時のことも考えなくては。
――――
「あの代官のご令嬢、何かあると思ったけどここまでとはね」
伝書鳩の書簡を見て、息を飲む。
「レベル255、というのは知っていたけどSSランクの素材まで持っているとは。でも驚くべきはそこじゃないな」
確かに素材は超級品だ。トライスが言うのだから間違いなく信用できるが、それ以上にアリーシャ嬢の心意気だ。
「素材の価値を知ってでも、領民のためにそれを惜しみなく売る。その上、領民に良くしていた行商人を打算ありとはいえ儲け話に噛ませてやりたい、なんてね」
およそ普通の代官にできることじゃない。領民への態度の時もそう思ったが余計に思わされてしまう。
「こりゃあ、話に乗るしかないね」
かなりの儲け話だ。
けど、ちょっとばかり王国も絡んできそうだな。
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